掌編小説・『リアル・アドベンチャー』

夢美瑠瑠

掌編小説・『リアル・アドベンチャー』



掌編小説・『リアル・アドベンチャー(「冒険家」改題)』



「シアターアドベンチャー」という映画館が開館して、なかなかの人気だった。

 これはつまり、ヴァーチャルリアリティーの最新技術を駆使して、来館者が「本物の冒険」に似たシミュレーション体験ができるという、未来型のパビリオンだったのだ。

 3D眼鏡を付けて、ジェットコースター型のモノレールに乗って、<A.I>が自動的に作成、編集、上映する冒険活劇を、約30分ほど体験する。架空の剣と銃を手に持っているという設定で、ゲームのようにモンスターと戦ったりもする。


 ハラハラドキドキのシナリオで、音響効果も映像もハイクオリティーで、まったく現実に寸分たがわない体験ができるのだ。


 物語の舞台は未来社会だったり、宇宙だったり、江戸時代だったり様々だが、シナリオには無数の分岐があって、操縦者たちの精神状態や生体的な反応をリアルタイムに分析して、よりエキサイティングな物語の進行を<A・I>がつかさどっていくのだ。

 操縦者たちの嗜好にピッタリの、最もカンファタブルで、エキサイティングなシナリオが、どんどん自己増殖していって、<冒険>の生み出す醍醐味、カタルシスというものを無数に体験した後で、目くるめくような大団円が訪れる…


 こういうファンタジーゲームがグレードアップされたような、パーフェクトでオートマティックなシステムがシアター内に構築されているのだった。

 つねにゴンドラに同乗している4~5人のメンバーが、RPGのようにパーティを組むという設定になっていて、それぞれの推定しうるパーソナリティーや、生体反応の総和の函数が、シナリオやCGの進行を左右していくという構造になっているので、観客は入場する度に全く新しい体験をすることになるのだ。

 

 来場者全てに例外なく無上に居心地のいい体験と空間を提供する、この<冒険>の殿堂は、リピーターが引きも切らず、従来のUSJだののアミューズメントパークをぶっちぎる人気になっていったのだ。


… …


 しかし、半年後にシアターは閉鎖になった。

 現実がシアターの中の冒険のように、ひたすら快く、自らの願望通りに進行していかないということに苛立った、一部の入場者たちが情緒不安や鬱症状を訴え始めて、ネトゲ廃人のような一種の社会的逸脱症状を呈し始めたのだ。

 ゲーム依存やネット依存でも同様のことは問題視されていたが、よりリアリティが強くて、依存性もそれだけ高いようなこうした施設の悪影響は深刻だということが日本精神医学会により正式に論告されたのだった。


「シアアドが閉館だって?」

「逸脱行動とかでVRの弊害が問題視されたんだって」

「へ~意外!」

「へ~遺憾!w」


 この一連の出来事は、技術の進化ということは必ずしも人間の幸せにつながらない、そういう警世を与える一つの例として、人間社会に教訓を残す出来事となったのであった…


つまらないオチでしたw


(了)

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掌編小説・『リアル・アドベンチャー』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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