第13話


「思ってたよりずっと大きいです」

コスモス畑越しにそびえ立つ大仏を見上げて、美貴子は感嘆の声をあげた。

「なかなか壮観ですね。中にも入ってみますか?」

「ええ、もちろんです」


この日、美貴子と琢磨は茨城の牛久大仏を見にやってきていた。あのバスツアーでやり残したこと、つまり牛久大仏見物をしに、二人で電車に乗ってやってきたのであった。


物珍しいものを見たがる美貴子は、胎内見物を大いに喜んだ。



薄暗い仏像の胎内を一通り見学して、外へ出てきた美貴子は目を細めた。

「眩しい。再び産まれ直したような気持ちになります」

「この胎内見学には、そういう目的もあるのかもしれませんね」



二人は再びコスモス畑に戻り、風に揺れる花の間から大仏を眺めた。


「それにしても、あのバスツアーでは災難でしたね。でも犯人たちの計画は、美貴子さんが予想していたのと同じでしたね。まるで探偵だ」

「そんなに褒めないでください。あれは琢磨さんの写真があったから気づいたことですよ。それに警察は私より先に気づいていたようですし」

餅は餅屋というだけのことはあり、警察はとっくに桜塚夫妻に目を付けていたようだった。科学捜査と被害者の身辺調査のたまものであろう。ただ、家を訪ねたのが美貴子たちが先だったというだけのことだった。


「私のほうこそ、琢磨さんを変なことに巻き込んでしまいましたね。ごめんなさい」

殺人に出くわしたり、ガス自殺未遂の現場に鉢合わせてしまったり。それらは美貴子がバスツアーに申し込まなければ、そして透を誘わなければ琢磨は経験せずに済んだのだ。

「いいえ、私は今回のバスツアーに参加して良かったと思っていますよ。美貴子さんと会えて良かった」

美貴子はどきりとした。それは彼女にとって別れを意味する言葉なのだ。

会えて良かった、その後に続く言葉は、さようなら――


しかし、琢磨はまっすぐ美貴子を見つめて、

「良かったら、これからも会ってくれますか、その、恋人として」

とはっきり言った。



あなたに会えてよかった、この言葉が別れではなく、始まりになることもあるのだ。

それならば、そう言われるのも悪くはないと思えた美貴子は、

「はい、よろしくお願いします」と答えていた。


<おわり>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

見知らぬイケメンと行く「板橋区→茨城バスツアー」殺人事件 ゴオルド @hasupalen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