24 レッツスポーツ&ゲーム!

 そのスポーツ施設は、公園を出て国道沿いに十分程歩いた場所に建てられていた。一目見てわかったが、秋人の言っていた通り存在感が凄まじい。近付くにつれ、その規模の大きさをまじまじと実感させられた。これ程の巨体だというのに、何故自分は今の今まで名前さえ知らなかったのか。もしくは、実は何処かで噂程度でも耳にしたことがあって、それをすっかり忘れてしまったのか。どちらにせよ、俺のスポーツに対する興味の薄さが露呈されたことに違いはない。

 自動ドアで室内に入ってすぐ、心地良い冷気が俺たちを包んだ。「涼しい……!」とつい声を上げてしまった程だ。最高。ここに住みたい。いや何言ってんだ俺は。こんな具合で若干思考回路がおかしくなる程涼しい。

 右手には扉で仕切られたパチンココーナー、左手にはゲームセンターがある。スポーツ施設というより、本当にアミューズメント施設といった感じだ。ただ今日の目的は妹さんの特訓なので、ここはスルーし上の階へ……行くはずだったのだが。

「あーっ! あそこのクレーンゲームにあるぬいぐるみ……! 今すっごい欲しいやつ!」

 突然、ゲームセンター内のクレーンゲームを目にした小春が声を上げた。当然みんな反応し、小春の見つめている方向へ注目した。

 そこにあったのは、あるマスコットキャラクターのぬいぐるみだった。今、巷の流行には基本的に疎い俺でも知っているレベルの大人気を博しているキャラで、イベント等が開催されればチケットは即完売、ぬいぐるみ一つ買うことさえ一筋縄ではいかないのだとか。

 それが現在目の前にある、とのことで、小春の目が輝いている。


「俺も知ってる! あれって超レアなやつじゃん!」

「やりたい……けど、今日はダメだよね。さっ、行こ行こ!」

「そう言われると、みんな却って先行きづらいんじゃ……」

「だって、今回は秋葉ちゃんの為にここに来たんだから! ねっ、秋葉ちゃ──」

 小春が妹さんに目配せすると、少し予想外な妹さんの表情が飛び込んできた。彼女も、小春と同じ様にどころかもしかしたらそれ以上に目を輝かせているのだ。

「あ、秋葉ちゃん?」

「はっ……あ、あの、すみません、これはその……」

「いや~、実は秋葉もあのキャラ好きなんだよね~」

「っ!? ちょ、ちょっとお兄、やめてよ!」

「まぁまぁ、いいじゃん別に。そんな恥ずかしがるなよ~、減るもんじゃねーしさ」

「そういう問題じゃない! 私はお兄みたいな考え方出来な……あっ」

 人前で、素の自分のまま兄と言い合いしてしまっていたことに気付いた妹さん。彼女の性格を考慮すれば恥ずかしいことこの上ないだろう。事実、今彼女は口を大きく開け赤面している。そのままたどたどしく喋り始めた。

「す、すみません、お恥ずかしいところを……」

「ううん、全然気にしないで! 寧ろ、素の秋葉ちゃんが見れて嬉しいかも」

「うん。私たちのことは気にせず、リラックスしてくれたら嬉しいな」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

 小春と唯奈に優しい言葉を掛けられ、妹さんはぺこりとお辞儀した。俺も概ね二人と同じ意見だ。先程まで堅い印象だった彼女の年相応な部分が漸く垣間見えて、安心したというか和んだというか、そんな気持ちになった。冬樹たちも、穏やかな微笑みを浮かべている。


