第7話 清流無間断

夕方、いわれた場所にいわれた服装でむかう。

服装と言っても特に決まりは無かった。

綺麗目な服装、靴下は白で。

「こんばんは!初めまして!」


「よくお越しくださいました。どうぞー」


茶室に入ると生徒さん達が笑顔で迎えてくれた。


うっすらかおる香のかおり。

静かに音をたてる釜。

床間には掛け軸。

食べるのがもったいないくらいの主菓子。

すべてのものたちが僕の五感を揺さぶった。


今まさに1人の生徒さんがお茶を点ててくれている。

初めてみるお点前だ。

すべてが丁寧で、緩急は美しく見惚れてしまう。

「たった一服の為にここまでしてくれるのか」

なぜか今生の別を思わせる哀しみにも似たものを感じた。


「なんだろ、この感じ」


漆黒の器の中に濃い緑。

泡の無いところはハート型になっていてチャーミングだった。


「お点前頂戴致します」

教えてもらったとうり客の作法をやってみる。

「かっこいい、自分」


お茶を飲み干すと心からホッとできた。

疲れきった心と身体に隅々まで沁み渡る。


茶室は全てをフラットにしてくれた。

想像を遥かに上回り、現実社会を超越した宇宙がそこにあった。


床間の掛け軸。

「清流無間断」

なんて読むんだろ、、。


先生が言う。

「セイリュウカンダンナシよ。

澄んだ川の水は太くなったり細くなったり、だけど途断える事なく流れている」



「茶道をはじめてみよう」

この日はっきりとそう決めたのを覚えている。

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