第12話 倉庫小屋の全体像を把握せよ!

ミフネ、フブキ、サユリの三人は、活動資金を得るため、文化祭を待たずにカフェのオープンを目指すことにした。

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 その日の放課後、三人は体育倉庫から巻き尺を、現在は校舎内にある校務員室から脚立を持って再び倉庫小屋にやってきた。


「じゃあ、ツナギに着替えて作業開始!」

イシハラ先生にもらったツナギも、当初はパリッと糊が効いていたが、何度か着ていくうちに汗も吸って、洗濯もしてずいぶん柔らかな着心地になってきた。


 三人は、テイクアウト中心のカフェ開業に向けて内装を具体的にデザインするため、建物内の寸法を詳細に測ることにした。

フブキとサユリが巻き尺の端と端を持って部屋の縦・横・高さなどあらゆる長さを測っていく。

その値をミフネが記録するという作業だ。


 この倉庫小屋の内寸は、7m×12mの長方形になっている。

出入口として使っているのは、12mの長辺にある引き戸である。

出入口を入ると左側の壁には、パンチングボードに電動工具が固定されていて、ここがもともと校務員室も兼ねていたことがうかがえる。

また、部屋の隅に夏の間は使われていない据え付けの石油ストーブがあり、えんとつが壁をつたって外まで伸びている。


 天井は屋根裏がない勾配天井で、山小屋のような雰囲気で梁がむき出しになっている。

天井の高さを測定することはできなかったが、最高部は4mはありそうだ。

部屋を横断するように複数の梁が約180cmおきにわたっている。

床はすべて板張り。目立った穴や軋みはない。

壁は、ベニヤ板がむき出しで味気ない。壁に一定の厚みがみられ、断熱や防水などの施工されていると思われる。

窓は、長方形の窓が四方すべての壁にあるが、かくし部屋側だけはすりガラスになっている。

天井付近には、明かり取りの丸窓があり特徴的だ。


 水場は二か所。小さな手洗い場と、キッチン。

 ガスは二口コンロが設置されているが、長い間使われた形跡がないので、点検が必要だ。

 反対側の長辺にも出入口と同じ寸法の引き戸があり、そこを出ると単管パイプの骨組みと波板の壁で囲まれた「かくし部屋」だ。

最近まで、この戸が山積みのガラクタで隠れていたため、三人はこのスペースの存在を知らなかった。

そのため、「かくし部屋」と呼んでいる。

ここは、もともと屋外だが、4m×12mの広さがある。

その中にトイレや風呂の「はなれ」も収まっている。

トイレは水洗だが、風呂はなんと薪で沸かす五右衛門風呂だ。

古い型の洗濯機も置いてあり、物置兼物干し場だった様子がうかがえる場所だ。



「ふあ~、つかれたわ~。」

すべての寸法を測り終えたサユリがばたりと床に倒れた。

「建物自体は古いけど、使う上でそれほど支障はなさそうやね。」

フブキも、巻き尺を巻き取りながら、脚立の2段目に腰掛ける。

「この広さでいくと、カウンターはこのへんにきて・・・。サユリのかいたイメージをもとに、カウンターテーブルの図面をかいているんだけど・・・・。」

ミフネは作業台の上でサユリのスケッチブックにカウンターテーブルの設計図をかいていた。

サユリのイメージデザインの線は、フリーハンドだが味がある。

その横にかかれたミフネの線は、すべての線が定規でかかれていて、線にもまじめさがにじみ出ている。縮尺も完璧に実寸の十分の一だ。


「もう今日は遅いから、つづきは家でやってくるね。サユリ、このスケッチブック借りていくね。」

夢中になっていたが、気が付くと、夕焼けの赤い西日が窓から差し込んできていた。

「ええよ~。そうや、ミフネは電車通学やもんね~。遅くなったら家の人が心配するけんね~。」

サユリとフブキは、二人ともこの高校に歩いて通える距離に住んでいる。

「いや、心配はされていないと思うけど・・・。」

そのとき、部活動の時間の終了を告げる放送が校内に流れた。

カフェづくりは部活ではないが、いつも三人はこの時刻を守って下校するようにしている。

生徒会に目を付けられると厄介だからだ。

スケッチブックを閉じると、ミフネは慌てるようにツナギを脱いで、制服に着替え始めた。

二人もそれに続いた。

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