ある孤独な和尚の懺悔

雨月

序章 


 おや……こんな夜更けにどうされました……?


 あなたのような若い美しい方が……。



 いや……



 ともかく……まあ……どうぞお上がりになってください。

 晩夏とはいえ、山中の夜です。冷えたでしょう。あたたかいお茶でも出しましょう。 



 ご覧のとおり朽ちかけた狭い寺ですが、この老僧ひとりには広すぎるぐらいですので―――。


 なんなら、ゆっくりと、休まれていけばいい。


 さあ、どうぞ―――。






――――少し、落ち着かれましたか。



 あなたのような若い女性が、こんな真夜中に山奥の小寺に迷い込まれるという事は、それなりの事情がおありなのでしょう。

 数年に一度、あなたのような方がここにいらっしゃいます。

 そんな方はどなたも、今のあなたのような顔をしていらっしゃる。途方に暮れ、拭いがたい哀しみが仄見えてくるような……。



 いえいえ、無理に話されることはありません……。



 かわりに私の話を致しましょう。こんな時、いつもそうするように。

 老僧と顔をつきあわせて黙りこくっているより、退屈しのぎにはなるでしょうから―――。



 もう50年ほど前の遠い昔の話ですが、私も、この寺に駆け込んだのです……。ちょうどあなたのように……。



 もっとも、その表情はずいぶんと違っていたでしょうが―――。



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