第5話 人間は神ではなく宇宙人が創ったのか

●地表の変化

カランが担当する仕事はサル達の居住地付近の確認から始まる。

「あれっ、緑が凄く増えてます。」

船長とキャサリンもカランのモニターを覗き込んでいる。

「今回の100年で周辺の様子、以前と全然違うんやけど。」

「確かに、これは凄い変化だなあ。」

キャサリンは彼らの行動範囲を確認してるが、かなり広がっている。緑が増えたので当然ではあるが。


カランは前回のデータを表示して、

「火を起こして食べていた物はイモ類だけではなく、きっとウサギ等の小動物も含まれている様です。この画像のこのあたりですが、小さな骨ですね。」

キャサリンは食い入る様に見ている。

「間違いなさそう。つまり前回のルーティーンで見落としていたのかな。」

「だから。現物サンプル見たかったんやけど、やっぱり、そうやったんやわ。」

「これって。キャサリンの仕事とちゃう?何を食べてるかって、、、」

「そうだね。肉食になってるって大きな変化。きっと体格に大きな変化が現れると思うよ。」

カランは以前のキャサリンとは違っていると感じている。メインコンピュータから量子論のデータが送られたのは間違い無いと思うが、知識で人格が変化する?まあ、有り得る事であるが。けっこう呑気になってるなあ、と心で笑ってる。


船長は彼らの故郷にドローンを飛ばして観察しているが、この大陸には名前を付けた方が良いだろう。

「カラン、例の命名ソフトで、この大陸に名前を付けて欲しいんだが。」

「ええっ?このデカイ大陸の名前ですか。」

「ドラッグ&ドロップで名前が付くんだろ。」

船長も、ちょっと性格が変わってる。やっぱり、あれかな。

「ええ?こんな無機的な物も出来るかなあ。ちょっとやってみますね。」

大陸全体の画像をドラッグ&ドロップしてみた。・・・・・アフリカ。

「おお!出ましたよ、アフリカだって。」

船長は大笑い。以前ならこうい場面で大笑いなんて有り得なかったが、量子論の知識が確実に性格を変えている。

「凄いなあこのアプリ、固有名詞が有るとレポート書くのに助かるよ。」

キャサリンもカランにリクエストした。

「じゃあ、今サル達がが居る所は?」

「やってみようか・・・・・アメリカ。」

「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、その北側の大きな大陸は?」

カランは北側の大陸に焦点を当ててドラアッグ&ドロップした。その結果は・・・アメリカ。

「あれ~同じなんだ!これ、ちょっとヘンよね。」

「見た感じと全然違うよなあ、陸続きやけど、同じやないわな。」

船長は命名アプリを尊重した上で提案した。

「カラン君、そのアプリは尊重した上で、北アメリカ&南アアメリカにしないか?」

カランもキャサリンも賛成。まあ、それが良いだろう。


名前が決まったところで、カランとキャサリンはそれぞれのバルーンに乗って、南アメリカに飛んで行った。サル達の居住区は、南アメリカの北部で、北アメリカに近い。キャサリンは地上の変化に驚いている。