「じゃあ、一旦ここで休憩ってことでいいか?」

 そこで、妹さんの意図を汲んだ光が提案する。しかし、やはりというべきか、本人は思うところがあるらしく。

「でも今日は、皆さん私の特訓の為に時間をとってくださったんですよね。私の都合で、せっかくの時間を無駄にするわけには……」

「んー……なら、ゲーセンで遊びたい奴はここに残って、そうじゃない奴は上に行くっていうのはどうだ? それなら、自分も心置きなく特訓出来んだろ」

「確かに! 秋葉は特訓出来るし、ぬいぐるみは誰かが秋葉の分まで挑戦すれば良いし、一石二鳥ってやつじゃん!」

 光の折衷案に、秋人は感心する。当の妹さんも納得出来たらしい。

「そう、ですね……。じゃあ、どなたかお願い出来ますか」

「はーい! 私に任せて~! 私が責任取って、秋葉ちゃんの分まで掻っ攫うから!」

「あ、ありがとうございます。お願いします、小春さん」

 力強く頼もしい小春の言葉に、妹さんも安堵した様子だ。

「他、ゲーセンに居たいって奴いるか……」

「はい、俺ゲーセン居る」

「僕もそういうことで!」

「手挙がると思ったよ……。わかった、言い出したのは俺だからな。気が済むまで遊んでこい」


「あのさ、美玲も遊びたいみたいなんだけど」

 小春の他、俺と冬樹の内定が決まったところで、初夏が声を上げた。しかし、遊びたいのは自分ではなく美玲なのだと言う。美玲本人も横で首を縦に振った。以前、例の集まりの際に、美玲はゲーセンの類には行った記憶がないという話を聞いた。つまり、今回がデビューってわけだ。受動的かつ消極的だった彼女が……と思ったが、単に俺らと同じで運動に疲れたのかもしれない。それだと何か拍子抜けするから、成長したということにしよう。

「俺もついてって良い? 美玲が、俺と一緒が良いって言ってんだよ」

「おう楽しんでこい」

「美玲、ゲーセンってマジ楽しいから! ず~っと居ても全っ然飽きねーから!」

「……うん、楽しむ」

 美玲と初夏の内定も決まり、ゲーセンは五人が滞在ということになった。皆で各々言葉を交わした後、ゲーセン前で別れ、他の面子はエレベーター横の階段に消えていった。

「よ~っし! すーちゃん取るぞ~!」

 早速クレーンゲームコーナーへと向かっていく小春。ちなみに、すーちゃんというのは小春たちが狙っているマスコットキャラクターの名前である。

「ちょ、おいハル姉! 急ぎすぎだろ、美玲もいるのに」

「うるさいなー、わかってるってば。美玲ちゃんもすーちゃん欲しい?」

「……折角だから、欲しい」

「よし、任せて! 要さんと冬樹君は?」

「え、いや、俺はいいわ。ぬいぐるみとか買わんし」

「僕も大丈夫ですかね~。あ、でも応援は出来ますよ! 何ならお手伝いもしましょうか?」

「応援かぁ~! じゃあここはお願いしちゃおっかな! 助っ人も、いざってときには頼っちゃうかも」

「全っ然、どんどん頼ってください! ゲームは得意分野ですからね~!」

「お~頼もしい! それじゃあ、いざ挑戦!」


 小春は筐体前に立ち、取り敢えず五回分の金を入れた。だが、断言する。絶対に五回では、三つどころか一つも取れない。ここのアームの強度にもよるが、クレーンゲームはそんなに甘くはない。非常に腹立たしいことに、大抵はこちらを嘲笑うかの如く弱々しく、どう見たっていける体勢でもいけないこともしょっちゅうある。もっとも、ガチのゲーマーはそっちの方が燃えるらしいのだが。冬樹も同じことを言っていた。

 現在小春が挑戦中……なのだが、案の定苦戦している。

「ちょっと! 今の絶対いけてたでしょ!」

「何だよこれ、アーム弱すぎじゃね!? ハル姉、もう一回!」

「わかってる! 絶っ対取ってやるんだから!!」

 もう既に熱くなってるな。美玲も、少しわかりづらいが固唾を飲んで見守っている。でもわかるよ、そういう気持ちになる。それで最初は回数を決めていたつもりが、もう一回、もう一回、って切りがなくなって、気付いたときには大量の金が財布から消えている。とんでもない金吸い取り機だよ奴らは。

