遙かなる時を超えた開拓者〜神の美しき計画〜

@noopy0620

第1話 アバターロボットで文明を継承する計画

我々人間が住む3次元は、平面である2次元が無数に集まった集合体と言える。4次元から見れば、それは3次元が無数に集まった集合体。全く実感は出来ないが。地球は円ではなく球体です。でも、いつでも一定の球体ではなく、時間と共に変化する。だから地球は「生命体」ではないのか?と考えてみよう。


例えば一冊の本の10頁目と20頁目にそれぞれコインを挟んで、それを友達同士の二つの地球生命体だとする。3次元で生きている我々人間の常識では、その二つのコインが出会うには、どちらかのコインが本の端まで移動し、一旦本の外に出てから目的の頁に移動するしかない。しかし、四次元生物である地球生命体ならば、紙をすり抜けてすぐに接する事が出来る。こういう事が3次元と4次元の違いであって、地球生命体はいつでも気軽に他のお友達である地球生命体と会話をしているのである。


●地球A君と、地球B君の会話

A「B君、君の地表にはすごく海が多くて奇麗だね。」

B「奇麗なだけじゃないんだ、よく見てよ、いっぱい魚が泳いでいるだろう?」

A「本当だ!すごいね。僕もそんな風になりたい。」

B「大丈夫だよ、君はまだ熱いから水が全部大気と一緒に空中に有るだけなんだ。そのうち冷えてきたら水は液体となって地表に落ちてくるよ。」


・・・それから100万年後。

A「雨が降って来たよ、水がいっぱい落ちて来る。」

B「言っただろ、待ってりゃ海が出来るって。」

A「すごいよ!どんどん海が出来てる。魚も生まれるかなあ。」

B「いや、それはすぐには無理だよ。」

A「えっ?何で無理?」

B「種がいるそうだよ。」

A「種って何?」

B「いやあ、それがよく分からないんだ。先輩から聞いただけなんだ。」

A「じゃあ何故君のところの海に魚が泳いでいるんだよ。」

B「あんまり追求しないでよ。実は僕にも分からないんだ。」


・・・それから100万年後。

A「やったー、魚が泳いでるよ。」

B「おめでとう。君も地球成人になったようだね。・・・ところで、どうして魚が生まれたんだね?」

A「いやーーー、それは分からない。」

B「だろう?分からないだろ。」

A「不思議だね。」

B「ところでA君、もしかしてショックかも知れないけど、僕の陸地を見てくれる?」

A「ぎょぎょっ!!これは魚じゃないよ。陸地で生きているよ。」

B「そうだろ、何なんだこいつら。」


・・・それから100万年後。

A「ああ、僕にも陸地の生物が出てきたよ。これって良い事なのかなあ?」

B「ちょっと見てよ、この陸上生物。人間っていうらしいんだけど、最近好き勝手なことばかりやって、困ったもんだよ。」

A「本当だ、こいつらいったい何者なんだろね。何か自分が偉いと思っているみたいだよ。」

B「そうなんだよ、やたら科学技術だか何だか知らないけど、色んな道具を使って僕の身体を攻撃するんだよ。やめて欲しいよ」

A「こいつら害虫?ばい菌?何かひどいやつらだね。早く駆除したら。」

B「そうしようと思たけど、意外にしぶといんだよ、困ったなあ。」

A「早く駆除しようよ。」

B「したいけど出来ないんだ。どうしよう。」

A「と言われても、えーー、どうしたらいいのだ!僕は絶対に人間なんて発生させたくないよ。こんなの最悪だあ。」


「カランいつまでTV観てるの、もうおやすみの時間でしょ?こんな低俗な漫画ばかり観ていると頭が馬鹿になるのよ。」

「ママ、ごめんね。こんな馬鹿な漫画、これからは観ないよ。」

「そう、おりこうさんね。じゃあ早く寝ましょうね。」



●ハイパーテク・アバター・ロボット工場。

「カラン、まだ寝てるの?」

それから22年、カランは28歳。

「カラン、また遅刻するわよ~。」

カランは飛び起きた。ヤバイ、8時45分。パズルー家は理髪店なので月曜日はお休み。今日はお父さんも居て、食後のコーヒー飲みながら新聞を読んでいる。バタバタとカランが二階から降りてきてきた。

