記録 証言A






 ああ、あの家ですか。あの家は随分と前から使われていませんよ。そうですね。

まあ……ただよく覚えていますね。こんな田舎じゃ滅多にないことですから。

最後は……大体十年前だったかな。十年前、あの家には家族が暮らしていましたね。

その家族、ですか。私の記憶では五人家族でしたね。ええと、おじいさんとおばあさんと

お父さんとお母さんと男の子……でしたね。

確か、元々おじいさんとおばあさんの二人暮らしだったんですが、

とある日、男性同士の怒鳴り合いのようなものが聞こえてきましたね。

隣に住んでいた方がまた噂好きですぐに広まりましたね。

その怒鳴り合いを心配していた方もいらっしゃったようですが

次の日、おじいさんとおばあさんが家の外で小さい男の遊んでいるのを見かけて

皆さん安心したそうです。その当時、私は知らなかったのですが

さきほども話した通り、おじいさんには息子さんがいらっしゃったのですが

絶縁状態だったらしいです。二十年前ほどに喧嘩して息子さんは都会のほうに出ていったとか。

まあ、普通に考えてその関連の怒鳴り合いだってすぐ分かりました。

ただその小さな男の子……お孫さんができたことで軟化して仲直りした様子でした。

そのあとは最初に伝えた通り、五人家族で暮らしていましたね。


え? ええ。幸せそうでしたよ。

あー……その多分。あの家族、夜逃げしたと聞いたんですが、夜逃げするように見えませんでした。

家も大きいですし、止まっていた車も私でも分かるような高級車でしたから。

そうですね。ある日突然いなくなったという言葉がこんな田舎で聞けるとは思いませんでした。

不審なこと、ですか。

ううん……そうですね……。あっ、そうそう、思い出しました。

私、その家の前を歩いていたんですがその男の子に声を掛けられたことがあるんです。

その時に確かぐるぐるぐるぐる……って言いながらずっと地面に渦を書いているんですよ。

とても不気味だったことは覚えているんですけれど小学生低学年くらいの子でしたから、

少し変わった子なんだなと思ったと思います。

あ……なんだか思い出してきました。まだ変わったことならありましたね。

その家……なんですけどたまにすごく賑やかなことがあるんです。

テレビの音が大きいのかなと思ってみたりしたんですが、どう聞いても人の話し声なんですよ。

でも中にはあの家族しかいなくて、それもみんな思い思いのことをしてたりするので、

変だなあと思ったことがあるんです。

……すみません、これは話そうかどうか迷ったのですが、その、

今でも家の前を通ると人気を感じるような気がするのです。信じて欲しいとは言いませんが

今でもたまに中を覗くとあの家族が暮らしていて……それから……生活感もあって。

人影も見えるような気がして。……多分気のせいなんですけどね。







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