「カラン、凄く緑が増えてるね、前回は殆ど砂漠だったのに。」

「だよね、これはある意味ラッキーやけど、危険な肉食銃との境目が無くなって来てるとも言えるのでは?」

「確かに、その通り。何か大きな変化が起こりそうな予感。」

軌道上から広範囲を見ている船長から二人に連絡が入った。

「この100年間はけっこう雨がが降った様で、緑が増えたのは良いんだが、色んな動物の数も増えてる様だ。」

「船長、それはアフリカから来たんでしょうか?」

「いや、そうではなく、元々アメリカに居た動物達だと思うよ。」

「カラン、ちょっと見に行ってくるから、サル達はお願いね。」

「承知いたしました、キャサリン教授。」

キャサリンは、最も緑が増えたサルの居住地より北部に飛んで行った。


夕方になって二人は母船に戻った。この日キャサリンが集めたデータはかなり多い。

「船長どうします?データ全部見ます?殆ど専門的なものですし、ビックリする様なのは無いですが。」

「だったらバーチャルタウンで話そうか。」

居酒屋ISARIBI、ワイワイガヤガヤ、たまには、こういった軽い雰囲気も良いものである。


●またも緊急起床。

いつもの様にタイマーは100年であるが、55年で緊急起床。3人はそれぞれの席についている。

「船長、また現れましたよ!巨大宇宙船。」

「何だこれ、何で何度も現れる?」

「カラン、通信は入ってるか?」

「全く無いですが、スキャンはされている様です。起床直前に4機のドローンが近くを飛行してます。」

「連絡が無いとはヘンだな。相手は気付いているのに。」

3人は巨大な船を見ながら情報を集めている。以前の2隻と同様に、突然現れている。つまり、我々のテクノロジーとは比較にならない、ワープ航法の様な技術を持っている様で、船長は何か愕然とした気分である。

「以前マリアが言ってたなあ、我々の任務は重要だと。しかし、こんな凄いテクノロジーの種族が居るなら、我々は本当に必要な任務を行っているのだろうか?」

確かに、これ程のテクノロジーなら遺伝子技術も凄いだろうし、我々の任務は不要な事かも知れない。しばらく見ていると、その船が移動を始めた。おそらくアフリカの方角だろう。多くの動物が生息してる事に気付いたのか?その前に彼らの目的が我々と同じとは限らない。単なる資源採集なのかも。


しばらくして、その船は地平線の下へ消えて行った。

「船長、ドローン出しましょうか?」

「カラン、慎重に軌道上の離れた位置に送ってくれ。」

「了解です。」


その船は静止軌道を離れて、大気圏内に下降している。

「そんなバカな、大きさは100m近くありますよ、何で降りれるの?」

「キャサリン、だから我々のテクノロジーとは全然違うんやわ。」

船長は船の動きを見ているが、

「明らかにアフリカで、動物達が多く住む地域に向かってるよ。」

「それなら、私達と同じ目的という事ですね、船長。」

「今のところは、そう見える。動物の調査だろう。」

我々が観察している南アメリカでもどんどん変化が起こっているが、これからは地球の裏側アフリカでも変化が起こるかも知れない。


巨大宇宙船の彼らは、何故に我々を無視しているのだろうか?まず、我々の船には有機体が存在しないので、単なる無人探査機にしか見えない。そして、核を積んでいないので脅威とも思っていない。おそらくはそう考えられる。ただ、遠くから観察している我々のドローンからは、詳細な情報は殆ど得られていない。


「船長、ドローンをもっと近付けましょうか?」

「いや、今はやめておこう。何か活動を始めたら、この位置からも分かるだろう。」


3人が交代交代、1ヶ月のルーティーンにして観察する事にした。アフリカに着陸した宇宙船は、外から見る限り何の活動もしていない、もう6ヶ月になる。今月の担当であるキャサリンは、宇宙船よりも動物達を重点的に観察している。いつもと同じ、調和のとれた平和な世界である。


突然、アフリカの上空に小型の飛行物体が現れた。

「あれっ!何これ、何処から来たの?」

キャサリンは宇宙船を撮影してたカメラのデータを巻き戻して確認している。

「ああ、やっぱり母船から飛び出したのね。」

すぐに船長とカランの起床ボタンを押した。

二人は走って来た。

「キャサリン、何か有ったん?」

「バルーンが出てきたよ。」

二人ともキャサリンのモニターを食い入る様に見ている。

「ああ、これだな、、、我々のバルーンと殆ど同じ様だな。」

カランはバルーンの映像を何度も巻き戻しながら、その動きに注目している。我々のバルーンは、水平方向には急加速&急減速であるが、このバルーンは動きがスムーズで、自由自在に動いている。船長はカランのモニターを見て、そのスムーズな動きに驚いている。


「なるほど、凄いテクノロジーだな。」

3人はそれぞれ各自のモニターを見ながら、情報を集めているが、あまりにも遠すぎて、有益な情報は殆ど得られない。そうこうしている内にバルーンは、サル達の生息地に着陸した。大量の樹木に囲まれているので、何をしているのか全く見えない。


