第十話 消えた北条軍とその動向

秀次らの背後を北条軍が突如として襲撃したのには理由とそこまでの経過があった。


そしてそれは大戦の始まりに堕ちた英雄の死と共に動き出す。



「豊臣秀吉の暗殺に成功した。」



あたふたと戦準備や兵站確保に努めていた諸将が阿鼻叫喚し、そして喜びとみなぎる闘志をあらわにする。



「でかしたぞ風魔ァー!」



この時歳相応とは思えぬ張りのある老声が城中に響き渡ったという。


そう、それは北条氏政の明朗快活たるときの声だ。


風魔小太郎ら忍者衆が天下人豊臣秀吉の暗殺に成功したのだ。


嬉々とした気運の高まりに氏政のみならず小田原城に詰めていた諸将も安堵の声を漏らす。


しかしこの男はやはり鋭かった。


「.......早い。」


「?氏直よ。今なにか申したか?」


「早すぎる。あまりにも早すぎるぞ風魔よ。何故なにゆえ、一体何故かように早期に誅殺したのだ?そなたならば命令通り確実にこなせるはずであろう?」


「秀吉暗殺は歯止めの効かなくなる箱根山中にてせよとあれほどもうしたではないか。山中城防衛戦前に実行してしまっては我らの援軍の送り込み、さらには街道封鎖、ひいてはその他あらゆる支援策が全て無に帰すのだぞ!また敵方に時間の制限が生まれ余計に攻勢を強めるに決まっておる。山中城は修羅場になるぞ!」


氏直の的確かつ冷静な見解は諸将と氏政含めたその場の全てに広まり、やがて一点に彼らへと視線が向けられた。


「......いかにも。しかし予定と異なり、他に志を同じくする敵に遭遇し、早期の誅殺やむなしと心得た次第。よって偵察中であった秀吉を死へ追いやらざるおえぬこととなった。」(他にも暗殺しようと企んでいる人がいました。)


「ななななななんと?!早う申して欲しかったものじゃぞ!!」


「....やはりな。その新たな敵とやらに心当たりはあるか?」


「それがどうにも、敵方は複数、それに連携のまるで取れていない様子から一人とは絞れず.............。」


「....そやつがどこぞの何者かは存じ上げぬが、防衛策を変更しなくてはならんことになったぞ!氏照。地図をこちらに。」


「はっ!」


「敵方はおそらくこの箱根口にある山中城、街道よりやや南に逸れる韮山城、さらに伊豆の最南端に位置する下田城へと攻撃を仕掛けてくることだろう。」


「今素直に援軍を送ろうとも無駄足で終わり、さらには馬足の乱れが連携を崩すこととなる。よって敵方は一気にここ小田原へと流れ込むぞ。」


「.......!!」


「........殿。海路うみじはいかがでしょう。」


「うむ。氏照の申す通り、重要となるのは海路による兵の輸送、兵站の確保であろう。ゆえに制海権の獲得が必須だ。」


「しからばまず第一の狙いは敵方の水軍衆となるのでしょうか?」


「いかにも。しかしそこは心配ない。なぜならば-------」






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「かかれ、かかれ、かかれい!!関東武士の意地を見せつけよ!」


「「おおおおおおおおおお!!」」


秀次率いる本隊を奇襲した北条軍は、海路にて援軍と合流した韮山城将の北条氏規の率いるものであった。


北条氏規は、家中において主に西の窓口として管理を行ってきた有能な一族で、氏照、氏邦に続き四男坊に当たる。(諸説あり)


およそ五千の兵で詰めたその要塞は、山中城と同時に攻撃を受けたが小田原城落城までついに落城せず、降伏することでその戦を終えた。

実際この事実からも彼の有能さが垣間見える。







現在、窮地となっていた韮山城を、間一髪のところで援軍が現れ、ついには脱出に成功したと言う訳だ。


「やはり、本軍は先を急ぎ、行ってしまったか......」


「さよう。小田原へ向けて進撃は止まらぬようですな。」


「小田原方は、既に援軍を出し切り、窮地となるであろう、、しかしこの軍勢が小田原へ向かっては本末転倒.....いかにすれば良いのだろうか.....。」



「殿。氏直殿より言伝ことづてにございます。合流後援軍と共に----------------」


「!!うむ。しかと承った!」


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しかしこの氏直の策は裏目に出た。いや、正しくは第二の作戦が発動したと言って良いだろう。


我が身を切ってエサを差しだし、大物を釣り上げるが如きその作戦は大島での謀議でも「無茶苦茶だ。」と散々に言われた。


しかしこの行動こそ、小田原城包囲、展開を素早く行った豊臣秀次を苦しめることとなったのだ。



すでに小田原方面は圧倒的な北条方劣勢にあり、小田原陥落が起これば直ちに「滅亡」の二文字。


風雲急を告げる小田原方面編。謎が謎を呼ぶ中、最も激戦となった北方戦線へと戦場は移る。


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