第24話 血

◆カイエン視点


「おい、隊長はいるか?第五王子カイエンだ!」


「は!私がガルガ方面国境警備隊隊長キンバリーです」


俺は、街道を塞ぐ柵を設けていた六名の兵士の前で叫んだ。


「悪いが急用でな、ガルガの姉のところに向かう途中だ。柵を退けて街道を開けてくれ」


「申し訳ありません。ベルン殿下より何人も通すなと、申し使っておりますので対応しかねます」


「俺の頼みでもか?!」


「たとえ、ベルン殿下本人であっても通すなとのご指示です」


く、流石、兄上だ。

どうする?蹴散らすか?!俺が最悪の選択をしようとした時、停止した馬車から伯爵の声が聞こえてきた。


「ほ、ほ、ほ、お前達、これを見るのです!」


なんだ?何をするつもりだ?

俺は兵士達と同じ様に、伯爵の方を振り返った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なんか、手こずってる様子だな」


おれは、カイエンの後ろ姿と兵士達とのやり取りを遠目に見て、そう感じた。


「仕方ありませんね、乙女には一肌脱いでもらいますか」


「ああ、多少の事は手助けす?!」チャキッ、


「それを聞いて安心しました。では、このまま馬車を降りて彼らの前に行きましょう」


「いっ!?」おれの首すじから僅かに血がながれる?!手を後ろ手に取られた?

チョビひげおやじが、おれの首すじにナイフを宛がい、おれを馬車から押し出す。

チクショウ!何が親切で優しい人々だ!

危ない奴らの集まりじゃないか!


「お前達、乙女を縛れ」


「「「は!」」」


く、ネジあげられた腕が全く動かない。

こんなチョビひげおやじにも、おれは力で敵わないほど弱くなってるのか?

うう、騙された!



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆カイエン視点


「は?!」


伯爵の部下の兵士が乙女を縛り、伯爵と乙女の三人が俺達の前にいた。

何をするつもりだ!ああ、乙女の首すじから僅かに血が流れた跡がある?

乙女を無理やり縛ったのか?!

国境警備の兵士達は動揺しているが、俺もだ。

伯爵があの娘に乱暴をしたと思うと、急に怒りを感じた。

何故だ!?


「この黒髪で分かるでしょう、お前達の豊穣の乙女です。ただちに柵を外して退きなさい。さもないと乙女の命はありませんよ」


く、伯爵は乙女の首すじにナイフを宛がった。

国境警備の兵士達が、後ずさりする。

俺は隊長に言った。


「あれは本気だ!お前達、早く下がれ。乙女を殺す気か?!」


「わ、分かりました?!全員、持ち場を離れて端に控えよ!」


兵士達が、柵を片付けて端に控える。

予定と違ったが、なんとかなったか。

う、乙女が俺を睨んでいる。

かなり怒っているな、あれは。

どちらにしても、早く縄を解いてやらないと。

俺はすぐに、伯爵のところに走って言った。


「伯爵!もういいでしょう、乙女の縄を外して」


「このままの方が、運び易くて良いでしょう。問題ない。貴方も言っていたではありませんか?道具は運び易い方が良いと」


う、確かに言った事があるが、なにもこのタイミングで言わないでほしい。

ああ、乙女がめちゃくちゃ睨んでくる。

完全に信用をなくしたな。

困った。


「確かに言った事はあるが、別に乙女の事を指して言ったつもりはない」


「いまさら、取り繕う必要があるのですか?はっきりおっしゃったじゃないですか。乙女を姉君と交換でガルガ王に渡すと」


「伯爵!っ」


くそ、乙女が完全に俺を見ない、馬車の外ばかり見ている。

はぁ~っ、胸が痛い。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆ベルン視点


「なに?乙女を人質に取られ、国境通過を阻止出来なかったと?!」


俺は、今、警備隊長のキンバリーから事の経緯の報告を受けていた。


「はい、乙女はガルガの兵士に縛られ、首すじに短剣を宛がわれておりました。街道を開けなければ乙女を殺すと明言され、乙女の首すじから少し血がでていましたので、本気と判断しました。」


「?!」、モモを傷つけたのか?!ザルツか?カイエンか?


「勇者様が血を流されただと!」


「精霊どの?!おのれ、ガルガ王国!」


2人が怒り出したので、俺はかえって冷静になれた。

これは、ザルツの仕業だ。

あの男はその場の状況で、上手く相手の心理を突く手法を心得ている。

おそらく、その手でカイエンを引き込んだのだろうが、流石はガルガの外交を任されているだけの事がある。

どちらにしても、ガルガに向かわねばなるまい。


コンコン、ノックの音がして、リンゴ姫が入ってきた。


「リンゴ姫、今は会議中だ。入室を許可していないぞ」


「こほっ、モモ姉様の事ですわよね?なら、私も聞く権利があります」


ふぅーっ、リンゴは言い出したら聞かないからな。

しょうがない。


「カイエンがガルガに唆されて、モモを連れ出したのだ。今はガルガ王国に向かっている」


「モモ姉様が?!」


「必ず、俺達で救出する。おとなしく待っていてくれ」


「分かりましたわ、これを」


リンゴ姫は、俺に一枚の絵を渡した。

見ると、リンゴ姫の名前の元になった果物の絵だった。


「それは、私です。私も救出に共に連れて行って下さい」


「わかった。吉報を待っていてくれ」


「はい」


俺はジーナスとラーンを見た。

二人とも、頷く。

よし、ガルガ王国へ出発だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る