「父さんおはよう!母さん御免。」

テーブルに有ったリンゴを二つ持って自転車で飛び出して行った。リンゴをかじりながら。


今日も多くの技術者が集まって、手作業でロボットを作っている。まあ、商業用ロボットなら、工作用ロボットが作ってくれるので、わざわざ人間が作業に加わる必要はないのだが、このロボットだけは特別なので、工作ロボットだけに任せる訳には行かない。


特に、顔の表情を作る部門と、手を作る部門は極めて重要な為、高いレベルの技術者が担当する。ベテランと若手がペアになって作業するのが基本で、28歳のカランはベテランのマークとペアで作業をしている。もう5年以上もマークとペアで働いているカランにとっては、40歳のマークを兄の様に感じている。カランの世代は皆が一人っ子なので、兄弟がどんなものか理解出来ないはずだが、親に言えない様な事でも何でも話が出来て、理解し合えるのがとても気に入っている。


「あと1年を切ったなあ。カランも行ってしまうのか・・・」

「マークさんも行きましょうよ、宇宙船は他にもいっぱいあるし。」

「宇宙船は有ってもバルーンが無いんじゃなあ、しかたないだろう。宇宙船ごと着陸しろってか。」

「バルーンを各船に1機づつにしたら、2倍の184隻で行けますね。」

「そりゃ無謀だろ。バルーンは殆ど修理不可能、壊れたら直せないで。バルーンには補修用パーツは殆ど無いし。」

「ですかあ・・・」



●バルーン

200年程前に発明され、重力を自由にコントロール出来る重力エンジンを備えた乗り物である。交通や輸送手段に画期的な進化をもたらすとして、当時は大いに期待された技術であったが、コントロールが余りにも困難な為、制御不能になり、宇宙の彼方に飛んで行って戻らないという事故が多発した。


それが、まるで糸の切れた風船の様だ、ということで「バルーン(風船)」と皆が呼ぶようになった。その後色々と改良されて、その様な事故は無くなったが、自由に飛ぶのは余りにも危険な為、垂直方向に上下するだけ、地上と周回軌道を直線で結ぶ運搬手段としてのみ使用されている。


水平方向に飛ぶ事も可能ではあるが、動き出しの初速を制御する事が理論上不可能で、それはとんでもない加速である。動き出した後のスピードや方向はコントロール出来るが、最初だけはバルーンの重さを支えている反重力エネルギーが一瞬で爆発的に水平方向に掛かるので、例えば1秒でマッハ1になったりとか。これは生身の人間には絶対に耐えられないGである。出来るだけ軽く作れば初速は押さえられる、とも考えられたが、結論は不可能。他の技術が発見されるまで、考えても無駄な事である。


