5話

 

 それは僕もです。

 とは言わずに黙っている。

 流石に端へ移動したため周囲の目が多少軽減したけれど、それでも何人かの生徒達が此方に視線を向けているのがわかる。

 と言うか、何度も言うけど見過ぎです周囲の生徒達。

 ガン見ですか、何ですか、そして何だか知らないけど一人拝んでいる子が居るのだけど。

「初Ωレズプレイ見ちゃった!眼福っ」ってそれ何語、まるで僕達が変なことしている変態みたいじゃないか。



「そう?他では滅多に見られないほどに綺麗で可愛い娘達が、学園の入り口でイチャイチャしていたら他のα達がソワソワしちゃうからね。」



 何せこの学園はΩ少ないからね、特に今年は例年より少ないし。等と、僕らを注意した上級生のαらしき男子生徒が苦笑しつつ肩を竦める。



「例年より少ない?」


「あれ、君知らないの?ほら、隣町のこの学園みたいなαとΩの専門の高校に、有名な芸能人αが入学するって。かなり上位のαらしくってさ、おまけに家がとある財産家の血筋らしくって。将来その家を継ぐって言うから、Ωの子達はこぞってそっちの学園に入ったって言う噂。」


「ああ、だからΩが今の所私達しか居ないのね。」


「え、そうなの?」



 納得!と頷いている一戸さん。



「Ωって見ただけでわかるの!?」



 僕の疑問にαの先輩男子生徒が「気になるのはソッチ?」と驚いた顔をしている。そして、「ああ、だから此方の学園に入学したのか」等と言って納得している。


 確かに僕はあまりTVとか、有名人や芸能界とか興味は無い。

 私生活がそれどころじゃ無かったって言うのもあるけれど。この学校に入学する際に一応受験だって受けたわけで、中学3年生の時は陽平父さんにガッチリ扱かれ、頭に英数理やらナニやら突っ込まれた。勿論受験終了後に突っ込んだ諸々は右から左へと流れていったけど。


 お陰で中学の同級生達には世間に疎いって言われていたりするけど、「Ωってそんなもんじゃない?」と同級生の女子達から庇われたのでちょっと嬉しかったりする。最も僕がΩだってわかってから同級生の女子達から『同性』扱いされ始めていたのはまぁ、解せない。

 女の子では無いのですよ。

 だから僕の前で堂々と着替えはじめたりしないで下さいと、何度体育の授業の前に言ったことか。その度に何度も男子達に「クッソ羨まけしからん」と言われ続けたことか。

 最終的には女の子達の方が折れて、でも男子達の前で着替えちゃ駄目!と忠告と約束をされ、仕方無しに一人男子トイレの個室で着替えたものだ。



「君ほどの子なら芸能界からスカウトが来そうなのに。」


「僕、芸能界とか興味無いんで。」



 そういう派手な生活よりは、父さん達みたいに互いを思いやれるそういう人と穏やかに過ごしたいのです。って言うと変な風に思われるかもなぁ~…中学の時の同級生には「おっさん臭い」って言われてしまったし。その同級生は「有名になりたい」とか、「某漫画やアニメみたいに転生やら転移やらして勇者になりたい」とか、「無双」したいとか言っちゃう人だったから根本的な思考が僕と違っていたと思う。


 その割には卒業式後に告白されて困ってしまった。

 何か変な思惑を感じて、悪いけど速攻で断った。


 どうやってもその同級生と僕は恋なんて出来そうに無かったし、何より男のΩが珍しかっただけで告白されたって後になってわかったから。

 賭けの対象だったらしいし。


 何でわかったかって?元クラスメートで、今でも仲良くしてくれている女の子達が「最低!」ってプンスカ怒って僕に教えてくれたから。

 ついでにソレを知った陽平父さんと阿須那父さんが激怒しちゃっていたけど、大丈夫だったのだろうか。



「あはは、倉敷君はお父さん達がシャットアウトしちゃうからね~。」



 特に陽平おじさん容赦無いし、等と言って笑う一戸さん。

 確かにと頷く僕。



「うーんそうか、それじゃぁ君を口説くのは無理があるかな?」


「は?」



 驚く僕と、妙な声を出す一戸さん。

 って、あれ?何で僕口説かれることになっているの?



「えええええええ!?倉敷君は!私がっ!友達になってって口説くのが先!」


「あははははは、それじゃぁ俺と一緒に口説く?」



 可愛い子は愛でたいの!と、僕を両手で包み込むように一戸さんに抱き込まれ、当惑する。

 いやいやいや、これさっきと同じ羞恥プレイだから。


 と言うかさっき「眼福」とか言っていた男子生徒が此方を凝視しているから!

 更に言うと、一戸さんの胸部がガッチリと僕の顔面に当たっているから!

 ギュウギュウに息が詰まる感じで挟まっているから!

 と言うか一戸さん身長高いな!羨ましい!


 胸部は羨ましくないよ。

 僕Ωなせいか、普通なら男性のロマン的な女性の胸部は、まぁ……うん、息苦しいです。

 息が出来ません。

 死期が迫って来そうです。

 強烈な酸素不足で幻覚が見えそうです。ああ、頭がボーと…って、ヤバい!


 ボスボスボスッ!と、一戸さんの背を離して貰うべく少し強めに叩くけど一向に離れる気配がない。ちょっ、窒息する!胸部って強く抱きしめられ頭が埋まっている状態だと息が出来なくなるみたいだね!僕初めて知ったよ!

 って、ぐるじぃ~!



「ううう~~~!」


「ちょ、ねぇねぇこの可愛子ちゃん、とても苦しがってない?」


「え、やだ、照れているのかな?」



 違うのでは?と、先輩が困惑した声を出して僕の肩を掴んで一戸さんから身を引き離してくれた。

 一戸さんΩなのに、女の子なのに、滅茶苦茶力強くない!?実はαでしたって言われても、僕疑わないよ!?納得しちゃうよ!格闘家と言われるとちょっと違う気がするけど、でも宝塚の男性役なら納得する!



「…っげほ、死ぬかと思った。」


「ええ~そんな大袈裟なぁ。」


「頭がボーとするし、幻覚が見えた気がする…。」


「えええ!?それって早速保健室いっちゃう!?一戸先生に挨拶しちゃう!?」


「何でそこで挨拶…。」



 …ドキン


 ………え。


 ドキンッ ドキンッ ドキンッ



 先程窒息しそうだった時とは違い、何かが僕の心臓を鷲掴みしたように全身に心音が鳴り響き、身体がブルブルと震え、その場に立っていられなくなる。



 これは、何?

 もしかしてー…ヒート!!!

 ヤバい!こんな全校生徒の玄関入り口で唐突に始まるだなんてっ!!

 薬、薬を飲まないと!


 でも、か、からだが…あれ、めまいが…



「倉敷君!?」



 遠くで一戸さんの焦ったような声が聞こえたなと思った瞬間、僕の意識は急激に暗転していった。

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