一つ攻めてくる「川合」の奴

zero0511

川合&古賀、知り合う

第1話 出会う時見つける時

 川合の奴を見つけたのは先月、高校の入学式が終わった帰り道だ。


 高校と家を行き来するのに使うのは電車。だから駅まで行かないといけない、それはいいんだけど、駅まで20分くらいかかって息が上がって大変。急な坂もあるし。

 学校(特に高校)は山の上というか坂のてっぺんにあることが多いと思う。私が入った学校は更に難関、下り坂上り坂が2つずつ存在。とてもじゃないけどきつい。


 そういう特殊な立地の高校からの帰り、詳しくは入学式からの帰り。親は見に来なかったから、一人で坂をスローペースでえっちらこっちら歩いていた。けど、私は普通にバテた。そして立ち止まった。坂の途中で、登りきる体力がなかったから。


 「ポンッ」とぶつかられたのは、その時。

 背負っていたリュックに軽い衝撃が走ったため、少し驚いた。「ホワッ」とアホみたいな声を出した事は記憶から消し去りたい。


 後ろから不満げな声が聞こえたのはその後。


「ふぅん、当たった。ん、ごめんね」


 自分が悪かったから言えないとは思うけど、アイツは反省はしていなさそうだった。「ふぅん」と「ん」の言葉が可愛かったことにまた驚く。

 後ろで一つに結ばれた髪に、耳に着けられたイヤホン、背中に小さなバックパック。前髪の髪留めが印象的だった。


「あ、あの!」


 歩き出そうとするアイツを私は引き留めた。もう少し話したいとか詳しく知りたいとかいう気持ちは心の奥にはあったかもしれない、でも、ほとんど無意識に声をかけた。


「ぅん? 今のはごめん、前をよく見てなかったよ」


 きちんと向き直って、アイツはそう言った。


 上り坂の頂上に見える太陽に照らされて、アイツの影が私に映る。私からは余計に黒く見えるアイツがはっきりと見えた。

 私はその体の輪郭を沿うようにして見た。


 アイツを見つけたのは、この時。


「違くて。違うんだけど、その。私が急に止まったから悪いの、だからごめんね」

「そ。だいじょぶ」


 イヤホンを片耳だけ外して、私を見ていた。アイツから私がどう見えていたのかは分からない。

 光の方に立つアイツはわざと影を私に重ねていたかもしれない。


「そんな見ないで。私、何かついてる?」

「いや、ゴミなんてついて......ない...です」


 私がタジタジになって答えると、アイツはにっこり笑った。


「いやいや、幽霊とか妖怪。こわ~いおばけとか。ほら」


 アイツは両手を横に開いて、幽霊やらがついてないか見せようとしていた。私はそういうのは信じないから、仲の良い友達がやったとしても無視をしたと思う。


 でもアイツには違った。アイツが広げた両手の下に自分の手を入れて、空気を払った。もちろん、体には何も感じない。


「いない、よ」


 恐る恐る顔を見上げ、私はアイツの方を向いた。アイツも私の方を見ていた。


「友だちになろ」


 右耳のイヤホンも外してアイツは言った。


 私は小さくコクっと頷いた。

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