20190504②

 気が付いた時には美香が泣き叫んでパパを呼んできていて、私の手には半身がちぎれた大福が握られていた。

 パパが私のことを化け物を見るみたいな目で睨み付けていた。

 腕で口の周りを拭って、私はパパの方に一歩踏み出した。

 ビクッと体を竦ませてパパは私を睨むし、美香もパパの後ろに隠れている。


「ごめんなさい……」


 頭を下げたままでいると、床が軋む音がした。

 パパが近付いて来たんだってわかる。

 

「ど、どうしちゃったんだ利香……」


「わかんないの。でも、もう、大丈夫だと思う……」


「大丈夫って……利香、やっぱりもう一度病院へ行こう。パパ、明後日はお店休めるから」


 私は、パパと美香に謝った。一応、もう一回病院に行こうってパパと約束をして、それから、二人は部屋を出て行った。

 美香がずっと私の方を知らない人を見るみたいな鋭い目付きで見ていたのが、忘れられない。

 頭の中がやけにすっきりしてる。頭の中で繰り返されていた声は、もう聞こえなくなっていた。

 もう一度、ママの日記を開いてみる。赤黒い絵の具をぶちまけた絵だと思っていたものは多分、ママが食べたグミの実なんだなってわかった。


 勉強机に座り直して、大福の死骸にそっと口を付ける。

 ペロリと舌を肉に触れさせると、蜂蜜みたいに甘い味が口の中に広がる。

 小さな頃に食べた事がある。グミの実みたいな味。

 静かだった頭の中で滴が落ちたみたいに綺麗な音がふわりと響く。


「パパ……ごめんなさい。病院、やっぱり明日行きたいな。午前中に」


 私は席を立ってパパにそう伝えた。

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