「船長、ドローンを大気圏内に移動しましょうか?」

「いや、森林の中だと、かなり近付かないと、彼らの行動は確認出来ないし、それは危険過ぎる。」

キャサリンは立場上、最も興味が有るが、ここは船長の判断に賛成である。キャサリンの意見は。

「彼らは我々の行動を、きっと知っているにも関わらず干渉する気が無い様に見えます。」

「そうだな。我々に干渉しないのは相手を尊重してるのか、あまりにもローテクなので相手にしなだけなのか、どちらかは分からんが、我々の邪魔をしない様だし、お互い粛々と任務を遂行すれば良いんじゃないか。」

「そうですね、船長。キャサリンは?」

「それでイイんじゃない。」


今後のルーティーンを話合ったが、しばらくは、1年ルーティーン。交代で起きて異常を確認する事とした。北アメリカには大きな変化は無いし、LOVEYAで軽く牛丼食って寝る事にした。


●宇宙人が姿を現した。

身長は3メートル以上。ロボットではなく普通の生命体である事はすぐに分った。熱センサーで見て周囲の温度変化が有れば、呼吸している事が分かる。補助装置を付けてるかどうかは不明であるが、草原を3人が歩いている。以前出会ったマリアはホログラムだが、今見えているのは本物の宇宙人である。


「わお~!何て事。」

生物学者のキャサリンから見て、あまりにも異常。形状は我々と同じ人間の形なのに、動きがは虫類っぽい。体重は1トンは有ろうと思えるのに、俊足である。

「キャサリン、は虫類のトカゲ人間やわなあ、ゲー、やめてケレ。」

「以前のラプトルとかティラノサウルスに近いね、尻尾は無いみたいだけど。」

「キャサリン、確かにそうやね。こういう連中とは何となく友達になれない気がするわ。」

船長は広い範囲を確認していたが、動きが有ったのは、この3人の宇宙人だけである。我々が観察してる事は当然知っているはずだが、全然気にしていないという振る舞いである。

「いや、驚くほど大きいなあ。で、は虫類系か。しかし、彼らがサルを選ぶのは不自然じゃないのか?キャサリン。」

「確かにそうです。もし隕石衝突以前に彼らが来ていたなら、きっと衝突を回避して、は虫類文明を実現してたかも知れませんね。」

「で、今は同類のは虫類探し、そういう事やろね。」


アフリカ観察はここまでにして、本来の任務に戻ろう。変化はゆっくりであるが、緑は確実に広がっている。キャサリンは身長の高い個体に注目して、優先的に映像データを収集している。

「キャサリン、何か身長伸びてきたよなあ。」

「そうね、種の変化は無いと思うけど、外観は木の上で生活してたのと全然違ってきてるね。」

「以前のトールイブの遺伝子が受け継がれてるんやなあ。」


最初は水源は一カ所だったが、今は周りに数カ所有る。当然、サル達の生活範囲はどんどん広がっている。船長は北アメリカを含む広い範囲を見ているが、全ての地域に於いて、砂漠から緑に変化している事が確認出来る。地球は生命体であって、植物はその地球と直接繋がっている、だから地球が元気になれば植物も元気になる。


1年ルーティーンが既に500回ほど繰り返されていて、長い年月が流れていった。その間にはは虫類人が素手でライオンやサイなどを倒したり、凄い映像も有るが、最近は特に驚かなくなっている。一方、南アメリカは益々緑や水源が増えて、サル達の生息範囲もどんどん広がっている。

「船長、本当に平和ですね。ぼちぼち我々の任務完了やないですか?」

「確かにそうかも知れないが、任務完了したら、その後我々はどうするかなあ(笑)。キャサリンどうする?」

「無限の時間をバーチャルタウンで遊んで暮らすかな(笑)」

「キャサリン、バッテリーはきっと再生出来るから活動は続けられるんやけど。」

「再生いらないよ。」

「って事は死ぬって事なんやけど。」

「もう、とっくに死んでるけど。」


「おいおい、二人とも何言ってる?それは冗談のつもりなのかな。は虫類人を監視するのも任務じゃないか。」

「船長、でもお互いに干渉しないから、ここまでやって来たけど、その先有ります?」

「カラン君、気持ちは解るよ。平和で退屈な日々が続いて、モチベイション下がるだろう。今はここ南アメリカとアフリカはほぼ地球の反対側で、接触は無い様に思えるが、サル達が移動を始めて、アフリカまで行く可能性は無いだろうか。」

