第7話 手がかり

「どうだ菊。何か分かったか?」

「なんだろう……この黒いモヤモヤ。とりあえずコイツからは何も分からないや。周辺を調べよう」

「にしても通る車少ないね、田舎だからしょーがないけどさ」


 雫はスマホでこの橋で起きた事件を調べていた。


「赤川橋……死者……。先月末に片倉健吾が死亡、これだ!」


 記事を読み進めていくと、先月末に赤川橋を運転中の会社員、片倉健吾が交通事故を起こしたことが判明した。後部席に座っていた美川さくらさんは無事、片倉健吾さんは電灯への衝突により車内から外に飛び出し、そのまま川に落ちて行方不明……。


(ここが衝突したところか、手すりの装飾の石がここだけ無い……)


「美川は亡くなった片倉の上司でその日は飲み会の帰りだった、そして……」


 少しして雫は周りを見渡した後、橋の奥まで歩いて行った。橋の名前が書かれた柱の前に座り込み考えを巡らせる。


「雫~? ってことはさっきの自殺し続けてた幽霊は片倉健吾ってやつだよなぁ? 事故ってのは突然だ。きっとそれが未練だよ。幽霊が居て行方不明ってことは死体が見つかってないってことだ」

「……少し引っかかるな。ボクたちが今いるのは赤川西橋。今は車が通ってない廃橋。事故があったのはこの奥にある赤川橋だ」

「え!? 何で!」

「そ。何でって話。普通なら事故があって落ちた赤川橋のほうに現れるはず……」


 疑問を抱えたまま雫は日を改めた昼間に赤川土手を訪れた。


 赤川は花見町の西から東に流れる比較的大きな川だ。そして事故があったという赤川橋があるのは東、廃橋となった赤川西橋は名前の通り西にある。半ズボンに白いヨレヨレのTシャツを身にまとい、バケツと網を肩に抱えていた雫の姿に菊はすかさずツッコミを入れた。


「雫!! どうツッコんでいいか分からない!!」

「へぇ聞いたことないツッコミ、どこで覚えたの?」

「とりあえず何すんの!? 朝から何も教えてくれないし」


 雫は暴れている菊が入っている人形をまるでザリガニかのようにガッと掴んでバケツに入れた。


「探すの。手掛かり」

「はぁ!?」

「無いよ!! こんな広い川無理だよ!!」

「納得できる答えをこじつける。噓を真実かのように世間に発表して包み隠す。みんなそうやって無理、無駄、意味ないって逃げて真実が分からなくなってるんじゃないか。だからボクがやる。それで幽霊未練となってボクに真実を求めるんだ」

「雫……」

「このボクの幽霊が視える力ってのは彼らの未練が生み出した最後の希望なんだよ」


 幽霊がみえるようになったのは生まれた時からだった。母親も同じ力を持っていてその遺伝だと昔は思っていたが雫は人形探偵になると誓った日から自分の信念を意味づけるためにそのように思うようにしたのだ。

 日が暮れる――。網を使って手掛かりになりそうなものを一心不乱に探す。


「ごめんね、雫。私は何もできなくて」

「大丈夫、もう、今終わったから……」


 雫はびしょぬれになったTシャツを絞って土手の階段に寝転ぶ。掲げた手は黒の携帯電話を掴んでいた。


「雫!! それってもしかして!」

「あぁ、きっと片倉健吾のだ」

「警察の鑑定に持ってくの……?」

「ああ、そうすればこれの中身が分かって本人のものって確定がつく」

「でも……結局結果は……」

「いいや、よく考えてみなよ。川は西から東に流れてる。ここは赤川西橋。携帯電話が見つかったのは赤川西橋のちょうど真下だ。つまり、東にある赤川橋で落ちたってのは矛盾になる。そうなれば警察は捜索するしかなくなる」

「――ッ!」

「事故じゃない、そうなんだろ?」


 雫はゆっくりと起き上がり、今も自殺を続けている夕陽に照らされた片倉健吾の方をじっと見つめる。



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