ドラゴン襲来ー②

 フェアリー考案の作戦の元にマルコスのチームが出立してから早一週間、無事な街が見つかれば使いを寄越す手はずだったのだが、未だに何の音沙汰も無いまま無為に時間が過ぎていた。


 マルコスは避難民をどうにか纏め上げて難民キャンプを運営し、レッカ、アッカ、アルマは炊き出しや怪我人の看護に追われていた。


 一方のフリックとシェニーは、避難民の中にいた狩りの心得がある者と共に連日森へと入り、狩りに勤しんでいた。


 村に食料の蓄えがあるとはいえ、それは本来はフリック達が冬を越す為の物であり、あまりそれを使う訳にもいかないのでどうにか食料を調達しようとしているのだ。


 今のところは何とか食料は供給出来ているが、それでも倉庫の中の蓄えは目減りしており、このままの状況が続けばかなり不味い事になってしまう。


 しかしこれ以上対策の打ちようもないフリック達には、ただ知らせが来るのを待つ事しか出来ない。


 日が傾き始め、狩りを切り上げたフリック達は森から帰ると、マルコスの元へと向かうが今日も知らせは来なかったと言われ落胆する。


 夜、マルコスを交えてフリック達は再び対策会議を行うことにした。


「私は明日中に何も知らせが無かった場合は街に戻ろうと思っている。ドラゴンとて一度獲物を食い尽くした場所にまた舞い戻ってくるとは思えんし、その方がある意味一番安全なのかもしれんからな」


 物資についても幾らかは村から持ち出す事になるだろうが、残りは街の焼け跡から探してどうにかする気でマルコスはいるらしい。


「あまり賛成は出来ませんが、このまま共倒れしてしまうよりはまだお互いにとって良い決断なのかもしれません」


 フェアリーですら万策尽きてしまったのかこの案に賛同してしまう。


「そんな、いくら何でも無茶です! 何とかこの村で皆で生き残る術を探しましょうよ!」


 勢い良く席を立ったレッカは泣きながら訴えるが、マルコスの意志が変わることは無かった。


「レッカ、落ち着きなさい。別にこれがお互いにとってベストだと言うだけで私だって避難民達を死地に追いやろうと思っている訳じゃない。それにまだ一日猶予があるんだからもしかしたら良い知らせが来るかもしれないじゃないか」


 それでもレッカは食い下がろうとするが、シェニーに止められてしまう。


「とにかく今日はこれでお開きにして皆休もうぜ。疲れてっとロクな考え浮かばねえんだからよ」


 シェニーによってこの日の会議は無理やり解散させられ、皆それぞれの休養場所へと帰っていった。


 そして翌日、ザッケ村に届いたのは吉報でなく滅亡へと誘う咆哮であった。


 朝、狩りに行く準備をしていたフリックにフェアリーから緊急通信が入り、避難民達がいなくなるまで姿を隠しておく筈だったエアレーザーが森の方から走ってくるのが見えた。


「軍曹、想定し得る中で最も最悪の事態になりました。周囲の偵察に出していたドローンが一機撃墜されたのですが、撃墜される瞬間に送って来た映像にドラゴンらしき存在が映っていました」


 大慌てでエアレーザーの方に走り出したフリックに嫌な予感を覚えた村の面々も彼の後を追う。


 村の入り口に開設された難民キャンプ前で停止したエアレーザーにフリックが合流すると、丁度フェアリーの声で避難を呼びかけ始めたところだった。


 最初は鋼鉄の巨人が現れた事でパニックになりフェアリーの声に誰も耳を貸さず、口々に話していた避難民達も、ドラゴンの名が出た途端に静まり返りフェアリーの話を聞き始めた。


「ドラゴンは恐らくこの近辺で唯一人間がいるこの村を狙っていると思われます。ですから皆さんには最低限の荷物を持って避難して頂きます。時間に猶予は有りません、急いで下さい」


 ドラゴンが来ると急かすフェアリーに再び避難民達はパニックに陥り始める。


「皆落ち着くんだ! 怪我人病人年寄子供は馬車へ乗せて動ける者は直ぐに出立の用意を整えろ! 余計な物は持たずに荷物は食糧のみにするんだ!」


 マルコスの一喝で何とか冷静さを取り戻した避難民達はマルコスの部下主導の元、避難の準備にかかった。


「フリックさん、どういう事なんですか! どうしてドラゴンがこんな人の少ない僻地に来るんですか!」


 パニックになりかけているレッカを抱きしめたフリックは安心させるように頭を撫でながらゆっくりと息をさせる。


「リユウは分からナイ。でもトニカクここにイタラ不味い。アッカをつれてニゲるんだ」


 落ち着かせたレッカから離れたフリックは変装用に来ていた服を脱ぎ捨て、パイロットスーツ姿になりながらエアレーザーへと向かう。


「フリックさん! どこに行くんですか! 一緒に逃げるんじゃないんですか!」


 レッカの悲痛な叫びに振り返ったフリックは、まるで最後の別れを済ませるかのようにレッカの顔を見る。


「オソラクこのままでは村からニゲタとしてもドラゴンに追いつカレテしまう。ダカラ俺がアシドメを、イヤ、ドラゴンを倒してクル!」


 フリックの決意を聞いても、これ以上大切な人を失いたくないレッカはフリックを止めようと彼の元へ向かおうとするが、シェニーに腕を掴まれ止められてしまう。


「レッカ、男の覚悟に水差すような真似は例え恋人でもしちゃいけねえ。……それに兄ちゃんなら帰ってくるさ、絶対にな。そうそう、兄ちゃん、こいつがいるんじゃないのか」


 いつの間に取ってきたのか、レッカを抑えながらシェニーは村長宅に置いてあった筈のヘルメットをフリックに投げる。


「アリがとうシェニー。ミンナを、レッカを頼む」


「分かってるよ。こっちは心配しなくて大丈夫だ。ぶちかまして来い!」


 拳を突き上げたシェニーは、自分を振り払おうとするレッカを抱き上げ連れて行く。


「フリックさん! 嫌! 行かないで! 行かないで!」


 駄々っ子の様に泣き喚くレッカを見送ったフリックはエアレーザーへと乗り込む。


「フェアリー、敵の現在地は?」


「真っすぐにこちらに向かってきています。このままでは後15分もすれば村に着くでしょう」


 どう考えても皆が避難するには時間が足りなすぎる。


 それならば取るべき手段は一つとばかりにフリックはエアレーザーをドラゴンの進行方向へと向け走らせる。


「俺ばかり別れを済ませてすまなかったなフェアリー。お前もアッカに伝えたい事があったんじゃないか?」


「大丈夫です軍曹。呼び戻したドローンを通じて先に済ませましたから」


「全く抜け目のない奴だよお前は。じゃあ、ゲストを持て成しに行くとするか」


 黒き鋼鉄の巨人、エアレーザーは全力で大地を駆ける。


 人々を、愛する者を守ると覚悟を決めた一人の男と感情を持ったAIを乗せて。

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