キャサリンは船長の話を黙って聞いていたが、ハッと気が付いた。

「この先に文明の衝突が起こる!」

「キャサリン、それだよ!」

カランも船長の考えが理解出来た。それならばバッテリーの寿命が重要である。文明は単純に進歩するものではなく、異なるものがぶつかり合って、それによって方向が決まっていく。いつも控えめで優しい船長が、任務の真髄を語った。カランとキャサリンは改めて船長の偉大さを再確認した。そうだ、それが任務。平和ボケしてたよなあ。


「船長、今からリチュームの採掘、行って来ます。」

「そうか、バッテリーの再生、宜しく頼む。」


●勝手な推測、全然ハズレ。

本当に勝手な推測というか、的ハズレというか、アフリカで背の高い直立歩行のサルが密林から草原へと歩き出した。キャサリンはビックリ仰天。すぐに二人の起床ボタンを押して、食い入る様にモニターを見ている。

「キャサリンどないした!」

「カランこれ見て、ショック!」

船長もキャサリンのモニターを見ている。密林から背の高い、直立歩行のサルが草原を歩いている映像である。方法は違うとは思うが、結果は見た限り同じ。


「キャサリン、は虫類人はサル達に何したん?」

「解らないけど、結果が同じって、不思議。」

船長もかなり驚いている。これは全く予想外。

「これは必然なのかも知れないな。」


3人とも自分達の考えの甘さに愕然とした。は虫類だから、同じは虫類の後継者を選ぶと、勝手に思い込んでいた。確かにワニやトカゲ、ヘビとも接触していたが、さほど興味を持っている様には見えなかった。今だからこそ、そう思えるが全く気付いていなかった。やはり本命はサルだったんだ。勝手な思い込みは、この宇宙では通用しない事を思い知った瞬間である。


「船長、これってヤバイんやないですか?」

「ああ、このまま行けば文明の衝突は必ず起こる、地球の裏側であっても、北側ではほぼ陸地続きになってるしなあ。」

「知的生命体を作る事と文明構築は別なんだ、、、ところでカラン、リチュームは見つけたの?」

「勿論、持ってきたけど、思ってったより不純物が多くて、純粋な量がちょっと足らんかも。ルーティーンの回数にもよるけど。」

「カラン君、短いルーティーンは長く続くと思えるので、リチュームは大量に必要になるだろうな。」

「ですね。何とか工夫して充電バッテリー6本は作ります。」


その後も1年ルーティーン500回続いた。3人の長寿命バッテリーは全て使い切って、今はカランが作った充電式バッテリーで活動している。アフリカの動きは驚く程活発になっている。数機のバルーン、多くのは虫類人が活発に動いているが、地下資源調査と採集に力を入れている様に見える。一方、例のサル達はどんどん進歩。生息地域を拡大し、何と槍を用いて天敵を排除している。


「キャサリン、動物学者として、どう思う?」

「は虫類人は今はサル達にあまり感心が無い様に見える。でもサル達は自発的に確実に進歩してるよね。」

「そうだな。彼らが自発的に進歩しているのが不思議なんだ。」

「よく解らないですが、遺伝子操作のレベルが我々とは全く違うんでしょうね。凄く知能が高いみたい。」


カランは動物の情報とは異なる、バルーンの動きを見ているが、動植物が生息しない地域で彼らが何をしているのか。バルーンはおそらく5〜6機、は忠類人は数十人、いったい何をしているのか?レーザー光線で岩を溶かしている様だが、地下資源調査や採集とは、何となく違う動作もある。立方体に岩をてカットしている映像である。


それからまた500年が経過したが、カランの疑問はハッキリと答が出ている。立方体の岩を切り出して巨大な建物を作っている。我々と方法が違うのは明らかである。我々と違って彼らは有機生命体なのでこの地球に住むのだろう。しかし、何故サル達を進化させたのか?その理由は解らない。奴隷にするつもりなのか?キャサリンはDNAを調べたいと思ってるが、それは非常に難しい。どうやって近付くのか?


