第十二話 打って出るべし

〜鉢形城にて〜


「こたびの二正面作戦は後方の河越城を不落として武蔵国に点在する要所を繋ぎ、面で対抗するもの。ゆえに上野へ進駐するは無駄が多く、被害もそれなりにあるもの。果たしていかにすべきか、、、」



「我々は、小田原城が持ちこたえるまで待つのみであって、下手に出撃するは得策ではないと存じ上げます。」



「そもそも、豊臣勢があれだけの兵を動員しておいて数年も持つはずがない。兵站は伸びに伸び、じきに飢えが彼らを襲う。さらには旧同盟国のよしみがある徳川家康や織田信雄がそのたもとわかてば勝つ戦。...........やはり出撃よりも籠城が得策かと。」


「家臣みなそろって同意見のようじゃな。しかして、殿は何と仰せのことで?」



「はっ!殿の仰せのところによるとどうやら......」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




松井田城決戦の間、鉢形城にある北条氏邦は苦悩していた。


「出撃、出撃、出撃、、、。」


家臣団はみな口を揃えて籠城策を唱え、わしの出撃案を聞き入れようとはしない。


あれほどに必死な部下の懇願の前に、なすすべもなく評定は終わってしまった。


「これも我が業の内か........。」


家臣と共同体でもある氏邦にとって、彼自身の意見が尊重されないことは良くも悪くも己の業によるところだ。


そもそも、ここ鉢形の地は民衆より「鉢形様」と呼ばれるほどに独立色の強い、領地。


こたびの猪俣邦憲による名胡桃城奪取もわしの命令、いや半分は独断によるところが大きい。我が北条分国は一様にしてそうだった。東へ西へと各々がその武略を振るう。


こと氏政の時代は、その独自性がより強まっていった印象を受ける。


だが、そうして確実に北条の北の地を守り、同時に勢力拡大へと尽力してきたのだ。


兄、氏照と共に北条の両翼として支えてきた自負と、矜持がわしにはある。


ゆえに家臣の申し分は嫌なほどにわかる。そして無視できぬことも確かだ。彼らの力あってこそのわしであろう。


そして何よりも重要な問題が一つ。

『小田原からなんの音沙汰もない』ことである。


戦略然り、判断然り、兵站然り、援軍然り。

「全てにおいての情報が完全かつ意図的に遮断されている。」


これはあまりにも大きな問題だ。


小田原はすでに落城しているやもしれぬし、もしくは善戦し、籠城状態にあるのかもしれない。


こちらが籠城策を採るということもあながち間違いでもない。もし負けた際にも降伏が可能だ。


もう一度言う。降伏が可能だ。もし一戦交えてしまえばわしの命はないやもしれない。






果たして、それでよいのであろうか。



「果たして、それでよいのか、、。」



「ぉぉぉぉぉのぉぉぉぉx!!」



「困った家臣たちじゃ、、、、。」



「とォォォッォォォォォォゴフォっっ」



「全く、、、とにかく本営は一体何をしておるのやら、、。」



「殿ぉっぉぉぉっぉぉぉぉ!!」

ずさぁばたり



「おや、これは一体全体どうなっておる........」



「殿、数刻前より真田昌幸から書状が!?」



あらかじめ言っておく。

万全な戦などありえはしないのだ。



神流川かんながわにてそちらの軍と相対あいたいせば、必ずや利あらん』



歴史の踏襲こそ、日の本の恐ろしさである。



第二次神流川の戦いだ。



★次回、本気で合戦始めていきますのでお楽しみに!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る