おばあちゃんと私

「美鈴。アンタ、もし魔法を使えるようになったら、何がしたい?」


 目の前には、大好きなおばあちゃんがいる。

 そしておばあちゃんの目に映る私は、幼稚園くらいの頃の子どもだ。


「私が魔法を使えるようになったら?」

「そうさ」


 そう私に問いかけてきたおばあちゃんの目はとても真剣だった。

 いつもは笑顔を絶やすことがないおばあちゃん。大好きなおばあちゃん。

 そんなおばあちゃんだったから、少しその時のおばあちゃんの顔が怖く見えた。


 きっとおばあちゃんは、私に大事なことを聞いているんだ。

 なんとなく、そう感じた。私も真面目に答えなくてはいけません。


「私に魔法が使えたら……、人のために使いたいな」

「人のために?」


 おばあちゃんが、おどろいたように目を見開く。


「うん。だって、みんな魔法は使えないでしょ? だから魔法を使える私が、困っている人を助けてあげるんだ」


「……」


 そう答えると、おばあちゃんはだまってしまった。


 私、何かまずいことを言ってしまったでしょうか……。

 だとしたら、どう答えるべきだったのでしょう。

 そんなことを頭の中でもんもんと考えていたら。


「そうだね、アンタはそういう優しい子だったねぇ……」


 おだやかな声がふってくる。そして、頭の上に、あたたかなぬくもり。

 顔を上げれば、目の前にはいつものおばあちゃんの笑顔がありました。


「アンタは、そのきれいな心をなくさずに生きるんだよ」


「おばあちゃん!」


 気づけば、ベッドの上でした。ああ、夢だったんですね。

 でも、不思議な夢です。どこか、現実にあったような感じがしました。


「あ、行けません。早く準備しないと」


 予定より少し早く起きてしまいましたが、目が覚めてしまいましたし。

 谷上体育館に行くため。

 地区大会に出場する、一人目の相談者さんの悩みごとを解決するため。

 準備してしすぎることはありません。


 ベッドから起き上がり、準備を始めた。

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