「カラン、例の蚊ロボットをアフリカまで飛ばせない?」

「おいおい、キャサリン、そんなアホな、どんだけ距離あるか解ってるやろ。でも、何とか近付けないかなとは、いつも考えてるよ。」

船長が閃いた。

「どうだろう、海から行くという方法は有るんじゃないか。」

「なるほど!、船長イイですね。東海岸から出港すれば、アフリカ大陸には到着可能です。ただ、船で行ったら簡単に見つかるわな。」

船長もキャサリンもちょっと考え込んでいるが、キャサリンはハッと閃いた。

「鳥ロボットはどう?カラン。」

「渡り鳥作戦か、群れに紛れて行けばエエかも。船長、そんな渡り鳥って居ます?」

「ええっ?直接アメリカからアフリカに行く渡り鳥は居ないが、経由して行けばルートは有るかもしれないな。ちょっと調べてみる。」


船長は勿論そういったデータも収集していたが、アメリカからアフリカに繋がるルート。そんな事考えた事もないので、データはバラバラ。結び付けるのはけっこう大変な作業である。多くのデータを確認しているが、アフリカ行きの渡り鳥など殆ど居ないし、居ても同じアフリカ大陸内の移動である。


「カラン、残念だけど、その案はほぼ無理だね。」

「そうですか、無理なんや。」

キャサリンはとんでもない案を思いついた。

「じゃあ潜水艦はどうかな?」

カランはピンと来た。

「なるほど!大型の魚に見せかければ多くの物資を運ぶ事が出来るわな、採集キットも送れるで。それやな!」

早速カランは魚型ロボットの製作に取りかかった。空を飛ぶロボットに比べれば簡単な作業。1ヶ月程で完成した。


●魚ロボットがアフリカに到着。

何故か航海の間、イルカやクジラがフレンドリーにエスコートしてくれた。ルートは南アメリカの東岸からアフリカの南端を目指し、回り込んだら海岸線に沿って北を目指すルートである。その間、あちらこちらからイルカやクジラが現れ、リレー形式でエスコートしてくれた。明らかに知能の高い種であり、それだけではなく、我々の考えを理解しているとしか思えない行動である。


もし、物質中心にしか物事を考えられないのなら、どうやって考えが伝わっているのか、全く理解出来ない。しかし今、量子論を理解している3人にとってはさほど不思議でも無く、有り難う、と感謝の気持ちである。


「キャサリン、間違い無く我々の考えを読んでるし、応援してくれてるやろ?」

「ふむふむ、絶対に間違い無いよ。私達が有機体人間だったらテレパシーかも知れないけど、今はロボットだもんなあ。有り得ないと思うけど。」

「でも、とんでもない能力を持った種だといいう事は確実やわなあ。」

「カランの持論、地球くん同士の会話と関係があると思うんだけど、何かヒント無い?」

「ヒントってかあ、じゃあ、地球がクラウドであって、それを介して繋がってるって、どう?」

「大いにアリね。地球って何かとんでもない偉大な存在だと思えてきたよ。」


船長はは虫類人の活動を監視しているが、魚ロボットに気付いている様子はないし、そもそも海の生物には全く関心がないのかも知れない。ひたすら岩をカットしては、バルーンで運んで数カ所に建造物を造っている。住居ではなく何かの工場ではないかと思える。


「カラン君、いよいよ上陸だなあ。この後イグアナみたいに歩くんだろう(笑)」

「さあ~、イグアナに変身しますよ。見てて下さいね。」

ヒレの近くから4本の足が洗われて立ち上がった。そしてゆっくりと歩き始めた。

「わあ~凄い!カラン天才(笑)」

「歩くだけやないで。険しい岩山も登るで、まあ楽しみにしててや。」

今は東海岸に到着しただけ、この後4000メートルの山を越えないとサル達の生息地には辿り着かない。魚ロボット、改めイグアナロボットの活躍に乞うご期待。交代制の1年ルーティーンは今後も続く。カランはせっせと充電バッテリーを作っているが、何を思ったのか突然。


