四章 襲撃者再びー⑥

「フリックさん!皆さんをお連れしました!」


 無事に洞窟からレッカが3人を連れ出してきたのを見て、彼女に辛い仕事をさせた罪悪感と無事に連れ出せるか心配で待っている間ずっとやきもきしていたフリックは一安心した。


「確かにレッカの言う通り変なカッコの奴だな」


 初めてフリックを見たシェニーは頭から爪先までなめ回すように見る。


 アルマは男性自体が恐怖の対象になってしまっているらしく、レッカのお陰か初めてフリックを見た時の様に取り乱しはしなくなったが、それでもフリックに怯えてシェニーの大きな背中に隠れている。


 いい加減変人扱いにも慣れてきたフリックは、3人のことをレッカに任せてさっさと荷積みを済ます為に女性陣と交代するように洞窟に入っていった。


 手当てをするためにレッカが馬車に持ってきたシーツを敷くと、シェニーがゆっくりとリーナを背中から降ろす。


 色々と必要そうな物を詰め込んできた大きなバックから水筒を取りだし、布を湿らせて馬車に乗ったアルマとシェニーに渡すと二人は自分で体を拭き始めた。


 その間に自分では何も出来ない状態のリーナの体をレッカが綺麗にしてやる。


 3人とも顔だけではなく、体を拭くために捲った服の隙間から見える肌の至るところに痣や傷ができており、彼女達が傭兵達に何をされたのかを物語っていた。


 辛いに目にあった3人の前で自分が泣き出すわけにはいかないと、襲われた日のことがフラッシュバックしながらもレッカは必死に泣くのを堪えて手当てをする。


 時おり洞窟から出ては荷物を積みに来るフリックに怯えるアルマを見たシェニーは、手当てが終わると馬車から降りて洞窟へと歩き始めた。


「シェニーさん、どこにいくんですか?体中怪我だらけなんだから大人しくしてて下さい」


 引き留めようと追ってきたレッカにシェニーは身長差があるのでしゃがみながら耳打ちする。


「俺は頑丈だからもう大丈夫だ。それよりあの兄ちゃんを見る度にアルマが怯えちまってる方が問題だ。あいつは今男を見るだけでもダメっぽいからな、兄ちゃんには洞窟の外まで荷物を運んでもらってそっから馬車までは俺の方がいい」


 それにはレッカも同感だったが、それでもシェニーにやらせるのは気が引けたので代わりに自分が行くと提案した。


 しかし、結局力瘤を見せつけながら再び歩き始めたシェニーを止められず、馬車に残っている2人に付き添う事にした。


「よう兄ちゃん。お前を見るとアルマが怯えちまうから洞窟から馬車までは俺が運ぶぜ」


「了解しました。ご協力感謝します」


 事前にフリックとフェアリーについて説明されていたとはいえ、すっかり順応したレッカに比べるとシェニーは会話中に男から女の声がすることに違和感を感じながら荷物を運び始めた。


 食糧を中心に運び出しているので、重い荷物ばかりで怪我人にそんな物を運ばせて良いものかとフリックは思ったが、軽々と運ぶシェニーを見てこれからは力仕事を分担できる人材を得れたことを素直に喜ぶことにした。


 人手が増え、バケツリレーの要領で手早く荷物を馬車に積み込めたおかげで想定より早く馬車を出発させることが出来た。


 最初はフリックが御者をやる筈だったが、馬に慣れていない者がやるのは危険だとシェニーが御者をすることになった。


 まあそれはそれで帰りは楽が出来ると思ったフリックだったのだが、馬車に同乗したらアルマが怯えてしまうので少し馬車から距離を空けて徒歩で殿を勤める羽目になってしまった。


 唯一の救いは人間4人に積めるだけ積んだ荷物のせいで重量過多ぎみな馬車の速度がゆっくりだったので走らなくて済んだことだ。


 しかしそれが災いし、馬車が森を抜けるころには日が沈み始めていた。


 出発が遅れていたら日没までに村には戻って来れなかっただろう。


「お姉ちゃんたちおかえりー!」


 待機させておいた筈のエアレーザーのゆっくりとこちらに歩いてきた。


 手のひらにはアッカが乗っており、再びレッカの雷がフェアリーに落ちる。


「すみません、一度乗せてしまったせいで断り切れなくなってしまって」


 エアレーザーにもすっかり慣れ、エアレーザー、というかフェアリーに怒るレッカを見てシェニーが苦笑いする。


「レッカお前、ちょっと見ない間にたくましくなったなあ」


 リーナはともかくとしてアルマは鋼鉄の巨人に驚き気絶しているのに比べれば軽口を叩けるだけシェニーもかなり逞しいと言えそうだが。


 村に戻った一行は、アルマとリーナを仮拠点の村長宅に用意したベッドで休ませると、シェニーとフリックは馬車から荷下ろしをする。


 姉妹は休ませた二人の面倒を見ながら食事の用意を始めた。


 洞窟から持ち出した、正確には取り戻した食料を黙々と馬車から降ろし続けるフリックに、沈黙に耐えきれなくなったシェニーがちょっかいを掛け始める。


「なあ兄ちゃん、黙ってないで楽しくお喋りしながらやろうぜ」


「すみませんシェニーさん、軍曹はまだこの星の言語を学習中なので私がお相手してもよろしいですか?」


 フリックから聞こえる女性の声に、慣れないながらもそれはそれで奇妙な体験で面白いと言いながらシェニーは手を止め雑談を始める。


 どうせなら手を動かしながら話して欲しいと愚痴を溢す主に、メンタルケアの一環だからとフェアリーは宥め、雑談を続ける。


 人間では無いフェアリーとガールと呼ぶには少々年を取っているシェニーのガールズトークは大いに盛り上がり、結局荷下ろしのほとんどをフリックがやる羽目になったのだった。

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