「カラン、この小指の動作、ちょっと違うと思わんか?」

カランは自分の左手で物をつかむ動作をしてみた。

「う~ん、確かに自分の小指はちょい速く動くような、、、」

「そやろ、小指の動きは他とは若干違うよな。」

突然マークはカランに向けてケータイ電話を投げた。勿論カランはそれを右手で上手く受け止めた。

「どない?小指の感触は。」

「う~ん、ちょっとよく分からんなあ。」

「でも、しっかり握ってるわなあ。」

「うん。」

「じゃあ、このロボットで試してみようやないか。」


マークは同じ様な距離でケータイ電話を投げてみた。

ロボットの手も瞬間的にしっかりと受け止めている。

「どうかなあ。」

カランはロボットの手が掴んだケータイ電話を色んな角度から見て、、、

「う~~ん、掴んでる位置がジャストやないし、一瞬遅かったら滑り落ちてるかな。」

「NGやな。」

「掴んでるのにNGですか?」

カラン甘いな~という目つきで、

「何でやねん?逆に聞きたいわ。この程度でエエのか?自分の身体やで。困るのは自分なんやで。」

「でも、スピードはコンピュータ側で微調整できるでしょ?」

「たぶん、スピードやなしに関節の角度が狂ってるはずや。材質が全然違うんで、人間と同じ様に作ればエエというもんやないで。」

カランは改めてマークの技術レベルの高さというか、仕事に対する本気を見せ付けられた。

「そうか、そのレベルなんか。」

マークは目の前に良い物を見つけた。その瞬間、リンゴが飛んできた。もちろんカランは反射的に上手く受け止めたが、ロボットは少し違う。

「もう解るわな、球体を受け止めた時に、小指は落下を防ぐ為に、少し下側にに開くやろ。それやで、ははは、それが出来んと人間失格やなあ。」



●マークさんの誕生日

いつもと同じ仕事でも、カランはどんどんマークの高いレベルに引き寄せられる気がして、まあ、これが楽しくて、たまらないという毎日。ベテランと若手をペアにする事は、そうやって早急に確かな技術を伝授する為である。


「カラン、今日はオレの誕生日なんやあ。」

人が集中して真剣に仕事してる時に、突然こんな事言うんですね。オモロイ兄貴やなあ。カランは仕事の手を少し休めた。

「あっ、そうですか。」

「41歳。」

今、この集中力は切りたく無かったんやけど、まあ、ええか。

「おめでとうございます・・・一杯行きますか?」

「いいね、はははは;;」

この人、いつも真剣に仕事してる様には見えないんやけどなあ、たぶん天才というのはこういう感じなのかも知れない。結果はいつも完璧やし。


しばらくして仕事終わりのチャイムが鳴って、久しぶりに繁華街へGO!今は冬なので寒い。かつて賑やかだった街を知ってるマークにとっては余計に寒い。ダウンコートのポケットに両手を入れて。早足で歩いてる二人の姿。

「道路の車も少ないし、広告のネオンも全部消えてるし、サブイなあ。」

「昔は賑やかだったんですね。」


マークは灯りの消えた広告看板をきょろきょろ見ながら、

「オレが20歳の時は今の10倍はあったかなあ、それ以前は全部光ってたんで、100倍やったのかもな。」

「そんな時代が有ったんですよね。TVで観て知ってるだけやけど。」

前方に小さなネオンがちらほら、人影も増えてきた。今やこの街では飲食店街はこの付近だけ。しかし、ここにはレベル高いの料理人が集まっているので、いつでも最高の贅沢が味わえる。どの店でもクレジットカード決済になっているが、銀行は既に主要業務を終了しているので、口座引き落としは無い。つまり、実質的にはタダで食い放題である。まあ、飲み食い程度なら何も問題は無いが、余りにも高額を使う人には銀行から警告が届くそうである。


同じ工場内で警察から警告を受けた同僚がいる、車が好きなのは解るが、高級スポーツカーを7台も買うかあ?それはアカンでしょ。4台手放して3台だけでエエやろう、という事で決着がついた。警察は以前と同じく働いているが、事実上お金が無くなった社会には犯罪は起こらない。人の命を危険にさらすような行為は、以前と同様に厳しく取り締まっているが、そういった犯罪も殆ど発生していない。


今日はとにかく寒い、ポケットに両手を突っ込んで、繁華街に到着した。

「マークさん、今日は何処がエエですかね。」

「そうやなあ、今日はガツンと食いたい気持ち、分厚いステーキとか。」

「それなら、KOBE SUNRISE.。」

「OK!、それやなあ。」



●極秘世界会議

地球の終わりは200年以上前から分かっていたが、公表すればどうなるか、それは言うまでも無い。しかも世界人口は約10億、どの国のリーダーも公表に躊躇するのは当然だろう。


