3話 武器として生きる少年は愛を知る

 今まで自分一人で生きてきた。

 母が異国の民でどこぞの魔血貴族の落し子として生まれた俺。

 その間母が処刑され、自分は暗殺者として身を窶し、数々の魔血を屠って生きて生きた。

 誰にも頼らない頼れない――そう心に決めて生きてきた

 だけど――ある日それは音を立てて崩れた。

 ただ憎むべき父親が判明した。ただそれだけの事実なのに自分がここまで脆く崩れるとは思いもしなかった。

 いつもならば縋る人も見つからず、もっと闇に落ちていたかもしれない。

 だけどその人は闇に沈む俺の手を取ってくれた

 それが俺が初めて受けた愛だった。

 ベッドの上。レヴィはふと目を開ける

 夜闇に沈んだ部屋。その中に息を飲むように白い肌の彼女はその場に座り込んんでいた

「セドナ?」

 レヴィのその言葉にセドナはふとこちらを見た

 何故だろう。先程まで聖母のように大きな存在に見えていた彼女が急に寂しく小さく見えた。

「レヴィ、起きたの?」

 彼女は取り繕うように小さく笑うとレヴィの黒い髪を優しく触った

 そんなセドナに恥ずかしそうに困惑しながらレヴィは彼女に聞いた

「セドナこそまだ起きてるの?」

 その言葉にセドナは小さく笑うと一言答えた

「ちょっと昔のこと思い出しちゃって――」

 そう言う彼女の目から小さく涙が零れる

 その美しさにレヴィは思わずはっと息を飲んだ。

「ごめんね。私が泣いちゃだめだよね」

 そう言うとセドナは溢れた涙を吹くと笑って見せた。

 そんな彼女を見てレヴィは自然と彼女の体を抱き寄せていた。

「レヴィ!?」

「俺、セドナの事もっと知りたい」

 その一言にセドナの目からは自然と涙が溢れた。

 そして彼に体を預けるようにその体を埋めると一つ二つ言葉を続けて言った。

「レヴィ、あなたが火の選帝侯家の血を引くように私も対なす存在の家の出身なの」

 その一言にレヴィはすこし理解できなさそうに首を傾げた

 そんな彼を見てセドナは小さく笑った。

「魔法帝国を核なす魔血は7種類の属性に別れてる。その中の最も強い魔力を持つ属性血の代表が7人の選帝侯。名前の通り魔法帝国皇帝を選ぶ存在ではあるけど今は形骸化しちゃってるけどね」

 セドナのその説明にレヴィはまだイメージが掴めずにいた。

 さらに首を傾げながらレヴィは悩みつつ一言セドナに聞いた

「えーっとつまり、あのおっさんって魔法帝国のすんごい大物なのか…」

 そんな男の血が俺にも流れてるのか――レヴィはあらためてその事実に息を飲んだ

「あのおっさんって…自分の父親でしょ?」

 その言葉にセドナは笑いながら一言言った

 そんな彼女を見てレヴィはすこし膨れながら顔を俯けた

「とくに火、水、風、地の選帝侯は帝都の東西南北の大きな領土を持つ帝国内ではとくに力を持つ存在。帝国の北、大穀倉地帯の火の領主サランド公爵家。帝国の西、音楽の都として発展した風の領主シルディア伯爵家。帝国の東、異国との戦場と隣り合わせの要衝地の領主ティタン辺境伯家。そして帝国の南、他国との海上貿易で財を潤す水の領主ウディナ伯爵家――」

「ちょっと待ってくれ、セドナ」

 そんな彼女の言葉を遮るようにレヴィは一言言った。

「なんでその話がお前と関係あるんだ?俺には全く――」

「いいえ、それが関係あるの」

 その一言にレヴィは思わず押し黙る。

 そんなセドナの顔は真剣そのものだった。

「レヴィ、あなたに火の選帝侯サランド公爵家の血が流れているように。私にも対なす血が流れているの。水の選帝侯ウディナ伯爵家の血が――」

 その一言にレヴィは驚きのあまり押し黙る

 セドナは震えながら一言言った

「私の本当の名前はエリザーベド・ゼシカ・バイデンベルク。現ウディナ伯爵家当主ヴィルフルート・ヴァイス・バイデンベルクの実の娘よ」

 セドナのその激白にレヴィは思わず呆気に取られた。

 いや、その事実を理解したと言うよりその事実を理解が追いついていないという表情を浮かべた

「急にそんなこと言われてもわからないよね」

 そんな彼の顔を見てセドナは困ったように笑った

「理解できないのはわかってる。あなたの気持ちが混乱してるのもわかる。だけどあなたにはもう隠し事したくなかった。だから本当のことを言いたかった」

「セドナ…」

「あなたの言いたいことはわかる。なぜ今の私と名前がちがうのか――そう言いたいんでしょう」

 そう言うとセドナは浅葱色のショートヘアをかき分け言葉を続けた。

「私はたしかにウディナ伯爵家の娘として生を受けた。本来のエリザーベドならば何不自由なく公爵家令嬢として生活できていた。だけど私には先天的に魔法の血を受け継がなかった不完全魔血だったって判明したの」

「それでその水の選帝侯様は不完全な実の娘を捨てたってわけか?」

 レヴィのその一言には小さな怒りが見え隠れしていた

 だがセドナは小さく首を振った

「違う…って言いたいけどそう見えちゃうよね。実際はそうよ。5歳のとき魔法の血がないって診断されて私は廃嫡された。エリザーベドはその時死んだのかもしれない」

 そう言うとセドナは小さくため息を付いた

「だけど魔血令嬢のエリザーベドは死んだけど私はバイデンベルク家のメイドであったアンナ・フロストに極秘裏に引き取られた。その瞬間私はエリザーベドからセドナに生まれ変わった」

 セドナはそう言うとレヴィの手をギュッと握った

「レヴィ。私あなたにあなたのことが一番わかるのは私って言ったよね?」

 その一言にレヴィはだまって頷いた。

「これでわかったでしょ。火の選帝侯家の血を引いた半魔血のあなたと水の選帝侯家の血を引いた不完全魔血の私。私たちは似ているようで非なるものなのよ」

 その言葉を聞いてレヴィはセドナの肩を強く抱きしめた

「セドナ…」

 レヴィはそう言うと彼女の金色と紫の瞳をじっと見た

「俺、お前のことが好きだ」

 その言葉は驚くほど自然にこぼれ落ちた

 だがその言葉を恥じることなく一言言い放った

「選帝侯だとか生まれだとかそんなことどうだっていい!俺はセドナが好きなだけなんだ!」

「レヴィ…」

「俺がお前のこと好きなことに理由なんて関係なんかない!それでいいだろ!」

 そういった瞬間レヴィはセドナの唇を激しく奪った。

 そしてそのままレヴィはセドナの体をベッドの奥へ押し倒す

 セドナもまたレヴィが求める通りだまったまま体を預けた。

 そうか――これが愛なんだ。

 レヴィはセドナと愛し合いながらそれを噛み締めた。

 それは一人ぼっちだったレヴィが生まれて初めて知った愛の味だった。

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