「船長、何か急にカニが食いたくなったんですねど。」

「ええ?カニ?」

キャサリンは急に思い出した様に、ハッとした表情。

「そう言えば、1泊でゆっくり食事って、やってなかったよね。冬の旅館でカニ料理三昧。アリですよね。」

「なるほど、アリだね。季節を冬に設定して。」

「めっちゃエエね。バーチャルタウン機能、忘れてたか。船長、お祝いやし、行きましょう!」

季節は冬に設定、場所はカニの本場。料理旅館に3人様、1泊でご予約。


それはそれは楽しい電車の旅。バーチャルタウンには凄い性能があるのに、今まではごく一部しか利用していなかった。まあ、近所で食って飲むだけ。任務を最優先にしていたので、楽しむ事を忘れていた。もっともっと楽しめるのだ、楽しんで良いのだ。当然の事に気付いただけだが、急に世界が広がった感覚。


3人同時に変更された1年ルーティンは2回目であるが、イグアナロボットはサル達が見える位置に到着している。その様子は我々の南アメリカとほぼ同様、直立歩行のサル達が生活している。さらには草原に進出して動物を捕獲して食料にしている、これは、我々のサル達とはかなり異なる生活スタイルである。キャサリンはその生活スタイルに驚いている。

「基本的に肉食ですね。木に登れなくなってるのはこちらと同じですが。植物よりも肉食ですね。」

船長も興味を持って観察しているが、食生活が全く異なっている事には注目している。

「キャサリン、どんな遺伝子操作か分からないし、その後の教育も分からないが、同じサルという種であっても、全く異なる方向性だと言えるんじゃないか?」

「そうですね。これだけ異なるのなら、この先何千年か分からないけど、文明の衝突は大事件になるかも知れません。」

「カラン君、バッテリーは大丈夫か?」

「ご心配なく。最低限の6本は出来たし、性能は劣るけどB級も20本ほど作っておきます。1/10の性能しか無いけど、船内使用だけなら十分ですよ。」

「有り難う、それなら安心だな。」


夜になって蚊ロボットが活動を始めた。採血ユニットに戻った蚊ロボットの採血データがどんどん送られて来る。キャサリンはそれらを分析しているが、今のところ異常は確認出来ていない。つまり、彼らもサルであって、異なる種ではない。遺伝子操作によって、種が変わる事など基本的には有り得ない。ただ、驚異的なテクノロジーのは虫類人なら、それは可能なのかと思っただけである。やはり有り得ないだろう。


船長はは虫類人の行動に注目しているが、彼らが建造しているのは住居とは思えない。やはり工場なんだろう。その近くに石炭の貯蔵施設が出来ているが、生活用にしてはあまりにも多すぎる。暖房は必要無い地域であるし、金属の精錬施設である事は間違い無いだろう。彼らはここで文明を起こすつもりだ。疑いの余地はない。


●反射炉による製鉄が始まった。

現在、バルーンは30機ほど。は虫類人は500人ほど。明確な目標を持って働いている。鉄を作らないと色々な機械は作れないので最優先である。他に、金銀銅、鉛や水銀などの精錬準備を平行して行い、明確な計画を着実に実行している。ところが、自分達が進化させたサル達には全く興味がないが如く無視である。


一方、我々の南アメリカのサル達には順調に進歩が見られる、これまで草原のウサギや湖の小魚も食料にしていたが、丸太をくり抜いた舟に乗って、大きな魚を槍で突いて捕獲する様子が見られる。主食は以前と同様に植物であるが、炭水化物主体から動物性タンパク質を食料に加えるという事は、さらなる身体の発展が期待出来る。船長の役目は、広い範囲の変化を確認する事であるが、既に一目では全容が分からない程に広がっている。少数のサル達は北アメリカに到達しているし、南アメリカでは南と東西に広がっている。


各方面にドローンを飛ばして情報収集をしているが、細かい事まで見ていては情報量が多すぎて無駄な作業ばかりが増える。

「とても全部は追えないな、どんどん広がってるよ。」

「船長、イイ事ですね。大成功じゃないですか。」

「キャサリン、そうだね。文明衝突が起こるとしても、遠い未来だと思うし、サル達には今を幸せに生きて欲しい。」

「ですね。未来がどうなるか?それはサル達の考え次第だし、ねえカラン。」

「そうやけど、アフリカのは虫類人、サル達を奴隷にするつもりなのか、それとも共存するか、教育して文明をの主役にさせるつもりかのか、どうなんやろね。」


アフリカのは虫類人は着々と計画を進めている様に見える。それからルーティンは10回、つまり10年が経過した今、既に製鉄は始まっているし、関連施設と思える工場の動きも活発になっている。もう推測の必要など無い。彼らは確実に文明を構築していて、3人はただただ見ているだけである。しかし、キャサリンはサル達の事が心配でならない。最初にサル達を進化させたのは奴隷にするつもりではないのか。