「あっ、小春ちゃん! あそこ引っ掛けられるんじゃないですか?」

「えっ? あっ、ほんとだ! こことれれば……あぁっ、だめだぁ……。全然上手くいかないよ……」

「ここは冬樹に任せた方が良いんじゃね? コツとか知ってそうじゃん」

「そうだね~……。冬樹君、悪いけどお願い!」

「は~い! お任せあれ!」


 冬樹が助太刀してくれるんなら、もう安心だな。あいつ、他のゲームに比べたら自信ないみたいだけど、それでも傍から見れば十二分に上手い。流石、今も学業そっちのけでゲームに打ち込んでいるだけある。いや勉強はしろよ。

 さてと、俺も何か遊ぶとするかな。そう思い立ち店内を見回すと、視界に某太鼓ゲームを捉えた。そういえば、最近全然やってないな。この際だし、腕鈍ってるだろうけど、やってみるか。

 筐体に金を入れ、ラインナップを見てみる。今流行りのJ-POPやアニソン、ボカロ曲などが多く連なっていた。俺が好きな曲も多く入っていて、何をやろうか迷ってしまう。このゲーム、俺の好みわかってんな。

 迷いに迷って決めた一曲で、よくやっていた難易度で一回プレイした。やっぱり久しぶりなのでところどころミスってしまった。でもそんなの全く気にならないくらい楽しかった。これは俺の持論だが、ゲームはブランクを空ければ空ける程次プレイしたとき楽しいし面白い。それが裏付けられた。やばいなこれ、久々の太鼓ってこんなに楽しいんだ。こうなったら、時間と光の許す限り遊びまくろう。


「……すごい、上手」

「んっ? って何だ、美玲か」

 と、背後から小さく声が聞こえたので、振り返ってみると美玲がいた。どうやら、俺のプレイを見ていたらしい。一瞬遅れて、美玲があのぬいぐるみを持っていたことに気付いた。

「あれ? てか、そのぬいぐるみまさか」

「……うん、冬樹君が」

「やっぱり! あいつ、もう取れたのか。すげぇなぁ」

「……上手だった」

「はは、そうだろ。取れたのは一つだけか?」

「……まだ。今挑戦中」

「そっか。なかなか手強いな、ここのアーム」

 クレーンゲームコーナーを遠目に眺めてみると、また小春が悪戦苦闘していた。冬樹に頼っていないのは、妹さんと約束した以上、一つくらいは自分で取りたいという思いがあるのだろう。でも何か、惜しいところまでいってるように見える。冬樹から何かしらのコツを教わったのか。

「……要君」

「ん? どうした?」

「……これって、リズムゲームっていうものだよね」

「あぁ、そうそう。そうか、知らないのか」

 美玲は、太鼓に興味があるっぽい。この楽しさを如何に上手く伝えられるか、オタクとして腕の見せどころだな。

 ……そうは言っても、実際にやってもらった方が早いよな。

「一緒にやってみるか? やり方は教える」

「……うん」


     ○


 遅いなぁ、小春たち……。結構、長引いているのかな。小春のことだし、ゲームが得意だからってあまり冬樹君や要君に頼りたくないのかも。

 そうぼーっとしていたら、いきなり球がこちらへ向かって飛んできた。

「うわっ!」

 思わずバットを振りかぶると、カキンという心地良い音が耳に入った。無事当たったらしい。

 すると、隣から光ちゃんに話し掛けられた。

「やっぱり、運動神経良いな。瞬発力も優れてる」

「そうかな? 秋人君にも同じこと言われたけれど、二人にそう褒めてもらえると嬉しいよ。ほら、二人ともスポーツ得意でしょ」

「俺は褒めたっつーか、自分の目に見えた事実を言っただけだよ。それにスポーツ得意か苦手かは、関係ないんじゃねぇの」

「ふふ、確かにそうかもね」

 若干つっけんどんな返しに聞こえるけれど、それは彼なりの照れ隠しなのだと今となってはわかる。そういう不器用なところは、兄さんそっくりだなとも思う。温かい目で見てしまう。

 光ちゃんはここまでこちらに顔を向けずに喋っているので、ちょっとでも目を合わせたいと思い見つめていると、一瞬だけ目が合った。こちらの様子に気付いたらしく、また視線を戻して呆れたように言った。