この地球が滅びる事は避けられない事実であるが、だからと言って人間の歴史をここで終わらせたくない、何とか後世に引き継がせないものか?と考えるのは人間の本能。古代からそうやって生き延びてきたからこそ現代が有るのかも知れない。簡単に諦められるものではない。


殆ど不可能と分かっていても未知の宇宙に飛び出そう!そしてこの文明を繋いでいこう。当然の発想であり、それ以外に考えられる事は無い。その為に考えられる事は全て実行に移す。極秘の研究も含めて全てテーブルの上に乗せて議論をしようではないか。


議長:ルータ・モリモト大統領のスピーチ。

「この地球で人間が生まれ、そして文明が発展して今日まで生きてきた我々人間。もうすぐ地球が滅びると分かった時、先人達も同じ様な決断をしたのではないでしょうか?私はおそらく、この惑星の最後の大統領として、おそらく先人達も実行したであろう、同じ行動を決断をするつもりです。」

ここで言う先人とは、広い宇宙のどこかから、この地上に降り立って生命や文明の基と築いた開拓者達の事である。庶民はこの事を具体的には知らない。一国の元首とその側近だけが知る事であって、今日まで脈々と受け継がれて来た情報である。今は当然ここに集う全ての人が共有する情報である。


今から200年前、この地球上から戦争と飢餓は根絶された。それまでの資本主義が崩壊して新社会主義になったからである。それにより大都市一極集中も無くなり、格差も消えた。もちろん人種の違いも関係無い。各国の議会が推薦して選ばれたのが地球の大統領であって、現在、その本拠地は本拠地は日本の四国州にある。


具体的には、各宇宙船には学問と人生経験豊富な「船長」、ハードウェア・ソフトウェアに詳しい「エンジニア」、生物学に詳しい「生物学者」の3人で、それが92隻=276名。何故92隻なのか?それは現存するバルーンの数からの逆算である。世界に現存するバルーンは248機有るが、人が乗って4トン以上の物資を運べる大型バルーン以外に、無人探査機(ドローン)が必要である。64機を解体してドローンを作った結果184機のバルーンしか残らない。各宇宙船にはバルーン2機とドローン6機が標準装備である。


バルーンの重力エンジンに必要な特殊な物質、バルーン・コバルトは、200年前にに落ちた隕石の軌道がが不自然だった事から発見された物質で。おそらくこの太陽系のどの惑星にも存在しない謎の物質である。物理的な推測は出来ても、結果的に今日まで類似品を作る事も出来ていない、


これから向かうその道程は数億光年~数十億光年なので、どんなに高度な技術を使ったとしても生命維持は不可能。だからこそ、最高技術でハンドメイドのアバターロボットが不可欠なのである。この長旅の間、その人間の脳に蓄積された記憶や感情、行動パターン等、全ての情報を、メインコンピュータにアップロードして、それがアバターロボットの脳として機能すれば、自然な人間性を維持出来るはずである。そういう前人未踏の計画である。過去に行われた実験で確認されているが、一人の脳に機能を完全に複製するには、どんな高速コンピュータでも数百~数千年は掛かると言われている。


単に記憶をダウンロードするなら簡単であるが、記憶だけでは人間として機能しない。人間が何かを判断したり感情を持つのは、常に複数の記憶が複雑に結びついて、それが感覚として、また別の記憶と結びつくからである。難しいのは、どの記憶とどの記憶が結びつく事によって感情が生まれるのか?また、その感情の結果どういう判断をするのか?プログラムは何億、何兆という可能性を見つけて、さらに、それらを総合的に判断する。もし、矛盾が有れば一からやり直し。これを無限に近い回数検証する訳である。5歳の子供なら短時間でも可能かも知れないが、大人はそう簡単には行かない。数百年~数千年?もしかしてそれ以上かも。


