美醜逆転世界の底辺王子だが、みんなから違う哀れな目でみられる件について。――「第二王子を改良」の巻――

狼蝶

美醜逆転世界の底辺王子だが、みんなから違う哀れな目でみられる件について。――「第二王子を改良」の巻――



 今まで一言たりとも言葉を交わしてはくれず、また顔も見てくれなかった弟、カルタス=ドル=フラワースが最近ちゃんと顔を見て話してくれるようになった。




 と、この国の第一王子であるカモミーレ=ドル=フラワースは嬉しそうに花を飛ばしている。






 その様子を陰からにこにこと見守るミャート。


 実はこの件、ミャートが関係していた。
























































 この国、フラワース王国の第二王子であるカルタスには小さい頃から気にくわないことがあった。




 自分の兄、カモミーレは醜い。


 この事実はカルタスの自尊心を大いに満たした。


 誰からも、そうメイドたちからも哀れだという目で見られる兄。自分だったら耐えられなかっただろう。だがそんな兄とは反対に、鏡を見ると見える麗しい自分の姿。兄が両親や召使いたち、他の貴族たちに見下されるのを目にすると、心の底から優越感がじわりじわりと広がっていった。




 だがカルタスは、誰かが兄を見下す目で見るところを見るのは好きだが、自分自身は兄の姿を目に入れたくはなかった。




 『だって、あんな汚いもの・・・・・・』




 と本気で思っていた。














 カモミーレの学友選びが終了したことをカルタスは聞いた。


 あんな酷い顔の奴と共にいられる奴なんかいるのか、と単純に驚いた。直後、そいつもとんでもないほど醜い奴だったりしてと好奇心をそそられ、今度兄とその学友という奴が共にいるところを盗み見してやろうとわくわくした。




 醜い王子のご学友も醜いなど傑作だ!


 そもそも兄には側近など不必要なもの。何故なら将来、この自分が王になるのだから。








 期待に満ちた目をして、兄と学友とが庭で花を摘んでいるという鼻で笑いたくなるような話を聞いたカルタスは勉強をほっぽり出して庭園へと走って行った。


 馬鹿にする気満々に渡り廊下の窓から庭園を覗くと、






















  そこにはこの世の者とは思えないほどの美しい令嬢がいた。


















 一体あれは誰だ。


 今日は王宮に誰か訪れる日だったか。




 あの麗しい令嬢が兄の学友であると、端っから頭に浮かばなかった。


 それは、あり得ないことだからだ。






 しかしその令嬢のすぐ横にはあの醜すぎる顔をした兄であるカモミーレが、初めて見るような笑顔を作って共に花冠を制作している。見たくもなかった兄の顔だが、信じられないという思いから凝視してしまう。


 するとすぐに耐えられなくなって吐き気がこみ上げてきて、窓から視線を外し下を向いて落ち着こうとした。






 あり得ない・・・・・・!!!




 まさかあれが兄の、カモミーレの学友だと言うのかっ!!?










 数秒目に入れるだけでも不快感のあまり吐き気を催すというのに!!?
































 カルタスはまるで、大きな岩が頭に振ってきたかのような衝撃を受けた。


 自分が散々見下していた兄が、あんなに素敵な令嬢と共にいられるなんて。




 いつもだったら気に入った令嬢にはすぐ声をかけるのだが、今日はとてもできそうになかった。
















 自室へ戻りベットに腰掛けて一端落ち着くと、やはりおかしいと思えてきた。


 絶対あり得るはずがない。あり得ていいはずがない。と。


















 後日、家庭教師に教わっている際に『本日は廊下でそれはそれは美しい令嬢を見ました』と聞き、また勉強を投げ出してその場所に見に行ってしまった。






 今日も外で兄と何かをしている。


 彼女は外の方が好きなのか。






 ドキドキさせながら覗いていると、一瞬彼女と目が合った。






 「っ!!!」








 心臓はドキドキ五月蠅いくらい鳴っているのに、息は止まった。










 綺麗だ――・・・・・・。














 カルタスは完全に恋をしてしまった。




 すると途端に兄のことがこれまでより一層疎ましく思えてきた。


 どうしてこんな奴があの子と・・・・・・。自分の方が顔も性格もきっと上に違いないのに!!




 そうだ・・・!あの子も実は嫌がっているんだ。普通に考えてあんな顔の奴と一緒になんかいられるはずがない!!