「ホンマ、全然解らんわなあ。」

計画通りに着々と事を進めているは虫類人には、当然明確な目標が有るはず。。

「キャサリン、アフリカのサルって、ウチのサルと全然違うよな。」

「肉食中心で強いし武器も使ってる。敏速なライオンや大きな動物も仕留めてるし。」

「ウチのサル達はイノシシやクマに負けてるわなあ。文明衝突になったら勝ち目は無いなあ。」

「だよね、このまま進化したら、身体能力や知能に大きな差が生じるはず、」

「ウチのサルは負けるのかあ!」

「カラン君、ウチのサルって言うんだね(笑)。」

3人は大笑い。


その後も1年ルーティーンは続き、20年、30年・・・。現在50程有る工場は殆ど稼働しているし、製品をコンテナに入れてバルーンで運ぶ様子も頻繁に見られる。工作工場らしき建物も注意して観察しているが、何を作ってるのか殆ど分からない。おそらく、鉄板やH鋼やボルト等の建築や工業用素材ではないかと推測している。現地に潜入したイグアナロボットとモスキートロボットは既に電池切れで情報収集が出来なくなっているので、遠くからドローンで観察するしか無い。


最近川の付近の土地を平らに整地してる様子が見られてるが、新たな工場と建てるにはちょっと広過ぎる。3人は気になってちょくちょく観察しているが、船長は農地ではないかと見ている。


「船長、これが農地だとして、誰が耕作するんでしょう、あのサル達ですか?」

「それが解らないんだよ、イモを掘る事は出来ても、作物を育てるのは無理だと思うしなあ。」

「農地なら川から水を引いて用水路も作るはずよね。」


それから2年、やはり予想通り用水路を作り始めた。レーザー光線で溝を切って、他のバルーンが土砂を吸い上げている。何とも凄い性能、原理は全く理解不能である。そこへ、また別のバルーンがコンテナを運んで来て、直方体にカットした岩を敷き詰めて行く。あ然とするテクノロジーである。


「わお~、何がどうなってるんや、重力を自由自在にコントロール出来るんやなあ。」

「誰が耕作するんだろうなあ、キャサリン、サル達に出来ると思うか?」

「それは無理でしょう、一体何を考えてるのか、全然解らないよ。」

カランは母船から飛び立った1機のバルーンに注目している。何か様子がヘンだ。かなり加速が遅い。何か重要な壊れ物でも積んでいるのだろうか?その行く先は一直線に農地である。


「船長、何か重大な展開になりそうです。」

「ええっ?何が。」

「ちょっと、このバルーン見て下さい。普段と全然違うんです。」

キャサリンもモニターでそのバルーンの映像を観ているが、意味が分からない。

「カラン、何がヘンなの?」

「まあ、見ててや、単なる勘やけど。」


そのバルーンは、いつもとは違うゆっくりとした減速で農地に到着した。直ぐに10人のサル?は虫類人?、、、いや違う、サルでもなく、は虫類人でもない、身長160~170cmほどの、人間?

「ええ~何で?」

キャサリンはビックリ仰天。

「どういう事?母船に乗ってたの?」

全く予想もしていない展開に3人はモニターに釘付けになっている。


「キャサリン、サルやないね。人間が乗ってたのかな?」

船長は初期のログを入念に見ている。それは母船内で高度な遺伝子操作を行ったのかも知れないと推測したからである。勿論、密林からサルを連れて行った映像は無いが、バルーンが数回密林を訪れている映像は発見出来た。3人はその映像を観ながら経緯を思い出している。彼らは最初にサルを進化させてから、母船内で高度な遺伝子操作をしたのだろう。


彼らはそれが100%成功すると確信していたからこそ、同時に文明の準備をしていた。それは自分達の為ではなく人間の為に。は虫類人の綿密な計画は、我々の想像を遙かに超えたものである。文明は自然に発生するものと漠然と考えていたのは全くの勘違いであり、現実を知らない幼稚な考えだと思い知らされた。

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