「……何だその顔。お前もだんだん、あいつらに似てきたな」

「そう? 何か嬉しいな」

「褒めてねぇ、ほらよそ見すんな、球来てんだろ」

「えっ? あ、うあっ!」

「まぁ、人の目を見て話そうとする姿勢には感心するけどな」


 私たちは今、施設内にあるバッティングセンターに来ている。

 スピードは自分で調整出来るが、球は規則性なくランダムに飛んで来るので、本当は僅かも油断出来ない。そういった意味では瞬発力も鍛えられるので、特訓にはうってつけだと私たちは判断した。ちなみに、現在秋人君秋葉さん兄妹は小休憩中で、私と光ちゃんのみが挑戦している。けれど、もう疲れてきたな……。

「二人ともお疲れ~!」

「お待たせしました」

「あ、しっかり休憩出来た?」

「うん!」

 と、光ちゃんの隣に秋葉さん、そのまた隣に秋人君が合流した。

「二人も休憩した方がいんじゃね? ずっとやってるし」

 秋人君に言われた光ちゃんは、一旦ピッチングマシンを止めた。つられて私も止める。

「言われてみりゃ、そうだな。俺はそうしても良いけど、どうしたい?」

「うん、休みたいかなぁ」

「よし、じゃあ入れ替わりってことになるな。ベンチに座って見てるから、頑張れよ」

「おう!」

「はいっ。お兄、二人を見習ってもっとわかりやすく説明してよね」

「いやだから、無茶言うなって。俺は感覚派だし、第一やりながらとかさぁ、二つのこと同時に出来ねーよ……」


 バッターボックスを後にし、目の前にあるベンチに腰掛け、タオルで軽く汗を拭き取る。喉もかなり乾いていたので、水筒の中身をだいぶ減らした。

 それにしても、と隣に座っている光ちゃんが呟いた。

「あいつらはまだ来ねぇのか」

「そう、だよね。粘ってるのかもしれないけど……ん?」

 連絡を入れてみようと思いスマホを取り出すと、小春からメッセージが届いていることに気が付いた。

「どうした? 何か連絡来てたか」

「うん、小春から。えっと、あっ、ぬいぐるみ取れたって!」

「おー、そうか。なら粘ってよかったな」

 メッセージと共に、三体のぬいぐるみを並べた写真も送られてきていた。相当嬉しいだろうな。

「あれ、要君からもメッセージ来てる」

「あいつからも?」

 光ちゃんもスマホを取り出し、アプリを開く。「本当だ」と呟くと、文面を目で追いだした。メッセージの内容は、長かったので要約すると『久しぶりに太鼓のゲームをやったけど楽しい。あと美玲ちゃんに太鼓の才能がありすぎる』といったものだった。

「長ったらしい。もう少し纏めてから送って来いよ」

「あはは……。でも、何か要君らしいね」


 顔を前へ向け直すと、二人がバッターボックスに立って奮闘していた。特に、秋葉さんはなかなか球がバットに当たらず難儀している様子だ。

「おい、後ろ脇閉めすぎだぞ。開けておいた方が良い。バット振ったとき、ヘッドスピードが上がるからな」

 そんな彼女を見かねた光ちゃんが、アドバイスを投げかける。その声が聞こえた秋葉さんは「はいっ」と返事をし、自身のフォームを直した。私も、何かアドバイスしようと続く。

「それと、背筋より腰を意識した方が良いかも。腰を前に入れて、お尻を後ろに突き出すイメージで!」

「は、はいっ!」

 隣の秋人君も、頑張っている妹に発破を掛ける。

「おー、秋葉良い感じ! これなら絶対いけるいける! いけー!」

「本当!? これで打てなかったら、お兄のせいだからね!」

「えぇっ、何でだよ!? 責任重大すぎ……あっ、ボール来る!」

「っ!」

 タイミングを見定めて、ボールを……。

「……打てた」

「ほら、いけたじゃん!」

「わぁ、おめでとう!」

 秋葉さんは、まだ自分が球を打てた実感が湧かないらしい。

「み、皆さんのお陰です。ありがとうございます。一応、お兄も」

「出来るようになったのは自分だろ。だから、自分のことも褒めてやれ」

「……はい!」


「おーい! みんなー!」

 不意に、明るく可愛らしい声が耳に入った。幼少期からもう何度も聞いている、家族並みに馴染み深い声だ。

「小春!」

「ごめん、お待たせー! 思ったより長引いちゃってさ」

 私たちの様子に気付いた二人も、ピッチングマシンを止めバッターボックスを出た。秋葉さんは、小春が腕に抱えているものに視線を向けるなり、やや興奮気味に「これは?」と尋ねた。

