今日も桜が咲いている

烏川 ハル

第1話 宝ヶ池

   

 私が所属している学会では、毎年の学術集会は、だいたい10月か11月頃に行われる。今年の開催場所は京都なので、私は学会発表のために、久しぶりに懐かしい土地を訪れた。

 私にとって京都は、大学時代を過ごした青春の場所だ。研究者ならば誰しもそうだと思うが、学部学生の4年間に加えて、修士課程と博士課程の大学院5年間もあるので、一般的な『大学時代』の2倍以上となる。だからこそ京都は、まさに青春の思い出が詰まった場所だった。


 学術集会の会場は、宝ヶ池の近くにある国際会館。あの変わった形の建物だ。「京都といえば神社の多い土地であり、神社をモチーフとして設計された」という噂も耳にしたが、それよりも私は「宝ヶ池だから、池に浮かぶ船の形を模しているのではないか」と思ってしまう。

 もっとも、建物の正面に湖面が広がっているわけではないのだが……。ちょうど私が学生の頃にも一度、京都で学会が開かれたことがあり、その時も宝ヶ池の国際会館だった。昼休みに食後の腹ごなしを兼ねて、宝ヶ池公園まで出て、水辺を散歩したのが今でも記憶に残っている。


 とはいえ、その『今でも記憶に残っている』は、青春の思い出というほどではない。

 学生時代の私は、宝ヶ池を「かなり北の地域」と認識しており、その辺りまで遊びに行くことはなかったからだ。

 私にとって思い出深いのは、京都市内のもっと中心街だった。

   

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