七章 冬備えと噂話ー②

 カンカンと少しずつうまくなり始めた金槌で釘を叩く音を村中に響かせ、今日も今日とてフェアリー指導によるブラックな労働にフリックが励んでいると、アッカが走ってきて最近たまに痛みが走る腰に勢いの良いタックルと共に抱き着いてきた。


「グッッ! アッカ、アブナイぞ。何かアッタノか?」


「マルコスおじさんが来たからお姉ちゃんに呼んできてって言われたの! まだお菓子貰えてないんだから早く早くー!」


 本来二週間に一度くらいのペースで来ると聞いていたので、それよりも早い訪問に少し驚きつつも、金槌を置いたフリックはお菓子欲しさに急かしてくるアッカに手を引かれて村の入り口に向かう。


 村の入り口では前回同様にマルコスの馬車隊が荷下ろしをしており、フリックは倉庫の完成を急がねばと思う程の量が既に地面に積まれていた。


 どうやら荷馬車の数が一台増えているようで、荷下ろしをするマルコスの部下の数も前回より多いように見えた。


「フリックさん、こっちです」


 フリックが自分を読んだ本人を探していると、レッカが荷馬車の裏から顔を覗かせ手を振って来た。


 それに気づいた部下と話をしていたマルコスもフリックの接近に気づいて近づいてくる。


「やあフリック君。今日は補充の物資と知らせたい事があったんでいつもより早目に来させて貰ったよ」


 にこやかに握手を求められ、マルコスの態度が以前より軟化した事に喜びながら応じたフリックだったが、ギリギリと力を込めた握手で手を握りつぶされそうになり、未だマルコスに完全には認められていないのかと少し落ち込んでしまう。


「とりあえずシェニーも呼んできてくれないか。色々と話さなければならいことがあるんだ」


「俺ならここにいるぜ。……これ美味いな」


 馬車の荷台からひょっこり姿を現したシェニーの口にはパンが咥えられており、手には干し肉まで握られていた。


「コラ! つまみ食いするんじゃない! 全く、いい年の大人がアッカもいるんだから子供の教育に悪い事をするんじゃない」


 バツが悪そうにしながらも空返事をしたシェニーは慌ててパンを食べきると、ちゃっかり2個目を咥えて荷台から飛び降り、マルコスを呆れさせながらフリック達の元へとやってきた。


 取り敢えず立ち話もなんだからとレッカの提案で、いつもフリック達が食事の際に使う家の外のテーブルセットで話すことになった。


「まずは今回と前回の物資についてだが、支払いについて心配する必要はない。王国からの支援金が出たからそれで十分賄えるからな」


 マルコスによって王国にザッケ村の現状が伝えられた事により、王国から開拓村への復興支援の名目により多額の支援金が出たらしい。


 そこで一先ずは村長の娘であるレッカを村長代理とし、年齢を言い訳にマルコスがその後継人となる事で普段は街にいる彼が王国との間に入り、一々レッカが街まで行かなくても様々な手続きを出来るようにまで役人と話し合い、調整したそうだ。


 王国としても国力向上のお題目を掲げて僻地の開拓を推奨した手前、ザッケ村の復興支援をせずに見捨てたとあれば他の開拓村からの反発や今後の開拓事業に支障が出ると判断したのと、戦争用の戦力として国内に安易に傭兵を迎え入れた落ち度を隠したいという思惑もあり、色々とすんなりと話が通ったのではマルコスは推測していた。


 次にマルコスは傭兵達の処遇について語りだした。


 古くから団に居た傭兵については二度の村への襲撃の咎で死罪は恐らく確定であり、二度目の襲撃から参加した者については15年の重労働刑が妥当ではないかと、過去の事例から傭兵を引き渡した騎士が言っていたそうだ。


「勿論フリック君が森から追い出した後そのまま逃走している傭兵達も騎士達が追うそうだし、賞金首として王国中に生死問わずで手配もするらしいからいずれは全員罰を受けるだろう」


 レッカとシェニーは安堵と辛い記憶が入り混じったせいで複雑な顔するが、それよりも深刻そうな顔をするマルコスの事がフリックは気になった。


 復興支援と傭兵達に罰が下る事は朗報なのだから何故彼がそんな顔をするのか分からないからだ。


 たまに朗報の後にタナトスの艦長がこんな顔をしながら、やれ援軍がこないだの、休暇が取り消されだの言っていた事をフリックは思い出し、嫌な予感がし始める。


「本来は役人と騎士の一団が事情聴取と村の現状確認の為に私に同行する筈だったんだが、来れなくなってしまってな」


 大きく息を吐き、両手を固く握り合わせて額に押し当てたマルコスに只ならぬ事情を察した、会話に参加している一同に緊張が走る。


「実はな、ドラゴンが復活したらしい。そのせいで王国は上へ下への大騒ぎになっていてこの村の事どころでは無くなってしまったらしいんだ」


「嘘だろ、ドラゴンってモドキじゃなくて本物の方か! モドキは人数揃えれば倒せるし、食ったら美味いから好きだけど本物の方はヤバすぎるだろ」


「ドラゴンって御伽噺の中の存在じゃなくて実在したんですか!」


 この世界の住人にとってはドラゴンなる存在はとんでもない脅威として認識されているらしいが、余所の世界から来たフリックとフェアリーにとってはドラゴンなるものについて知識がある訳もなく、話について行けずに大騒ぎする3人の蚊帳の外に置かれてしまう。


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