ゆるぎない気持ちが揺らぐ。

一色 サラ

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 揺るがない音楽と共に、ゆったりと過ごしていても、どこか落ち着かない。本当に、これが正しい選択なのかと、いつでも、迷いが生じてしまう。

一美、これで大丈夫なんだよね。と心に問いかける。もう、この世にいない君の言葉を探しても、納得する答えなど、出ることもない。

「ねえ、正輝、あの世って、どんな場所かな?」

管に繋がれた、かすれた君の声に、僕は、あの時、何も答えられなかった。

「ごめん、そんな悲しい顔しないで」

悲しい顔をしているつもりはなかった。でも、顔はたぶん引きつっていたのだろう。

消えてしまいそうな君の存在を僕はどうやったら、元に戻せるのだろうと考えていた。どれだけ、考えても、怖くなって、上手く考えることができなかった。そして、自分の心は壊れて行ってしまそうになっていく。

 君の好きな音楽を聴いても、心が空っぽになって、何も埋まっていかない。どれだけ、願っても叶えることのできない存在に、虚しさが暗い影を落としてくる。

 好きだという言葉を放っても、返事はない。君の体が消えしまった火葬場の煙が、脳裏によみがえって、天に行ってしまった現実を突き付けてくる。

「私のこと、ずっと好きでいてね」

「うん」

ずっと、一美を好きいられると信じていた。だけど、もうわからなくなっていく。


「死んだ人をいつまで引きずるの?」

 僕の前に現れた、由紀の存在が、一美へ愛を薄めていく。あんなに誓ったのに。その誓いが、消えていく。

由紀を好きになっていく自分を騙すことができなくなった。一美、ごめん。君を忘れたいわけじゃない。けど、温もりのない君に触れることも、会話することもできないことが、時間が経つにつれて、真実味を感じさせてしまうんだ。

 だから、許してほしい。もう、由紀を好きになった僕を、認めてほしい。


「今年は、そちらには行けそうにないです」

「正輝くん、どうしたの?あなたも一美のこと捨てるつもりなの?」

 一美の母親の捨てるという言葉に、恐怖を感じた。あなたとは、たぶん、一美が亡くなって、離婚した父親のことだろう。

「すみません、また連絡します。」と電話を切った。

スマホの着信音を鳴って、画面を見ると一美の母親が折り返し電話をしてきた。もう出るのが怖くて、切って、電源もオフにした。一美が亡くなって、10年が経つ。僕も27歳になる。あの時は僕も若かった。

「どうしたの?顔が青ざめてるよ」

 同棲を始めていた由紀に声をかけられて、急に現実に戻された気分になる。

「ああ、大丈夫だよ。一美の母親に電話したら、ちょっとね」詳しくは言わず、言葉を濁した。

「そう、ちゃんと、墓参りを断ったのね」

「まあ、ただ、もう行かないとは言えなかった。ごめん」

「別にいいよ。少し横になったら」

「うん」

 横たわって、天井を見る。もう、一美を好きだった自分のは戻ることはできない。ごめん、君を幸せにはできないよ。天国で幸せ暮らしていることを僕は願うよ。

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ゆるぎない気持ちが揺らぐ。 一色 サラ @Saku89make

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