第12話 大きいのも良いけど、小さいのも好い。

『試合終了ーッ! 接戦を制したのはflickersフリッカーズ! これでリーグ戦最後の1枠が決定しました!』


 司会の朝霧あさぎりさんが熱のこもった声でそう宣言した。

 Dグループの代表チームが決まったのだ。


「行こうか」

「そうね」


 俺は由奈ゆいなと短い会話を交わすと歩き出した。


――ステージへ向かって


 ◇◇◇


『それでは、決勝リーグ参加チームに登場していただきましょう』

『まずは、Aグループ代表! オンライン戦での実力そのままオフライン戦に登場。なんとここまで、全試合完全勝利で駆け上ってきた異例の強さ、勢いそのまま本戦への切符をつかむのかweazelsウィーゼルズ!』


 みくうと香織かおる先輩が朝霧さんの進行に合わせて舞台袖から姿を現した。


「「おぉーー」」


 会場内の視線が2人に集中するのが、反対側の舞台袖で待機していた俺にまで伝わってきた。

 フードを目深まで被った異質なみくうと、容姿の整った香織先輩。おまけに2人とも豊かなバストなんだから自明というやつだろう。

 なんだか横で由奈がご立腹な気がするけど、気のせいだろう。きっと、緊張してるんだよ……。


『次は、Bグループ代表! やはり、このチームは見逃せない。殴り合い大歓迎の実力者。ガードの上から握りつぶす、fire missileファイアーミシェル!』


 舞台袖から登場したのはゲーマーには、およそ似つかわしくない筋骨隆々なナイスガイ3人組だった。

 なんか水球やってそう。


『続いて、Cグループ代表! 大番狂わせの2人組。実力者がひしめき合ったCグループを勝ち抜けてきた、謎の新星』


「やっぱり、実力者が多かったんだな俺たちのブロック」

「そ、そうよ。あたしは知ってたけどね。あえて言わなかったのよ」


 あらぬ方向を眺めてうそぶく由奈。 


――あ、これ知らなかったやつだわー。


『――でも1番の謎はこの2人の関係か。ゲーマーの妬みを一手に引き受けるのか、Itemアイテム!』


 んッ……!?

 舞台に向かって歩き出していた俺は、つまずきそうになった体勢を何とか立て直す。

 舞台袖を通り抜けた瞬間、鋭い視線を向けられる。

 ――チッ! 

 横から舌打ちまで聞こえてきたんですけど。

 俺たちはただの幼なじみだ! と叫ぼうとした気持ちは朝霧さんの進行の声を前にかき消されてしまった。


『最後は、Dグループ代表! 一見地味なこの3人。だけどプレイスタイルはもっと地味だった。地味属性とはこれでさよなら出来るのか、flickersフリッカーズ!』


 地味って3回も言ったよ、と思ったが登場してきたのは、たしかに特徴のない男3人組だった。


 ◇◇◇


 第一試合の余韻に汗ばむ手で、俺はキャラと配分を決めていく。

 トーナメント戦とは違い決勝リーグでは、毎回キャラ選択が可能だ。

 そのため、相手チームとの駆け引きがすでに始まっているというのに……横にはノータイムでキャラ選択を終えた由奈。今は涼しげな態度で瞑想している。

 ――ふう。

 俺は大きく息を吐いて、昂った気持ち落ち着かせる。

 結局、選択したのはトーナメント戦と同じパワー型のフェンサー。

 駆け引きを無視したんじゃない、これが最適解だ。


 試合開始までの準備時間(30秒)が始まる。

 チームの間に会話はない。

 

 静かに、モニター内の数字が減少していく。

 カウントが5秒を下回ったところで、由奈はずっと閉じていた瞳を開いた。


「いくわよ、悠人ゆうと


「そうだな」


『それでは第二試合、初戦Itemアイテムflickersフリッカーズ、戦闘開始!』


――Ready,Fight!


 朝霧さんの声と開始の合図が重なった。

 合図と同時に飛び出したのは、由奈。

 この中では、1番敏捷力への配分が多いだろう。

 由奈に遅れることゼロコンマ1秒、flickersフリッカーズのファイター——プレイヤーネームはバベル――が動き出す。体格からしても、バランス型だろう。

 さらに遅れて、俺とflickersフリッカーズのフェンサー——プレイヤーネームはヤコブ——が動き出した。

 そのころには、由奈とバベルがお互いの間合いに入っていた。

 バベルが由奈に初撃を放とうと迫る。

 それを由奈は、軽いステップで回避すると、2人の立ち位置が入れ替わった。

 バベルが慌てて振り返った時には、由奈は相手フェンサー――ヤコブへ向かって走り出していた。


「悠人はフェンサー、よろしく」

「了解!」


 俺は由奈に返事をすると同時にバベルに肉薄する。

 俺が攻撃のモーションに入ると、バベルはタイミングを合わせて攻撃を放ってきた。

 拳と剣がぶつかり合い数瞬、技後硬直する。

 先に立ち直ったバベルがパンチを上段に打ち込んでくる。だが一瞬前に硬直が解けていた俺は、寸前のところで後ろへ回避できた。

 バベルは構わず連続で攻撃を仕掛けてきた。

 俺はそれらをバックステップで避けながら、タイミングをうかがう。

 数回、バベルの技が俺の体を掠めた後、攻撃が途切れた。

 だが、それは隙と呼ぶには短すぎた。

 案の定、俺が攻撃を仕掛けるより速くバベルが次の攻撃の姿勢に入る。

 バベルの拳が繰り出されるその瞬間、


 ――ここだッ!


 俺は今までめていた力を全力開放するように斬り上げる。

 拳と剣が交差し、バベルだけがのけぞった。

 カウンターヒットだ。

 俺は、初めて得た有利を確実なものにするために、連続技から必殺技が放てる状況へ持ち込む。

 しかし、バベルがそれを大人しく見ていてくれるはずもなく、体力をそれなりに削ったところでコンボが途切れさせられた。

 バベルは中段蹴りを放つと俺からの距離を取った。

 一旦、仕切り直したかったのだろう。

 お互い睨み合った状態で、次の方針を練っていた俺は、不意にその思考を止めた。

 その時、バベルの足元に影が差した。

 影を作っていたのは、由奈だ。


「やあぁぁぁ……ッ!」


 由奈は気迫とともに空中からバベル目掛けて急降下すると、慌てた様子でガードの姿勢に入ろうとしていたバベルを無視して斬り下ろした。

 威力の強さにバベルが吹き飛ばされる。

 これでは、コンボはつなげない……。

 1人ならそう落胆するだろう。だが、これはタッグマッチだ。

 バベルが飛ばされたのは、俺が考えるよりも前に移動し、待ち構えているところだった。

 俺は、今までにないくらい、最適なタイミングで最高の技を放った。

 バベルはダメージ量が生存限界を超えて、爆散した。

 

 ラウンドの終了を告げるゴングが鳴る。


 それは奇しくもweazelsウィーゼルズがみせた一連の動作を模倣するような幕引きだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る