(@*'▽') 絆はね、切れたりしないんだよ?

「……ふぅ」


 息をひとつ。夜九時。バイトが終わった。


「うう~ん」


 空に向かって背伸び。雨は上がっていた。


「おやぁ?」


 梅雨入り前の、洗われた夜空の下で、友達が立っていた。


「ナガサ。傘、忘れてないか?」

「……? はっ!?」


 彼に言われて気付く。


「待ってて! 取りに行ってくる~!!」


 今日みたいな日は誰でも忘れやすいよね。と、自分に言い訳しながら取って返す。


 それにしても、だ。


 お母さんといるところは見たことあるけど。


「おひとり様で来るのは初めてだね? カズくん」


 なぜ、わたしのバイト先の病院に来ているのだろう。


 わたしを迎えに―――なーんて色気のある話じゃないだろう。


 で。


「ただいまぁ」

「おかえり。ところで傘は?」

「はっ!!?」


 わたしは手ぶらで行って手ぶらで戻ってきた。


「違うの! 更衣室に戻ったらリーダーさんがおやつのお饅頭くれたからぁ!」

「何も違くない。平常運転のナガサだから安心しろ」

「理解あるカズくんがいてくれて本当にありがたやありがたやだよぉ」


 でも……。


「もうちょっとしっかりしたい所存でありますぅ……」

ナガサは偉い。ダメなのは、やつだ」

「それは……わたしの吏依奈しんゆうのことでありましょうか?」


 カズくんの辛辣な物言いに、わたしはおずおずと訊いてみたが。


「違うよ」


 良かった。


「二俣は、と思い込んでる」

「……それね」


 やっぱりこの人とは気が合うなぁ。


「カズくんはどこかお身体の具合でも?」

「いや……なんとなくブラブラしてたら、ここまで」

「うふふ」


 案の定、色気がないなぁ。


 ま、いいか。


「帰り道で良ければお話聞きますよ?」

「……うん」


 病院からわたしの家までは徒歩十分くらい。


 カズくんの家からは車で来ないといけないほど遠い。


 そんな距離を歩いてくるほどの“なにか”があったのだ。


「マウスガード、つけてないね」

「夜はどっちにしろ不審者扱いだからな」

「……ごめん、笑えないや」

「ほぉか」


 街灯は多く、月も出ているが、カズくんの顔は昼間ほどはっきりとは見えない。


「……人を頼るのは難しいな」


 脈絡なくカズくんがそう言った。


「それで悩んでるの?」

「うん―――」


 吏依奈の名前は出さないが、きっと彼女との間でのことだろう。なんかこそこそしてたし。


「頼られていろいろやってたんだが、「返せないからもうやめてくれ」って。

 俺も相手にはそれなりに頼ってるつもりだったんだが、釣り合いが取れてなかったみたいだ」

「むむむ……」


 わたしには難しい話だった。


「ナガサみたいには、できないな」

「わたし?」

「お前、人を頼るの得意だろ」

「そうかなぁ? ……そうかも」


 自慢はできないが、自信はあると言える。


「医者や介護士や、父親だったらまだいけるんだけどな」

「んん?」


 その発言には、ちょっと違和感。


「異議ありでありますカズくん」

「何かね永作ながさく弁護人」

「……それってさ、頼ってるんじゃなくて―――」


 言葉が思いつかない。


「え~っと」


 回転の遅い頭が恨めしい。


「ナガサ」

「うん?」


 そこに被告人(?)から助け舟。


「俺はちょっとだけ頭が良い」

「ほう?」

「こっちで勝手に要約するから、なんでも思ったように言ってくれ」

「おそれいります~」


 頼りになるなぁ。


「じゃあ言うね? カズくんが介護士さんやお父さんにしてるのは、「お金とか家事とかをやる代わりにこれをやってください」って言ってるだけ、じゃないかな?」

「……つまり、俺は頼ってるんじゃなくて“取引”をしてるだけってことか」

「そう! それ!!」


 夜道で大きい声出ちゃった。吏依奈のがうつったかな?


「そうか」


 住宅地に入った。わたしの家まであと少し。


「人に頼む前に自分の中身を勘定してる―――なるほどな」


 カズくんは何か思い浮かべるように空を見て、言った。


「自分が差し出すものを決めてから人に頼ってたら、関係はそれっきりだものな」


 わたしの分かったような分からないような言葉から、それこそ1を聞いて10を受け取ってる。


 すごいなぁ。


「ナガサはすごいな」

「はいい!?」


 わたしが思ってたことを言われてしまった。


「すごくないですよ?」

「なんで敬語?」


 カズくんはクスクス笑った後で言った。


「いやすごいよ。ナガサは、人と繋がるってことを恐れてないから」

「……カ―――」


 ―――ズくんは恐れてるの? と訊いてしまいそうで慌てて黙った。


「俺は」


 家が見えた。


「一人でなんでもやろうとし過ぎなのかもな」

「カズくん」


 なので、一旦わたしは立ち止まった。


「わたしは、それがいけないとは思わないよ」


 そして言った。ビシッと聞こえる声にしたつもり。


「だって―――」


 この人が他者を頼らないのは、きっと。


「カズくんは、そうやって何でも自分の力でやることで、自分を大切にしてきたんだよ」


 口下手なわたしにしては、上手く言えた方だと思う。


「でね、今はそこからもっと良くなろうとしてるんだと思う。変わろうと、してるんじゃないかなって思う……ええと、それでね―――」


 だんだん頭が回らなくなってきたが、もう少し。頑張れわたし。


「知ってた? カズくん」

「なにが?」

?」

「…………」

「あれ?」


 やばい。


 いかにも、言ってやったぜ! って感じで言ったのに反応が薄い。


 滑った?


「うう~~~!!」

「おいナガサ、待て」


 恥ずかしさに負けて家まで駆け足で行こうとしたわたしを、カズくんが捕まえた。


「カッコ良く言い逃げするのはやめろ。……ありがとう」


 どうやら白けたわけじゃなくてホッとした。


「……うん」


 でも、お礼を言われる筋合いなんてないよ。


「繋がりが切れないように、もう少し頑張ってみるよ」

「ふふ、まだまだだなぁカズくんは」

「え?」


 なのでわたしはまた調子に乗って言った。


「繋がり―――絆はね、切れたりしないんだよ? ほどけるだけ」


 だから。


「少し間違えて解けても、また結び直せばいいんだよ」

「……ほぉか―――んぶ」


 わたしはカズくんのほっぺをむにゅっとやりながら言う。


「頼ってくれてありがとう。お返しはいらないよっ」

「……化粧が取れちゃうから、あまり触らないでくれると」

「ああ!? ごめ~ん!」


 今度こそ、決まった! と思ったのにっ!!


「これじゃ吏依奈と一緒だよぉ」

「ナガサってやっぱ良い性格してるよな」


 家の前は街灯が少ない。


 でも、月が出ていた。


 その明かりが、カズくんの笑顔を照らしてくれていた。


【続く】



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(-_-メ)和) tacicaタシカ

(吏`・ω・´) 緑黄色社会

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