第40話 夏の終わりに



夜の繁華街を歩く背広達をすり抜けるように

私達は歩いたものだ


その日に貰ったアルバイト料を

そのままポケットに詰め込んで


素敵な店を探しながら随分と歩くが

結局入る店は安そうな居酒屋


酒を浴びるほど飲んで

哲学? 文学? 人生論?

訳もわからずに喋り合った


店を出る頃には終電も無く

持ち合わせの金を使い切らないようにと

路地裏の自動販売機にありったけのコインを詰め込んで

缶ビールを買えば街外れの公園で蓋を開け


まだ夢から覚めやらぬ様子で何度も熱く語り合う


誰にも邪魔されない時間だと思っていたが

人を馬鹿にしたような笑い顔でやって来る者共と喧嘩になり

振り下ろされた拳が前歯に当たり

唇を貫通したこともある


血を流しながら大地に転がって見上げると

夏の空に美しい星が見えた


そんな時に決まって愛する人を思い出し

頬を伝って流れる涙が大地を濡らす


目を覚ますと既に太陽は中心に有り肌を焼く

アルコールで脱水された脳味噌は

更に脳髄まで日干しにされ


真昼の電車で繁華街から鄙びた街のアパートに帰り

たどり着けば蛇口に直接口をつけて水道水を飲む


なんと愚かな休日だ

なんと馬鹿げた泥まみれの時間だった事だ


然し


若いというものがどういうものなのかを思い出すがいい

それを愚か者だと批判する人は笑うがいい

若さ故の真っ直ぐな愛と傷だらけの道を通った事が無いのだ


それを馬鹿げた罪というのなら言おう

若い時期そのものが過ちの渦の中にあるのだと

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