第5話 二人の恋を見守り隊! (やめろ)

 篠崎が俺に溺愛中というとんでもない噂。

 その噂に篠崎本人は全く気づいていない。

 なぜなら、クラスメイトが結託して俺達の事を見守る体制になったからだ。

 奴らは決して教室内でその話題を口にすることなく、普段通りに過ごす。俺達に勘づかれないようにひっそりと見守ってきやがる。

 だから篠崎は気付かない。気付きようがない。


 こういう時って普通は冷やかしたり、影でコソコソ言ったりするものだと思ってたんだが、それも無い。全てはクラスのみんなの為に頑張って来た篠崎の、委員長としての人望の賜物。


 そんな状況なのに何故、俺がその噂のことを知っているかと言うと、それは芦屋からこっそり教えてもらったから。

 俺の傍には篠崎がいる為、もちろん直接聞いた訳じゃない。授業中に俺のスマホへと送られてきたのだ。

 そのついでに聞いてみた。篠崎がそんなふうに見守られるのは……まぁわかる。だけど、何故俺まで? と。はっきり言って俺にはそんな人望なんて無いぞ?

 で、返ってきた内容を見て俺は愕然とする。クラスの女子の妄想力の高さに。


 奴らの頭の中では、怪我で家にいる間に篠崎が甲斐甲斐しく世話をしに俺の家に通い、そこでなんやかんやあって恋。つれない俺にのめり込んで行く篠崎。それに段々絆されていく俺。そして生まれるLOVE。だけど学校では恥ずかしがって距離を置こうとする俺。なのに篠崎は初めての恋でブレーキが効かない為、俺にベッタリ。尊い。見守らなきゃ! 応援&見守り隊結成! って事らしい。


 やめろ!


 …………ほんと頭痛い。なんでそうなる。なんやかんやってなんだよ。変なもん結成するなよ。

 えぇぇ……これどうすればいいんだ? 昼休みにでも仲良い奴らにはちゃんと説明しようと思ってたのに、そいつらまで生温い視線送ってきてんだけど。噂広がるの早すぎだろ。ネット社会怖い。



 とまぁ、そんな状態で昼休みに突入する。

 いつもなら前に座ってる芦屋が後ろを向いて俺の机で弁当を食うんだが、その芦屋は弁当を持つと闇堕ち前田くんの席に行ってしまった。その直前に俺に向かって親指を立てながら口パクで『お幸せに』と言いながら。

 ちなみに芦屋には一応本当の事を言ったんだが、信じて貰えなかった。これが人望の差。さっきトイレで俺の事を親友って言ってなかったか!? って突っ込むのもめんどい。

 しょうがないからとりあえずは弁当食べるか……ってところで、俺の机に横から衝撃。

 恐る恐るその衝撃が加わった方を見ると、篠崎が自分の机を俺の机に合体させてニコリ。



「仁村くん、ご飯一緒に食べよ?」

「いや、俺は……」



 俺は逃げようとする。



「仁村くんはお弁当? それとも購買? 購買だったら行くの大変だよね? 欲しいのあったら買ってくるよ?」



 しかし逃げられない!

 かと言って邪険にするのもな……。勘違いの空回りだとしても、篠崎の行動は完全に善意からのものだし。

 ま、今はこのままでいっか。可愛いし。それにそのうちバレるだろ。もう考えるのも面倒くさくなってきたし。

 ってなわけで──



「いや、弁当持ってきてるから大丈夫だ。それよりも篠崎はいいのか? 俺と食べて。いつも一緒に食ってる友達もいるだろ?」

「うん、大丈夫だよ? なんかね、今日から仁村くんと一緒にご飯食べようと思ってるのって言ったら、頑張ってだって。私以外にも気付いてる子いたんだね。良かったぁ」



 篠崎、それ違う。その頑張っては違う頑張ってだ。そいつらは見守り隊なんだ。そこで喜んだらあいつらの思う通りなんだよ。ほら、何人か胸元押さえて『くうっ!』ってなってるし。

 ……こいつら隠す気あるのか?


 って考えてるうちに、篠崎は俺の隣で弁当を開いていた。

 それに合わせて俺も弁当を開ける。



「わ、やった♪ 海苔入り玉子焼き入ってる♪」

「海苔入り?」

「うん。私の家の玉子焼きはね? 甘い時と、醤油で味を付けて、更に中に海苔を入れて巻いた時があるんだけど、私は海苔が入ってるのが好きなんだ♪」

「海苔入りか……。俺ん家では出てきたことないな」



 だけどあれ? 見たことはある気がする。どこでだったかな…………あぁ! 思い出した! 保育園の時だ! 年長の時の担任の先生から貰ったんだ。俺の初恋の人だったんだよなぁ。



「良かったら食べてみる?」

「いいのか? 好きなんだろ?」

「まだ三個あるから大丈夫だよ? なんだったら仁村くんの玉子焼きと交換しない? それ、シラス? だよね?」

「あぁ。うちはシラス入れて焼いてるんだ。じゃあ交換するか」



 俺はまだ口を付けていない箸で玉子焼きを一個掴むと、弁当箱の蓋に乗せて篠崎の方に動かす。

 そして篠崎は海苔入りの玉子焼きを箸で掴むと、俺の顔の前に持ってくる。


 ……ん?



「ん? 食べないの?」

「いや、食べるけどまだ食べないから蓋の上に置いてもらってもいいか?」

「え? あ、そうだよね。ゴメンゴメン。つい妹に食べさせて上げる感じでつい……」

「妹?」

「うん。今五歳なんだけど、すごい甘えんぼなんだ♪」

「なぁる」



 危ねぇ。そんな『つい』なんて理由で教室であーんとか勘弁してくれ。


 そして見守り隊。

『アーンを断ったの? 篠崎さん頑張ったのに!』

 って顔で睨むのはやめてくれ。頼むからもっと隠せ。


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