クルーが次に目覚めた時には、きっと普段と変わらない感覚かも知れないが、以前の有機体の肉体では無くロボットになっている。元の本人と全く同じ外見の、最先端のアバターロボット。しかし、骨格は強靱なチタン合金、皮膚も人間とは比較にならない程強靱な素材で出来ている。エネルギー源は電池なので、食べたり飲んだりする機能は無い。


何と無機質で味気ない。最初は人間性は保たれたとしても、これでは精神が病んでしまうのではないか。心配されるところではあるが、生身の人間と違うのは、自分の脳をスリープモードにすれば、時間の経過は全く意識しないで済むので、余計な事を考えたりする事は無い。飲んだり食ったり、色々楽しみたいのなら、スリープモードではなくバーチャルタウンをONにすれば良い。以前に生身の人間だった五感で感じる全てが味わえるし、遠くへ旅行に行く事も可能。AIの論理的な判断ではなく、五感で感じた事を判断の基準とする。これが最も重要な事と議決された。


人類の未来を議論する会議。といえば聞こえは良いが、非人道的なな議決もある。それは世界人口の削減であり、この議会の最初、200年前から実行されてきた。事実、10億の人口が今は1/10の1億に激減している。表向きには原因は太陽の不規則な活動による異常レベルの放射線とされているが、実際は科学物質による生殖機能の低下で、出生率を大幅に削減している。残念ながら大混乱を避けるにはそれしか方法は無い。避けられない事態に対して、スムーズに事を運ぶ為の最良の手段である。



●事実を公表する時が来た

世界人口が1億人を切って、いよいよ事実を公表する事となった。発表の時刻は国によって異なるが、前日に全マスコミが国家元首による重大発表があるので、全国民は各自の仕事を中断して、明日の正午に自宅でTVでの発表を待つ様に伝えた。世界が歴史上最も緊張する1日である。


理髪店の両親は臨時休業とし、カランと自宅でTVを観ていた。ルータ・モリモト大統領がこれまでの200年の経緯を語り、その後具体的な文明継承の手段を語った。勿論この地球も実はそういった方法で生命や文明が発祥した事も、大統領の言葉で初めて知らされた。ただ、最後に彼らは神なのか?について、

「私は彼らが神とは思っていない。もしそうなら、これから我々が派遣するクルー達が全て神なのでしょうか?彼らも神を信ずる人間です。神をはそんな小さな存在だとは思っていません。勇敢な276人のクルー達一人一人に神のご加護が有らん事を、是非皆さん祈って下さい。」


両親もカラン自身も強烈なショックである。お父さんは何か気付いた感じで、少し考え込んでいる。しばらくしてカランに尋ねた。

「お前、長距離探査に行く為に高性能ロボットを作ってると?」

カランも既にヘンだと思っている。でも、まさか自分がその役割か?自分が長距離探査に行く事は分かっているが、この役目?マークさんは知ってたのだろうか。

「勿論高性能ロボット作ってるけど、まさか、こんな重要な任務?で、神様のお手伝いみたいな?」

父さんはなんとなく確信してる感じで、

「そうか?俺はそうだったらいいな、と思っとるで。」

「ははは;;まさか、」

お母さんはじっとカランの表情を見ながら、

「カランが選ばれたんなら嬉しいわ。」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って、、、」

この地球が滅ぶのなら、長距離探査に行っても帰るところが無い。あれっ、もしかして。

両親ともに同じ目つきでカランを見た。二人とも確信がある様で、

「お前から言うか?」

お父さんはお母さんに話を振った。

「実は数ヶ月前から身元調査とか人物に対する聞き込みとかいっぱい有ったんよ。本人には絶対に言わないようにと。」

「そうやったん、でも、それは単なる選考調査であって、結果は分からんやろ?」

父親としては開拓者になって欲しい気持ち。母親としては最後の日まで息子と一緒に過ごしたいという気持ち。

カランには良く分かるが、顔をしかめて、頭を斜めに倒して、

「何か話が飛躍し過ぎとちゃう?」


マークさんは、これはお前の身体やから、絶対に手を抜かず真剣に作れと熱心に指導してくれた。でも、マークさんも今日まで本当の目的を知らなかったはず。ただ、長距離探査でカランが最高の活躍が出来る様に指導してくれたなら、何という素晴らしい兄貴なのか、涙が出てきた。


