第3話:騎士は嫁(3歳)になつかれる

 そして迎えた運命の日。

 ゲームの展開を知るよしもないギーザは、今日も可愛かった。


「アシュレイ!!」

「ギーザ様!!」


 ドレスを翻しながら掛けてきた小さな身体を、俺はがしっと抱き寄せる。

 悪魔の素材を集めるのと平行し、嫁ことギーザの好感度を上げることに時間を費やしたおかげで、三歳になる頃にはもうすっかり彼女に懐かれていた。


「今日のドレスは一際可愛らしい」

「パパが、誕生日に買ってくれたのよ」

「ギリアムも、たまには役に立ちますね」

「……おい」


 冷え冷えとした視線と声を向けられ、俺はギーザを抱き上げながら振り返る。

 するとそこには、うんざりした顔の親友が立っていた。


「お久しぶりです、お父様」

「その呼び方はやめろ」


 そう言ってツッコむギリアムは、今のところまともだ。

 ギーザが産まれたことで少し心が強くなったのか、ここ三年ほどはあまり悪魔の影響も受けず、最近は真っ当な商売に投資している様子である。

 まあ、真っ当でない方の商売は俺が秘密裏に潰してしまったのでその影響もあると思うが、少なくともここ数年の彼は若い頃のような優しいギリアムだった。


「いい加減、娘を放せ」


 ただ、俺に対してはいつも悪役顔だが。


「抱きついてきたのはギーザ様の方からですよ」

「それでもはなせ」

「無理です。今日は俺がギーザ様の護衛ですから肌身離しません」

「お前が一番危ないんだが」

「安心して下さい。結婚するまでは絶対に手は出しません」

「まったくもって説得力がない」


 言いながら、ギリアムが俺からギーザを取り上げようとする。

 だがそれに抵抗したのは、俺ではなくギーザだった。


「いやっ! 今日は、アシュレイとずっと一緒にいる!」


 そういってギリアムを睨むギーザ。むろん、ギリアムは傷ついた顔をする。

 きっかけは俺とは言え、落胆する親友の様子は見ていられず、俺はギーザの頬をたしなめるようにつついた。


「俺も同じ気持ちですが、お父様に向かってそういう言い方はいけません」

「でも、パパはアシュレイに意地悪なんだもん」

「それは、ギーザ様を心配しているからです」

「なんで心配するの?」

「俺はまだ、あなたに相応しい男ではないからです」

「相応しくないと駄目なの?」

「ええ。ですが安心して下さい、あなたが成人する前には、相応しい身分と地位を手に入れますので」


 それまではギリアムが自分をいじめるのも仕方がないのだと説明してやれば、彼女は渋々「ごめんなさい」とギリアムに謝る。

 その言葉にも複雑そうな顔をしていたが、ひとまず彼は気持ちを立て直したようだった。


「まあお前の剣の腕は信頼している。今日は妻と娘を頼むぞ」

「もちろんです」

「俺も仕事が終わったらすぐに追いかける。だからくれぐれも、節度は保て」

「いつも保ってるじゃないですか」

「その顔でか?」

「俺、そんな変な顔してます?」

「デレッデレだぞ」

「そりゃあ、愛しい恋人の前ですからね!」

「まだ恋人じゃないだろ」

「じゃあ、愛しの君くらいにしときましょうか」

「……お前、本当に……ここ数年おかしいな」


 まあ前世の記憶を思い出したせいで、以前と若干性格が変わってしまったことは否めない。だからきっと、俺とずっと一緒にいたギリアムは違和感が気になるのだろう。


「少しくらいおかしくても、俺は俺ですよ」

「いや、俺の親友はこんな変態じゃなかった気がする」

「変態でも、ギーザとお父様を慕う気持ちに変わりはないですよ?」

「……だからお父様などと言うな」


 ため息と共にそうこぼすと、ギリアムはそろそろ行けというように手を振った。

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