アルタイルステークス

 ゲートが開き、横に並んだ十八頭の足並みが怒涛のように進み出た。スタンドから盛大な歓声が響く。

 シルバーライトも気合いの入った走りだ。最初の直線、いつものように置いていかれずに中団の後ろのほうでついていく。

 一コーナーに入り、徐々に縦長になっていくものの、大きな開きはない。デネブ賞で大逃げをかました馬たちも今日のレースでの逃げは控えめだ。アルタイルステークスで逃げ切ることは難しい。最終直線での力を溜めているような走り。

 黒いテンペスタはシルバーライトの四頭ほど前を走っている。先頭からは十番手ほどだ。見慣れた鹿毛の馬の姿が見えないので、クラシオンはシルバーライトよりさらに後方で構えているようだ。

 二コーナーを抜け、向こう正面に入った。先頭から後方まで一団となって進んでいる。大きな動きをする馬はいない。

 着々と時間が過ぎていく。アルタイルステークスはもう残り半分を切った。レースは淡々と進んでいく。

 いいだろう、自分たちが口火を切ってやる。

 三コーナーにかかった。

 着火点は残り800m。

 外に位置取り、カズマはシルバーライトに鞭を打った。

 シルバーライトはカズマの意思に応え、進軍を開始した。

 こんなに早くスパートをかける馬は他にいない。こんな無茶ができるのは、この馬だけだ。

 シルバーライトは外からぐんぐん順位を上げていく。スタンドから歓声が上がった。

 四コーナーに差しかかり、他の馬もピッチを上げ始めた。先頭に襲いかかるような走りでコーナーをカーブする。

 直線に向いた。

 長い長い直線が始まった。

 スタンドから波のような音が響いてくる。

 横に大きく広がる十八頭。

 この広く長い直線。馬たちは道を切り開き、己の道を走った。

 栄光への道を辿っていく。

 人と馬の絆を武器に。

 心も、体も、技も。

 全てをこのターフへ刻むように。

 走る。

 走る。

 ただ走る。

 一位を目指して。

 その先にある頂きを目指して。

 残り400m。

 シルバーライトは三番手を進む。

 そこからさらにスピードが増していく。

 下がっていく馬。上がっていく馬。

 少しずつ、明暗が分かれる。

 黒い馬体が近づいてきた。

 残り200m。

 一騎打ちだ。

 左、テンペスタ。

 右、シルバーライト。

 相容れない、黒と白。

 混ざり合う、黒と白。

 外から一頭駆け上がってきた。

 クラシオンが突っ込んできた。

 三頭並んだ。

 さあ、見せてくれ。

 その銀色の光で照らしてくれ。

 新たな世界を。

 初めて目にする景色を。

 誰が王者に相応しいのか、教えてやるんだ。

 シルバーライトは走った。

 前を向いて。

 何も無いゴール板を目指して。

 何も無いのに、なぜ走るのか?

 その答えはきっと、内にある。

 心の中にある。

 そのために、走る。

 銀色の光がターフを駆け抜けた。

 飛ぶように。

 その景色は、美しかった。

 きみがいたから、ここへ来れた。

 そう、この感覚。

 思い出した。

 馬と一体となった瞬間。

 代えがたい喜び。

 音が消え、時間が止まったような。

 まだ、終わりたくない。

 まだ、走っていたい。

 だけどもう、ゴールはすぐそこだ。

 ありがとう。

 きみと出会えた幸せに感謝したい。

 三頭がほぼ並んでゴール板を通過した。

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