数日後、お父さんの勘は的中した。モリモト大統領から直々の書簡が届いた。

「カラン・パズルー様。貴方は成績優秀であり、優れた人間性と認めます。よって今回のフェニックス・プロジェクトに参加して下さい、これは、お願いでは無く命令です。数日後にご自宅、もしくは職場にお迎えに行きます。最低3日の猶予は有りますので、その間に身の回りの整理は住ませておいて下さい。命令に違反した場合には罰則がありますが、貴殿がその様な方では無いと信じております。」



●逮捕されました。

いつもの様にマークさんと仕事をしていると、所長が二人の警官を伴って作業場に入って来た。所長は満面の笑みで、

「カラン君、本当におめでとう!この工場からフロンティアが出た事を誇りに思うし、実に喜ばしい、ここで得た技術で、ぜひ人類の未来を切り開いてや。」

「は、はい。是非そうします;;」

カランは二人の警官が気になってしょうが無い。逮捕されるみたいな、、、

「カランさん、どうぞご心配無く。私達は貴方の警護が役目ですよ。」

「はあ、手錠を掛けられるのかと思った;;」

「ははは、そんな訳ないですよ。」


マークさんはずっと笑顔でカランを見ている。

「カラン、良かったなあ。まあ、せいぜい頑張ってや。」

所長も同感という感じでうなずいている。

「カラン君、この先も面会は出来るんで、これが最後やないで。」

「あっ、そうなんですか。」


警官二人に連れられてカランは訓練施設に入った。

最初に長々と説明を受けた後に、実際の訓練を目の当たりにした。既にアバターロボットは殆ど完成していて、動きの微調整を行っている段階である。

なるほど、自分は殆ど合格ラインギリギリの選択肢なんだと悟った。有力候補はとっくに動き出していたのだ、とハッキリ理解出来る。僕は補欠かな?


施設見学の途中、見知らぬ女性と男性がカランに歩み寄った。

「カラン・パズルーさんですか?」

「はい、そうですけど、」

「お待ちしてました。」

「えっ?」

「私達のチームに凄いエンジニアさんが来るって、楽しみにしてたんです。ああ、彼はミカエル・キナム船長です。」

船長はカランに握手を求めた。勿論カランは応じたが、

「あの、これって決まっていたんですか?」

船長とキャサリンは不思議そうな表情、キャサリンが言った、

「えっ!この3人がチームだと聞いてなかったんですか?」


まあ、これは単なる情報伝達のミス。とにかく人が少なくなってからは、この手のミスは増えている様だ。船長は理解している。

「まあ、最近は人的ミスは多いが、こんな現状なんだし、許容してくれな。」

「そうなんですか、これで大丈夫ですかね?」

「今更言っても、どうしようも無いと思うがね。」


その後、各自のアバターロボットとの完全リンクを目標として、数々の実験、テストが行われたが、完璧がどうか?それは誰にも分からない。何故なら、それは現在有機体である自分ではなく、ロボットとなった後の自分とのリンクが不透明だからである。しかし、心配するのは、これまで長年このプログラムに取り組んで来た、世界最高レベルの方達に対して失礼である。信じよう、いや絶対に信ずる。



●お別れ、そして出発

カラン達の乗る船はミッション番号112番、銀河庁に登録されているNo.112の太陽系に向けて出発する。ミカエル船長と生物学者のキャサリンの3名である。それぞれの家族や友人、大勢の人が見送りに来ている。3人は数ヶ月の共同生活で、かなり気心は知れた仲である。

