第7話 帰国後

 イギリスに帰国した後、ATMで確認し、下ろすのだが、あまりの金額に思わず頭をぶつけた。お土産は家族が最初に受け取った。子供部屋が確保出来るぐらいの賃貸が彼の住まうところだ。


「ただいま」

「お兄ちゃん、ハワイに行って来たんでしょ!」

「色々聞かせてよ!」


10歳の弟、12歳の妹が出迎えてくれた。母はひょっこりと台所から見ている。


「ああ。ちょっと待ってろよ。仕事の報告してからな」

「それじゃ。部屋まで荷物持ってくよ」


出来た妹だと思いながら、自室に入る。仕事モードを察した妹は退室。回る黒い椅子に座って、簡単なレポート5枚を改めて見る。


「小学生が書いた日記じゃないか」


内容があまりにも酷くて頭を抱える。


「先生は笑わないだろうが、彼奴に見られたら笑われるな。仕事してた癖に観光を楽しんでいた愚者だとか。まあ彼奴も日本で遊んでるわけだし、お互い様か」


プッと吹き出しながら、最終日にあった撃退時について、書き留める。


「吸血衝動が起きず、太陽の下で活動出来る。この稀有な特徴で狙われる事が多い。戦闘能力はー……見る事無かったな。金持ちの強い吸血鬼でも護衛いるし、どうなんだろうな。強くないどころか弱いと記載されてたが……保留にしておこう」


あーでもない。こーでもない。悩みながら、最終日にあった出来事を纏めた。


「流石に時間かかりすぎたか」


両手を上げて、背中を伸ばす。友人から押し付けられた特徴的なメロディーがスマホから鳴る。拒否する理由がないため、応答する。陽気な友人の声が耳に届く。


「やっほー。仕事お疲れさん。どだった? 初のハワイ」


正直に語ろう。そう思って、ルイは答える。


「楽しかった。仕事だと思えないぐらいにな」


「そっか。その護衛対象者って女性なんだろ? どんな感じだったんだ?」


電話のやり取りは情報が漏れやすい。魔物類に関する言葉を語ったらアウトだろう。友人が知りたいのは性格についてのはずだ。男性だからと言うのもあるが、美少女キャラが好きなオタクなのだ。ただ萌えるだけ。「てぇてぇ」というわけ分からない言葉を発する残念な男。それだけだ。


「太陽みたいに明るくて、暖かい人だったよ」


レポートに書いてた事そのままだが、問題ないだろう。思ったことをそのまま書いただけなのだから。


「それじゃ切るよ。細かいとこは育成校で」

「おー」


電話を切って、すっかり暗くなった外を見る。いつも仕事後はしんどい気持ちしかなかった。しかし今回ばかりは違った。心と身体、どちらもリフレッシュ出来た。


「本当にお世話になりました。ソリナさん」


ロンドンの自室で初めて、ルイは護衛対象者を名前で呼んだ。彼女のおもてなしはずっと彼の心を暖かくすることだろう。これからどんなに辛くとも、癒してくれるだろう。

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常夏の吸血鬼 いちのさつき @satuki1

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