ベグ青空

エリー.ファー

ベグ青空

 美味しいご飯を食べるために、外に買いに行く。

 晴れだったが、風が強く多くの人が下を向きながら歩いていた。

 このまま進めば目的地であるはずなのに、途中で本屋へと寄った。別に何か買いたいものがあるわけではない。ただなんとなく眺めるだけである。有名な本の表紙がデザインされたシャツや、バッグが売られていた。合ったサイズがなかったのでそのまま帰った。途中で知り合いに話しかけられたが無視をした。滞在時間は一時間ほど。

 外に出ると雨が降っていた。しかし、雲一つない。

 傘を持っていなかったので、本屋の外で雨宿りをする。

「雨、降ってきましたね」

 話しかけてきた相手は女子大生だった。

「そうですね」

「傘、ないんですか」

「そうなんです。ないんですよ」

「私もないんです」

「やむといいですけどね」

「きっと、やまないと思いますよ」

「そうですかね。やみそうな感じですけど」

「そう思っている時ほどやまないもんじゃないですか」

「そうですかね」

「そうです」

「そうですか」

「雨って素敵ですよね」

「雰囲気ですか」

「空気感です」

「たぶん、意味は一緒です」

「たぶん、違います。言葉が違うので」

「そうですか」

「そうです」

「もう一度、本屋に戻ろうかな」

「やめたほうがいいですよ」

「どうしてですか」

「よく考えて下さい。本屋に面白いものなんてないですよ」

「ありますよ」

「何があるんですか」

「本です」

「本なんてどこにでもあるじゃないですか」

「早々、ありませんよ」

「そうですかね」

「そうです」

 雨が強くなっていく。

 本屋の中で誰かがため息をついた。それが連鎖していく。不思議な気分だった。聞こえているだけで影響を受けなくて済む。自分を強く保っているということなのか。

 いや、それとも。

「台風が来るみたいですよ」

「台風って怖いですよね。何もかも吹き飛ばしてしまう気がする」

「本なんかひとたまりもないでしょうね」

「本なんて大っ嫌い」

「どうしてですか」

「だって、台風で飛んで行ってしまうくらいじゃないですか」

「軽いものが嫌いなんですか」

「そうです。軽いものが嫌いなんです」

「どうして、そんなに嫌いなんですか」

「軽いから離れていくんです。人も」

「あなただってそうでしょう」

「私は違います」

「何故、そう言い切れるのですか」

「私は私です」

「そうでしょうか」

 本屋から店員が現れて、あたりを見回す。それから大きく手を振ってまた中へと戻る。

 レジに客が並んでいる。誰かの早足が聞こえる。

「職業はなんですか」

「小説家です」

「どんなものを書いているのですか」

「内緒です」

「教えてくださいよ」

「内緒です」

「いいじゃないですか」

「教えません」

「なんでですか。いいじゃないですか」

「私はあなたが嫌いです」

「ショックです」

「すみません。間違えました」

「なんですか」

「嫌いじゃなくて、大嫌いです」

「どうして、そんなことを言うんですか」

「吐き気がします」

「どうして」

「口が臭くて、話したくないです。清潔なだけで、糞尿が喋っているように思えます」

「最低ですね」

「じゃあ、これ以上、話さなくてもいいということですよね」

 私は少しだけ幸せになる。

 本のことをまた一段と好きになる。

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