「船長、ミカエル・キナム教授。生物学者、キャサリン・バック博士。エンジニア、カラン・パズルー博士。どうぞ壇上にお上がり下さい。」

それぞれの家族や友人達から拍手が起こる。

ただ、カランはちょっと落ち着かない様子。それもそのはず、博士号を取得したのはわずか1ヶ月前で、博士と呼ばれるのは全然慣れていないし、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。

「それでは、モリモト大統領から3人に任務を命令します。ルータ・モリモト大統領、壇上へお越し下さい。」

舞台の袖から大統領が現れた。その瞬間、見送りに集まった人々から割れんばかりの拍手が起こり、大統領は手を高く上げて振りながら拍手に応えた。

「皆さん、この記念すべき場所にお集まり頂き、どうも有り難うございます。今回はNo.112の太陽系に旅立つ、優秀で勇気あるクルーに任務を命令する為に来ました。」

大統領は3人のクルーの顔をしっかりと見て、軽く会釈して続けた。

「お集まりの皆さんは今回の任務の内容については十分にご理解されていると思います。彼らも私達と同じ様に死にます。私達は精神世界の楽園である天国に行けるかも知れないが、彼らが行く所は天国である保証はないのです。ロボットとなって生き続け、おそらくは過酷な任務を果たす事になるでしょう。この任務に志願した勇気ある彼らに、今一度、改めて敬意を表して頂きたいと思います。」

再び大きな拍手と歓声が沸き起こった。ここで側近から3通の文書が渡され、大統領の手から3人のクルーに手渡された。大統領直々の命令が下されたのである。

カランは思った。”志願した覚えは無いんやけどなあ。”まあ、エエか。


3人が乗り込む船は船齢35年の比較的新しい船。船名は112KINNAM、この112という番号は船の連番ではなく、銀河庁が認識している太陽系に割り振られた連番である。モニターに映し出された船には、その下にMichael Kinnam, Chatherine Bach ,Karan Pazrootの名前が刻印されている。実は3人がこの船を見たのは初めてであるが、そこに自分達の名前が刻印されている事には驚いた。長さ約30メートル、幅は約16メートル、ソーラー発電パネルは全長約40メートルx幅7メートルの小型船である。それに直径7.5メートルのバルーンが2機装着されているが、船の大きさに対してバルーンが大き過ぎるので、決してカッコ良い船ではない。



●出発の日

地上と静止軌道を往復する作業用バルーンの窓から、3人は自分達の船を真剣に観察しているが、カランは刻印された自分の名前を見て、任務の重大さに改めて気付いた様である。無言で一点を見つめているカランを見て、船長もキャサリンも何となく分かる。いつも陽気なカランが静かになっている。キャサリンがカランに声をかけた。

「カラン、いよいよ出発だね、112KINNAM号に乗って。」

「いや、ホンマに行くんやなあ、僕の名前も書いてあるし。」

実際に船を見ると、緊張感はどんどん高まるし、そこに有るのは人類最高峰の英知の塊である事がよく分かる。この船に自分達が乗るんだ。どれほど重大な任務なのか、改めて実感する。


しばらくしてブースターエンジンが視界に現れた。3人の視点はそちらの方に向いている。段々と近付いて来るが、その大きさにはビックリ!何とデカイ。驚いている3人の後ろでバルーンの船長が笑っている。

「驚きましたか。こいつで皆さんを1/4光速という前人未踏のスピードに乗せるんですよ。パワーは20億馬力以上。まあ、一気に全パワーは出さないんで、どうぞご安心を、ははは・・・」

