エピローグ

 ザリ、とした埃っぽい床を、久しぶりに踏んだ。

 高校を卒業してから10年。私は調律師になった。

 大学に入ってから散々考えた結果、耳が良いことを、なにかに活かせるんじゃないかと思い始めたからだ。自分で専門学校を調べ、無駄になってしまった大学の入学金は将来稼いで返すことを両親と約束もした。

 今は東京のとある楽器販売店で働いている。

 ようやく腕も上がり、余裕も出てきたこの夏休み。せっかくならあの狂ったピアノを直そうと、帰省してきた。


 駅員に許可を取り、ピアノの蓋を開けた。

 ……思った通り、酷い状態だ。

 夏真っ盛りで暑いこともあってダラダラ流れる汗を拭いながら作業する。そう言えば、彼と出会ったのもこんな日だった。夜だったけれど。

 夕方になり、ようやく作業が終わった。通っていく電車で聞こえないこともあって、時間がかかった。頭の中に思い浮かぶのは、彼の音。あの音に合うようにと、精一杯調節した。

 張り詰めていた息を吐く。久しぶりにここまで集中していたかもしれない。

 外を見れば、月ではなく夕陽が輝いていた。


「もうこんな時間か……」


 作業は終わり、道具を片付け、去ろうとしたときだった。後ろで、ポロン、とピアノを弾く音がした。

 思わず振り返って――





















【あとがき】

伝わっていないかもしれないし、読み返しても伝わらないかもしれません。けれど、書かせてください。

ここで、書きたかったのは、2人の主人公の『卒業』でした。1人は女子高生、1人はおじさん。

女の子は、「何も考えていなかった故に嫌いな自分」「高校」から卒業し、おじさんは「女子高生、猫とのある意味依存していた関係」「孤独さ」から卒業しました。

2人は別れたことで、見えない相手の幸せを願い、悩んでいた時間、自分から卒業しました。

つまり書きたかったのは、別れは終わりじゃない、ということと卒業は寂しくも良いものだ、ということです。もちろん、それだけじゃないと思いますが。

この話を読んで、前向きな気持ちになっていただければ幸いです。読んでくださって、本当にありがとうございました。

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卒業 時雨 @kunishigure

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