第38話 葉巻



葉巻が好きな私は

この嫌煙ブームの中で煙草ばかり吹かしている

良質の葉巻一本は最低でも煙草一箱の五倍以上の値段になる


特別な時

葉巻の口を好きなサイズに切り

パイプ専用のオイルライターで火を付ける


ソファーでゆっくりと葉巻を燻らせていると

呼び鈴が鳴る


私は葉巻を灰皿に置いて

玄関の扉を開けに行く


そこには疲れ果てた顔をした妻が立っていた


入ってもいい?


もちろんさ

君の家なんだから遠慮する必要はない

と私は答える


珈琲を飲むかい?

ええ、

と彼女は答える


キッチンにある何種類もの珈琲豆をブレンドする

私だけが知っている彼女の好きなブレンド


暖かい湯気がのぼる珈琲カップを彼女の前に差し出すと

一口飲んでから彼女は


美味しいわ

と呟く


私は

いつもと変わらないブレンドだけどね

と答える


ありがとう

と言った妻は俯きながら言う


ねぇお金が足りないの


私は机の引き出しから封筒を取り出して妻に渡す


君のために貯めておいたんだ

と私が言うと


ありがとう

と言って彼女は飲みかけの珈琲を残して家を出て行く


私は消えた葉巻を手に取り

火を付ける

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