自分証明書の最後の課題

ちびまるフォイ

自分らしい回答

「あんたもう20歳になったんだから、自分証明書作りにいきなさい」


「自分証明書?」


「それがないとあんた、なにもできなくなるよ」


その後調べたネットの記事から自分証明書を知った。

自分が自分であり、これからも自分であることを証明するカードらしい。


これがないと買い物はもちろん、ひとり暮らしも認められず

男女交際、就職、結婚あらゆる自由が制限されてしまう。


自分であると証明できない人間は、自分の人生に責任を持てないやばいやつだとして扱われるからだ。


まだ人生の半分も経験していないのに、

社会不適合者になるまいとさっそく自分証明書センターへやってきた。


「こんにちは。自分証明書を新規で作成されますか?」


「はい、よろしくおねがいします」


「では教室に入ってください。ご自身に関するさまざまな問題が出されます。

 ぴったり100点満点取れば合格。自分証明書を発行させていただきます」


「もし、100点取れなかったら……?」


「3回までは再チャレンジできます」


「取れなかったら!?」


「そこまでは面倒みきれません♪」


急に爆弾解除のためにコードを切る人の気分になった。

ちょっとでもミスれば自分の人生が幕を閉じてしまう。


教室に入ると自分用の机が一脚だけあり、テスト用紙が裏返しで準備されている。


「よし……自分のことを答えればいいんだな。だいじょうぶ、できるに決まってる!」


テスト用紙をひっくり返した。

そこには100問の自分に関する問題が載っていた。


「は、はじめて行った遊園地を次から選べって……覚えてるわけないだろ!?」


問題はどれも自分に関する内容ではあった。

とはいえ、昔過ぎたり意識していなかった過去のことを問われても答えられない。


大好きなゲームキャラの名前はすぐに覚えられても、

さして興味のない数学の公式を覚えてないようなものだ。


テスト時間ぎりぎりまで粘ってみても、解答用紙には空欄があった。


「終わった……満点じゃないとダメなんだ……」


結果は回答結果が戻ってくるよりも早くに悟った。

チャンスはあと2回。


俺は次のチャレンジへと挑む前に母親に電話した。


「もしもし、お母さん!?」


『あんたどうしたの急に電話して』


「それより聞きたいんだ。俺がはじめて行った遊園地ってどこ!?」


『そりゃあんた〇〇リゾートパークでしょ。

 お化け屋敷で大泣きして、お母さん大変だったんだから』


「そうだったのか!!」


『そんなこと聞いてどうするの?』


「いいから、まだまだ聞きたいことがあるんだ」


自分の幼少期にまつわるさまざまな問題を母親に聞いて答えを引き出した。


もうさっきのような醜態はさらさない。

すべての問題の答えを覚えたので完全に準備できた。


「さあ、リベンジといこうか!!」


ふたたび2回目のテストにのぞんだ。

机に用意されていたテスト用紙をひっくり返す。


そこにはさっき頭に詰め込んだ同じ問題が……。



「な、ない!? さっきと全然ちがう問題じゃないか!!」


1回目のテスト問題と、2回目のテスト問題はまったく別物だった。

母親に聞いたさまざまな答えもここでは意味をなさない。


「自分が一番最初にしたケガなんてわかるわけないだろうがーー!!」


テスト時間の最後まで考えてみても答えは見つからなかった。

わからない箇所は当てずっぽうで書いてみたものの手応えはなかった。


採点が終わると、電光掲示板に『不合格』とバカにされたように掲示が行われた。


「ちくしょう! わかっていたよ! どうせ不合格だって!!」


「次が最後のチャレンジです。どうしますか?」


「うぐぐ……」


今度100点取れなければ、自分が自分だと証明できなくなる。

それだけはなんとしても避けたい。


けれど3回目のチャレンジもおそらく問題文は変わるだろう。

どれだけ自分について学んでいたとしても1問たりとも間違わずに答えられるのだろうか。


「じ、時間をもらってもいいですか……?」


「かまいません。でも1日以上間を開けてしまうと試験放棄とみなされます」


「わかりましたよっ!」


いったん自宅に戻って自分の過去のアルバムや経歴を引っ張り出した。

その様子に母親は驚いていた。


「あんた帰ってくるなり卒業アルバムひっぱりだして……いったいどうしたの?」


「俺は俺のことをしっかり答えられなくちゃいけないんだよ!

 どんな問題が来るかわからないんだから!」


必死に自分の情報を頭に叩き込んだがしょせんは付け焼き刃。

テスト前日に教科書を覚えようとするくらいの無駄なあがきだった。


もう残り時間がなくなったとき、こんなことは無駄だと悟った。


「ダメだ……とても覚えきれない……。せめてどんな問題がくればわかれば……」


そのとき、ふと疑問がわいた。

自分証明試験の問題を作っているのは誰なのか、と。


しがない成人したての一般人の過去を細かく知っていないと問題は作れない。

それを縁もゆかりもない人が問題を作れるのだろうか。

無理に決まっている。


だったら誰が問題を作っているんだ。


「あっ……まさか」


ピンときた。

ただひとりだけ、あらゆる自分に関する問題に答えれた人がいるじゃないか。


俺は母親が外出する理由を作ってから部屋を物色した。


「……やっぱり!」


洋服タンスの奥には封筒の中に入っていた問題用紙が入っていた。

見覚えのある問題文が書かれている。それに3回目の問題用紙も。


「どおりでやたら問題文の内容が子供の頃ばかりだと思った。

 成長して手がかからなったら思い出から問題作りづらいものな」


残り時間で自分の3回目の問題を覚えるのはわけなかった。

出題内容はすべて自分のできごと。


今は覚えてなくても問題を見たことで、押し込まれていた記憶が蘇る。

そうなってしまえば問題も答えもするりと頭に入っていく。


「ふふふ。ばっちりだ。これでもう満点まちがいなし!!」


ふたたび自分証明書センターへと戻った。


「次が最後のチャレンジですよ。覚悟はよろしいですか?」


「今度はもう大丈夫です」


「たいした自信ですね」


「バカにしないでください。問題文はあくまでも自分のことでしょう。

 俺はこの世界の誰よりも自分のことを知っている。

 こんな問題、今度こそ100点満点でつっかえしてやりますよ!!」


自信満々にたんかを切り、最後の試験会場へと足を運ぶ。

一脚だけ用意されている机に座り、最後の問題用紙をひっくり返した。


3度目のチャレンジの問題はたった1問だった。

その1問にだけ答えられれば合否が決まるものだった。




問題 (1問100点)


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