第18話 超縮退砲を発射せよ!

 宇宙戦艦長門はワームホールを潜り抜け、裏宇宙へと進出した。その前面には、幾多の宇宙戦艦が隊列を作っていた。


「あれが裏宇宙の艦隊ですか?」

「そのようね。警告は無し。超縮退砲発射準備にかかれ」


 ミサキ総司令の指示で、宇宙戦艦長門の艦体は再び変形を始めた。大まかには、艦体中央部から縦方向に割れ、その中心に巨大なビーム砲が姿を現した。この攻撃兵器こそ超縮退砲である。


「超縮退砲発射準備完了。エネルギー充填130パーセント」


 長門が報告してくる。ミサキは落ち着いて頷いた。


「超縮退砲発射」

「発射します」


 ミサキの指示に従い、ララが引き金を引いた。長門の艦体中央から黒い稲妻が迸った。


「敵艦体前面に重力子核を形成。30秒後にブラックホール化します。ブラックホールの持続時間は約15分……」

「全速後退。全速だ」


 長門の状況説明を遮ってミサキが指示を出す。長門は艦首を敵艦隊へと向けたまま、全速で後退を始めた。そしてワームホールへと突入した。


「僅か15分ではありますが、計算上、あのブラックホールは付近の空間と一緒に、このワームホールを吸い込みます」

「わかった。長門は宇宙戦艦形態へと変形せよ。変形完了後、180度回頭せよ」

「了解」


 ミサキの指示に長門が返答した。超縮退砲を収納し、艦体を宇宙戦艦体形へと戻したのだ。そして長門はワームホールを潜り抜け、再び見島と繋がっている巨大地下空間のごとき異次元空間へと戻っていた。

 

「さあ、オートロックさん。名残惜しいでしょうが、この、異次元空間は処分してもらいますよ」

「わかっておりますが……この長門で消滅させてもらえるのでは?」

「黙まらっしゃい! あなたの不手際ですよ。自分の尻は自分で拭く」

「そうは言われましても……装備が……」


 渋るオートロックだが、ミサキは譲る気配がない。


「知っていますよ。貴方が所有する特殊な宇宙船は確か、海賊船オートロックですわね」

「そ……そうですが」


 オートロックはミサキから目を逸らし、冷や汗を流し始めた。


「その船には縮退反応炉が搭載されていますね。通称、ブラックホール反応炉」

「……よくご存知で」

「その縮退反応炉を暴走させ、ここで自沈させなさい。その海賊船は、極小ですがブラックホール化します。先ほど長門の超縮退砲で生成したブラックホールと引き合うので、二つのブラックホールは合体します。この異次元空間とワームホールをまとめて裏宇宙へと差し上げましょう」

「そんな事をしたら、私は一文無しになって……」

「御託は結構。やるの? やらないの? もちろん、貴方に拒否権はありませんけど(笑)」

「わかりました……しかし、準備に一週間ほどかかりますが」

「大丈夫。海賊船オートロックは既にハッキングし、そのコントロールは掌握済みです」

「え?」

「うふふ。私たちは危険ですから退避しましょう。ララさん。超重戦車オイとヘリオスに撤退命令を」

「了解」


 ララは笑いながら撤退命令を出した。

 養殖場の地下より、一隻の宇宙船が浮上してきた。それが特殊な海賊船オートロックであったのだが、この船は異次元化して地面の中へと潜り込むことができる。そして、自由に任意の範囲で異次元空間を創出する能力があったのだ。


「私たちも撤退しよう。見島上空へと戻れ」

「了解」


 宇宙戦艦長門は艦尾の推進器から膨大な排気炎を吐き出し、見島上空を垂直に上昇していた。それと同時に、見島全土が震度5弱の地震に見舞われた。海賊船オートロックが自沈してブラックホール化した衝撃が、次元を超えて島に伝わったからだ。


 超重戦車オイは見島駐屯地付近で揺さぶられたがヘリオスはティルトローター機、彩雲改二へと変形し離陸していたため問題はなかった。


「次元観測データを収集中です。概ね計画通り、見島地下に広がっていた異次元空間は、海賊船オートロックが生成したブラックホールが飲み込みました。そしてそのブラックホールも、裏宇宙にて生成したブラックホールに引き寄せられて衝突、合体した模様」


 ミサキは長門の報告に頷いていた。


「これで一件落着ですね」

「ええ。でもね、ララさん。今回は私たちが出張ってしまいましたが、これは本来、絶対防衛兵器の仕事なのですよ。絶対防衛兵器とは、あのような次元を超えて侵略してくる勢力を駆逐すべく配置されているのです」

「なるほど。よくわかりました」


 ミサキの説明にララが頷いていた。これで、萩市の平和が守られ、同時に山口県と日本の平和が守られ、太陽系と銀河系と、この三次元宇宙の平和も守られたのだった。

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