 よし!今度来たら自分が声をかけて助け出してやろう、と。


















 だがそれからあの令嬢に会える機会はなかった。


 勉強が終わり外へ息抜きに出ると、馬車が門から出ていくところだったということが多くなった。




 召使いたちに彼女が来るときは教えろと言いつけたのに、いつも得た情報とはことなる行動を取る。


 本当に皆使えなくてイライラとする。


 さらに最近何故か召使いたちの兄に対する態度が軟化したような気がする。両親も。


 これらも最近カルタスを苛立たせる要因の一つである。今までどれだけ皆の兄を見る視線で快楽を得ていたか。




 それがなくなるなんて、なんとつまらない。








 そして数年後、挙げ句の果てには彼女は王宮通いを止めてしまったという。




 その時は話しかければ良かったという後悔が強かったが、後からはその気持ちを紛らわすように兄への嘲笑へと変わった。


 やはり兄の顔のせいだ。あの顔が嫌になって逃げ出したのだ。




 そう思うととても気持ちがよかった。












 兄の学友だった頃から、彼女の情報について両親や召使いたちに聞いても何も答えてくれず、彼女に関して知っていることは何一つない。




 皆が通う学園に入学すれば、彼女と会えるのだろうか。




 その時には、あの頃よりももっともっと綺麗になっているだろうな・・・・・・。




































 しかし学園で見た彼女は――












 そもそも男だった。












































































 だがあの頃よりも格段に美しくなっていた。




 心を動揺させるような見事な紫の髪。それはゆるくふわふわと癖がついており、思わず触りたいと思ってしまう。鋭い視線は同じ男であるにも関わらず見つめられでもしたら動悸が激しくなりそうで、顔の輪郭も唇の形も美しい。








 その美しさに、彼に抱いた恋心を思い出す。








 やはり、自分は彼、いやミャートのことが好きなんだ。
































 自分でいうのもあれだが、自分はかなり可愛い顔をしているとカルタスは思う。ミャートは綺麗で美しい系、自分は可愛い系だ。








 絶対兄よりも隣に立つのがふさわしい。




 と、ミャートが兄にベタベタする姿を見て強く思う。












 あんなのと一緒に歩いたら、プラスとマイナスで0になってしまうではないか。




 大体なぜまたミャートと兄が一緒にいるのだ。許せない!!
























 カルタスは学園でも非常に人気が高かった。令嬢にも令息にも熱い視線を浴び、本人は慣れた風を装っているものの、やはり心の中では愉悦を感じていた。








 そんなカルタスだが、ミャートには見向きもされない。


 声をかけられもしないことが悔しい気持ちにさせた。






 それに皆から冷たい視線を浴びるはずの兄も、何故か違う目で見られている。








 とにかく、カルタスは兄も、そしてその周りもが気にくわなかった。




 兄はもっと皆に見下されるべきなんだ。
























 そう思って廊下を歩いていると、周りがザワザワとしそれを合図に前からミャートが来るのがわかった。












 「み、ミャート!」












 「これはカルタス様」
















 以前元気を出して声をかけたら、名前を覚えてくれたのだ。




 嬉しくて胸が熱くなった。








 が、挨拶を交わすと目からカルタスは外され、前を向いて歩き出してしまう。












 「あのさっ!ミャート――
















 「あっ!  カモミーレさまぁぁあああああああああああ゛あ゛!!!」
















 声をかけようとしたら、ミャートは向こう側に兄がいるのを見つけてすごい勢いで走って行ってしまった。




 あんなに嬉しそうな顔。狡い。








 兄が邪魔だ。




























 授業後に庭園でミャートを見かけ、急いでそこへ走った。












 「ミャート!!」












 「おや、カルタス様。本日二回目ですね」
















 「ね、今日王宮に来てお茶しない?こないだすっごくおいしい茶菓子がねっ」












 「申し訳ございません。今日はカモミーレ様と――












 「どうしていつも兄上となのっ!!どうして!!?








 ねぇ!ミャートも僕の側近の方がいいでしょ?あんな醜い奴ほんとはいっしょにいるの嫌なんだよ








 ね?そうでしょ。だってあんなぶさいk――
















 「フザケンジャネェヨ」
















 「!!?」
















 ミャートがいきなりミャートじゃない声で低く冷たくそう言い放った。












 「ミャート・・・・・・?」












 「知ってんだよぉ俺は。あんたがその頭ん中でいつもカモミーレ様のことどう思ってんのか。








  顔に出てんだよ。顔に。そんときの顔はいつもよりも増し増しで醜いですよぉ?




















 俺は、カモミーレ様のお顔がすっっっっっっっっっごく好きなの。












































                 文句あります?」
























 「ヒェッ!」
























 もう怖かった。今までキラキラ輝いて、まるで天界にいる存在のようだったミャートが、悪魔に見えたのだ。
















 「あっ、そうだぁー。俺が書いたカモミーレ様の魅力をたっぷり綴ったこの本読んで、








 一緒にカモミーレ様の魅力を勉強しましょう?
























                       カルタス様?」






















 「ハイ」




































 それからひたすら兄の素晴らしさ、可愛さ、愛らしさが書かれた本を強制的に読まされ、カルタスはややノイローゼ気味になった。




 そのふらふらの頭のまま王宮で兄に会うと、今まで思っていたよりもなんだかあまり酷いと思わなくなっていたことに気づいた。












 それからカルタスは、今まで抱いていた兄への嫌悪・嘲笑が嘘のように体内から消え、普通の兄弟のようにカモミーレと会話を交わすようになったのだった。




















































 「最近なぁ、弟のカルタスが俺と話をしてくれるようになったんだ。しかも俺の顔を見て!!すごくないか?ミャート!!」












 「それは本当に良かったですね、カモミーレ様。








  カルタス様もやっとカモミーレ様の魅力がわかったんですよ」












 「なんだよそれ!恥ずかしいから止めろよな!!」








 「んふふ。だから言うんですよ。 それにカモミーレ様には凄まじい魅力があることは事実ですしね」
























 こうして今日も、底辺だったはずの王子の平和な日々が流れていく。































































































































































































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