第7章 『 』

第1話 私は………



「俺達、別れましょう」


 しん、と静まり返った夜の闇に、静かに、確かに、彼の声が響いた。

「まぁ、もともと付き合ってませんでしたけど」斜め下を見ながら、自虐的に笑うその顔には覚えがあった。……いや、初めて見る顔だ。なのに、なんで、こんな気持ちになるのだろう……。


「なんで……」


 私の呟きは、意図したものではない。震える声は彼の耳に届いたのか心配になる程に小さい。

 静かに吹いた風が雑草を揺らして足首を撫でる。


「なんでって。そりゃ。もう、無理ですよね?」


 相変わらずこちらを見ない顔。

 墨汁のように真っ黒に塗り潰された川の方を向いている。


「……貴女も。そう言いに来たんでしょう?」


 やっとこちらを向いた彼は、高校のロビーで別れる時と同じ顔をしていた。

 捨てられるのを怖がる仔犬のような、目。頼り無く、揺れる。それでいて、すがりつこうとはしてこない。

 それなのに、唇だけは弧を描き、嗤わせていた。なんて哀しい笑い方なのかと思って、胸が詰まる。


「…………私、は……」








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