「秋葉ちゃん、任務、しっかりと果たしてきたよ!」

「あぁ! ありがとうございます……!」

 小春からぬいぐるみを受け取った秋葉さん。「嬉しい」「可愛い」と呟きつつ抱き締めていて可愛い。

「まぁ、そうは言っても私一人じゃこの子取れなかったよ。冬樹君が色々教えてくれたお陰──あ、来た来た」

 エレベーターから、少し遅れて冬樹君たちが現れた。小春が手を振ると、振り返しながら一目散にこちらへ向かってきた。

 冬樹君は、開口一番秋葉さんの様子を知りたがった。

「喜んでもらえました?」

「うん! こっちまで嬉しくなっちゃうよ」

「あの、相沢さんが小春さんのお手伝いを?」

「はい、少し。ゲームが好きでよくやってるんで、力になれればな~って。実際、それが出来たので何よりですよ!」

「そうだったんですか。それは、ありがとうございました」

「いえいえ~」


 美玲ちゃんも、ぬいぐるみを抱えていた。心なしか、その表情も満足げ。

「美玲も楽しめたっぽいね!」

「……うん、楽しかった。特に、あの、太鼓のやつが」

「あぁ、達人? あれは面白いよな~」

「いやぁ、美玲は才能あるよ。初見だったんだけど、俺がちょっと教えただけですぐ上手くなってさ。将来有名なゲーマーになったりなんかしたら『美玲は俺が育てた』って周りに言ってやろうと思ったくらいで」

「はいはい、厄介オタクの戯言は結構で~す。何が『俺が育てた』ですか。本当に育てたって人はそうやってしゃしゃり出たりしませんから」

「ねぇマジレスでツッコむのやめてくんない?」

「はいお前ら、夫婦漫才はそこまで」

「「夫婦じゃない(です)!」」

 要君と冬樹君、本当息ぴったりだなぁ。光ちゃんの言った、夫婦漫才っていうのもわかっちゃう。

「それは置いといて」

 初夏ちゃんが、話題の転換を図った。

「あのゲーセンマジで広かったよな。光でもないのに迷いそうだった」

「一言余計な?」

「事実じゃん」

「確かに、そうだけどなぁ」

「ちょ、二人もそこまで!」

 初夏ちゃんと光ちゃんのやり取りを、秋人君が仲裁する。それを横目に、要君が「お前らも人のこと言えないだろ」とぼそっとツッコんだ。


「あれ~? 唯ちゃん、楽しそう!」

「へっ?」

 みんなを見守っていると、突然小春から言われ驚いた。小春の言う通り、楽しいは楽しい。だけど、そこまで顔に出てたかな?

「わ、わかっちゃった?」

「わかるよ~。だって私、唯ちゃんの幼馴染みだもん」

「あ……ふふっ、そっか。そうだよね」

 幼馴染み、か。

 幼馴染みだから何でもお見通しなんて、そう当たり前のことではない。なのに、小春は当然のことのように言ってきて、それが、並大抵の言葉では言い表せない程嬉しい。ってことも、小春にはバレバレなんだろうなぁ。

「よし、全員揃ったし、そろそろトレーニング再開とするか」

「……あ、そ、そうですね」

 心なしか、秋葉さんの顔がまた引き締まった。

「うん……秋葉、どっか行きたい? それともまだバッティングする?」

「えっと、もう少し、ここでやりたいかな。皆さんが良いなら」

「もちろんだよ! 一緒にやろ!」

「バッティングってどうやるんだ……? いや、バット振りゃ良いのか」

 私たちは引き続き、バッティングセンターで特訓する運びとなった。

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