やがてバルーンは船にドッキング。バルーンの船長は安全確認の後ハッチを開けた。3人は宇宙服ではなくジャージ姿。

「それでは皆様の大切な物をお預かりします。」

船長は結婚指輪、キャサリンは十字架のペンダント、カランはお爺さんのアナログ腕時計。船内に金属は持ち込めない。

「どうぞ乗船して下さい。ブースター接続は我々が責任を持って行いますので、マニュアルに従って船内の点検をして下さい。」

ミカエル船長はバルーンの船長に感謝の握手をした。これが有機体人類との最後の接触かな。

「有り難う。君の事は死ぬまで忘れないよ。」

「ミカエル船長、どうぞご無事で。任務成功を祈っています。」

「ありがとう。」

ハッチが閉じられた。


船体下部に取り付けられたバルーンによって、船には人工重力が生じるので地上と同じ様に活動出来る。これを開発したエンジニアは素晴らしい。重力が有ると無いでは全然違う。本当に有り難い事である。3人は船内の隅々まで歩き回って、それぞれ確認作業をしている。格納戸には3体のアバターロボットが直立で保管されている。ヘルメットを被って濃いスモークバイザーなので顔は見えないが、そこは何となく気味が悪い、3人ともちらっと見ただけで足早に他へ移動した。


他にも見たくない物は生命維持装置である。実際に自分達が死ぬ場所、どうしても棺桶に見えてしまう。3人はこれに入って旅に出るのであるが、生命維持はおそらく300年程度。その間に脳に蓄積された全ての情報を船のサーバーに移植する事になるが、非常に難しい作業だけに、本人が生きている内に全てダウンロード出来るのかどうか、多少不安はある。本人死亡の後、肉体は完全に化学的に分解されて宇宙に放出され、内部は完璧な新品状態に戻るという訳である。・・・本当に我々の命を繋いでくれるだろうか?今更そんな事考えてもしかたないが。


我々が有機体の人間として最後に行う作業は進路の微調整である。我々が有機体の人間である内はブースターは本来のパワーを発揮出来ない。そんな事をしたら有機体の人間は強大な加速Gによって即死である。だから、ブースターが本来の働きをするのは、実は3人とも死んだ後、おそらく300年後なのである。


目的地へ向けての最終微調整というのは3Km先のビール瓶を普通のライフル銃で撃つ様なもの。まあ、当たる訳は無い、しかし、出来る限り正確な方向に船を向ける必要がある。一旦推進ブースターが起動すれば、1/4光速にまで加速するので、そのスピードで航行している間には進路修正は不可能。次に進路修正が出来るのは船が反転して自動減速ロケット作動の後であるが、そこからの修正は極めて困難である。惑星が存在するなら、それを利用した逆スイングバイも可能だが、この航路にはそういった天体が存在しない殆ど真空である。


サーバーにダウンロードされた3人の情報は、意識する領域と、無意識の領域に分けられ、主に意識領域だけがそれぞれのアバターロボットのメモリー領域(ソリッド頭脳)にコピーされる。こうする事によって、人間よりロボットに近い合理的な行動や判断を下すはずであるが、それが良いとは誰も考えない。その程度で良いのなら、最初からロボットを送れば良い訳で、手間暇掛けて生身の人間を送る必要は無い。どうしても人間でなければならない理由は潜在意識である。ロボットには無い未知の可能性。それがどうしても必要なのである。だから、船のサーバーに保存された無意識領域は常にリンクし、必要に応じて供給されるという仕組みになっている。


ワームホールとかワープ航法を何故使わないんだ!という市民運動も各地で多発したが、これらは不可能なんだと説明するのに苦労した時期もあった。まず正確な地図が無い上に、宇宙空間が重力によって歪んでいる。どうやって目的地を設定出来るのか?このまま、この地球の文明が数百年進む事が出来るなら可能かも知れないが、残念ながら時間的に余裕は無い。だからブースターロケットとスイングバイという古典的な方法しか選択は出来ない。


3人は一通り確認し修正作業を行ったので、いよいよ棺桶に入る事にした。それぞれ自分自身で、自分の葬儀を行う。3人とも葬儀をするなんて考えてもいなかったが、いざ、その瞬間になって思いついた。船長とキャサリンは棺に手を置いてお祈りをしている。カランは立ち上がって、何か太陽崇拝の様な祈りをしている。その後棺桶のフタを開けると、そこにはキレイな花束が用意されていた。故郷の人達の優しい気持ちを抱きしめながら3人は眠りについた。




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