最終章 涙の意味

 花火もあっという間に終わり、もうすっかり夜が明けてしまった。特に体調に問題はなくピンピンしていた。先生も問題はないと言っていたし健斗が来たら来週の土曜日のことを話そうと思った。

 彼はなかなか来なかった。いつも午前中に来て一緒にお昼を食べるのに今日は午後3時になっても来なかった。


「コンコン」


時計の針はすでに6時を過ぎていた。誰かと思いドアを開けると健斗だった。話によれば今日は寝坊してしまって宿題が終わらずこんな時間になってしまったらしい。正直こんな時間になっても自分のところに顔を出してくれて嬉しかった。

 早速土曜日の話をしたら彼は半日だったらいいよとボソッと言った。いつもの彼と違うと思った私はもう帰った方がいいと言い彼を返した。

 次の日はいつもの彼に戻っており笑顔で私の病室に入ってきた。一応土曜日の確認をして了承を得たらすぐカレンダーに、


「フューチャーフォレストでデート♪ 8:00病室集合」


と書いた。その日が待ちきれなかった。それだけで私は生きている意味があると何度も思えた。


 いつも通りの朝だった。しかし、お昼を食べた後ぐらいから容体が急変した。だんだん私は呼吸をしづらくなり、意識も朦朧としてきた。

 そんな中健斗は私の手をギュッと握っていた。


「ピーーーーーーーー」


医師達が必死に蘇生を試みて一度は容体が安定した。

 私はずっと手を握っていた健斗に今出せる全ての力を出しながら話した。


「ありがとう…今日まで楽しく過ごすことができた...フューチャー…フォレスト…一緒に行きたかった…」


彼に握られていた私の手は力尽きて彼の手からずれ落ちた。


「ピーーーーーーーー」


再び医師たちの蘇生が始まったがもう私がもどることはなかった。

 皆が必死になって何度も私のことを呼んでいるが私が返事をすることはなかった。


「美月!!!!!!!!!」

「起きてよーーーーーーー」

「返事しろよ!!!!!!」


病室からは鳴き声しか聞こえなかった。


 悲しい一日から一夜が明けた。まだみんなの悲しみは消えず今日は晴れているのになんだかどんよりしていた。


 健斗は誰もいない病室にいた。彼は完全に閉まっていない引き出しを見つけて中をのぞいた。そこには1通の手紙が入っていた。それは私が生前に書いたものだった。


「健斗君へ

この手紙を読んでいる頃には私は多分この世にはいないでしょう。こんな早いお別れになってしまってごめんなさい。実は私は自分の命がそんなに長くないことを知っていました。ずっと黙っててごめんなさい。でも健斗君を悲しい思いにさせたくなかったしお互い気遣いあって過ごしていくのが嫌だったから私は伝えませんでした。許してください。健斗君のおかげで私は楽しい時間を過ごせました。花火も連れてってくれてありがとう。本当にあなたには感謝してます。ありがとうありがとう何度言っても言い切れません。フューチャーフォレスト行きたかった...ごめんね。最後に健斗君のこと本当に大好き。私はどこにいようとあなたの味方だしあなたの中で生き続ける。絶対忘れない。ありがとう。

                                     美月」


 美月の月の字は涙で滲んでいた。その上にもう一滴涙が落ちた。

 彼の目からは大粒の涙が溢れでいた。その涙からは悲しみとどこか悔しさも感じ取れた。

 大好きな人を失った悲しみは他の人には測りしれないくらい悲しい出来事なのだ。

 その手紙の横にはカレンダーも入っていた。そこには一生訪れない予定が綺麗に書き留められていた。もちろんあの予定も。


「フューチャーフォレストでデート♪ 8:00病室集合」


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涙の初恋 鈴木茉由 @harye_12222

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