第8話 信頼できる人

「でも警察にってのは信頼できる人にってことだ」

「え?」

「この件は千賀警部に頼むよ」


 千賀警部、幼い頃から関わりがあった雫が唯一信頼できる警察だ。考えや能力のことも知ってくれている。


「ボクはこの携帯電話が彼のだと仮定して進めるよ」

「で、どーすんの? それはもちろん彼のことを知ってる人たちに聞き込み~」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………?」


 菊は黙ってぐったりと寝転んでいる雫を見つめている。


「もしかして……雫さん?」

「お願~い。ボクは疲れたんだ」

「……それはそうだけど」

「仲間多いだろ? 菊は」

「わかったよ。今度は私の番ってことね。そいつが務めてた会社まで連れてって! そこからは友達にも協力してもらってこっそり情報を取ってくる!」

「いや、調べてもらうのはその会社じゃない」

「えっ?」


(携帯電話に挟まっていたこの……)



 菊を目的の場にこっそりと置いてきた雫は家に戻ってシャワーを浴びていた。「友達か……」と静かに菊が言った言葉を思い出し、菊にも友達がいるってのに……と心の中で思いながらタオルで頭を乾かす。



ガラガラ――


 夜遅くに人形屋の玄関が開く。雫はタオルを首にかけたまま入口へ向かうとそこには千賀警部の姿があった。


「よっ! ほらっ、土産の駄菓子。昔よく食べてたろ?」

「わかったんですか? 携帯の中身」

「少しは世間話をだな……。ほんとアイツと反対で驚くよ。中身はなんとか復元できた。片倉健吾のもので間違いない」

「その……」

「俺の信頼できる部下に頼んだだけで他には言ってない。警察の俺が言うのもなんだがやはりちゃんと捜索してなかったらしいな……」

「はい……。ですが事故なのは事故なのかもしれません……ただ場所のミスってことだけかも、」

「いや、少し調べたが片倉ってやつは会社からパワハラを受けていた可能性が高い」

「どういうことですか?」

「LINEのやり取りだ」


 千賀はノートパソコンを開いて一部のLINEのやり取りがわかる画像を何枚か雫に見せた。

 そのやり取りのほとんどが上司の美川さくらとだった。内容はひどく高圧的なもので理不尽な修正願いやいきなりの呼び出しの数々がそこから確認できた。中には深夜3時に呼び出されているものなどがあり、それに対して片倉はただ「分かりました」の返事のみだった。


「これは、美川さくらじゃない……? 名前は分からないけどやり取りに顔文字が多いね」

「あぁ、内容からして多分母親だろう」

「別人みたい……」


 そのLINEでは先程の上司とのやり取りからは考えられないほどの明るいやり取りであった。


「片倉は入社1年目。きっと心配かけたくなかったんだろう」

「こんなの確定じゃないか!」

「明日俺の方から話を聞きに行く……」


 夜分遅くにすまないと早々と千賀は人形屋を出ていった。


(そろそろ菊を回収しにいかないと……ん? この最後のLINE……うまくデータ復旧できてないのか? ……飲み会の席の間取り図……?)



「菊、遅くなってごめん。それで……その同僚ってのは今は?」

「あれからずっと休みだって」

「じゃああの交通事故ってのは……」

「ああ、」



 ………………


 翌日――。


 雫は千賀がもう先に向かっているという会社に菊を連れてあとから到着した。千賀さんのおかげで中のお客様専用部屋に通され、そこには千賀さんと美川が座っていた。


「このLINEのやり取りは美川さんと片倉さんとのもので間違いないですね?」

「千賀警部でしたっけ……。これは事故。今さら終わったことを言われてもねぇ」

「……。この携帯電話は事故があったとことは別の西で見つかったんです! 川の流れ的におかしいんですよ。本当のことを話してください」

「千賀さん!」


 雫がその会話を止めるように千賀に呼びかけ話を代わるように伝える。


「美川さん、あなたは車内のことを覚えてないんですよね?」

「飲み会の帰りでね。あの日は珍しく眠ってしまってたのね……。私お酒に強い方なのにね」



「あなたを後部座席に乗せていた車にはあなたを含めて乗っていたのよ」


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