第9話 未知と知識

「あの、傷の方はあれから大丈夫ですか?」


 私はライムント副騎士団長に尋ねた。


「はい。もうすかっかり治っています。傷跡も残っていないですし」

「でも、無理はしないでくださいね。傷は癒えていますけど失った血液までは戻っていませんから」


 回復の魔法で癒すことができるのはあくまでも外傷だけである。

流れて失った血液まで回復することはできないのである。


「お気遣いありがとうございます。サクラさんは医療にもお詳しいんですか?」

「そうですね。医学の知識も勉強してきました。よくお分かりになりましたね」

「あの時、重症の兵士には傷の状態をきちんと確認して処置をしていましたから」


 回復の魔法を使うにも医療の知識があった方が効率的に回復することができる。

傷の深さ、出血量、傷の部位などを観察する。

それによって回復にかける時間や使う魔力量を調整していくのである。


「あの状況でよく見ていましたね」


 副騎士団長だって負傷していたはずである。


「状況を把握して指示を出すのが私の役目ですから」

「さすがだと思います」


 副騎士団長ともなればどんな状況でも周りを見ているらしい。

これはシンプルに尊敬する。


 そこまで言うと今度は陛下は口を開いた。


「サクラには研究室が一室与えられるから、そこを好きに使うといい。居住空間もその研究室に併設されているからな」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 宮廷魔術師になると1人一室の研究室が与えられるらしい。

なんという高待遇なのだろうか。

私は感動してしまった。


「ライムント、お前が案内してやればいい」

「私が、ですか?」

「そうだ。サクラは宮廷に来てまだ日が短い。迷子になってしまうだろう」


 陛下は少しニヤッとした表情を浮かべていた。


「分かりました。では、私が案内します」


 ライムント副騎士団長は陛下の言葉に了承した。


「私からの話は以上だ」


 陛下が言った。


「それでは、サクラさんの研究室へご案内します。こちらにどうぞ」

「ありがとうございます」


 サクラはソファーから立ち上がるとライムントの隣を歩いていた。

すごく広い王宮にはなるが、覚えていかないと今後の生活に支障がでてくるだろう。

なるべく早く覚えようと思った。


「ライムントさんはもうここは長いんですか?」

「そうですねぇ。もう、3年になりますかね」


 わずか3年で副騎士団長にまで出世したとは驚異的なスピードである。

次期騎士団長は間違いないだろう。


「そうなんですね。これから、よろしくお願いしますね」


 騎士と魔術師は何かと協力することが多い。

何事にも適材適所というものがある。

騎士は物理攻撃、魔術師は魔法で後方支援というのが定番なところだろう。


「こちらこそよろしくお願いします」


 そんなことを話しながら数分王宮の中を歩いた。


「到着しました。こちらが、サクラさんの研究室となります」

「わぁ、ありがとうございます」


 そこにはすでに私の荷物が運び込まれていた。

そして、作業用の机と椅子があり、部屋の壁側には本棚が並んでいる。

本棚に刺さっている本も魔術関係やこの国の歴史関係の本が多かった。


「すごいですね」


 私は感動してしまった。

人間、未知の世界触れるとどんどん知識に対して貪欲になっていくものであると思う。


 また新しい知識に触れることができると思うと、期待に胸を膨らませた。

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