第36話/沈黙
鬼童の飯を食わせられた俺たちは気力を消耗しながらもなんとか意識だけは保てた。
なんだか体の奥から熱い力が湧いてくる、なんとなくそう感じる。いや、そう思う様にした。
そして、沈黙が周囲を包みこみ、焚火のはじける音のみが聞こえて来る。
「鬼童」
その沈黙を破り、言葉を発したのが聖浄さんだった。
声を聴き、鬼童のおっさんは聖浄さんの方を見る。
「なんだ、聖浄ちゃん」
ぱちぱちと木が焼ける音。
聖浄さんは真剣な表情で鬼童のおっさんを見る。
「私たちは貴方の力を欲しています。道具小路真改の討伐にご協力下さい」
そう言うと、鬼童のおっさんは鼻で笑う。
「本気で言ってんのかぁ?そもそも、俺ァ辰宮のお嬢の駒だぜ?辰宮家は現状維持派だ。迷宮の術具を回収して生計を立てている連中だぞ」
「えぇ、貴方もそこに属している。その理由は」
聖浄さんは目を瞑り、誰かを想った。
それは恐らく、友人なのだろう。
「貴方の娘、鬼童
「………」
聖浄さんの言葉に、鬼童膝丸は押し黙った。
豪傑なおっさんではあったが、まさか娘が居るとは思わなかった。
鬼童膝丸は自らの三つ編みにした髭をなぞる。
「迷宮にゃ魔力がある、魅力と言う魔力。其処に入れば、病み付きになっちまう。それで俺は女房の異変にも気が付かなかった。後に生まれた娘にも、不治の病が見つかった、辰宮家は術具の宝庫だ。延命治療を行う術具もある、俺の目的は不治の病を治す薬だが……」
「その薬が、あるとすれば?」
聖浄さんが言う。
その不治の病を治す目論見があるのだろうか?
「伏間くん、地図を」
そう言われて、俺は聖浄さんの前に地図を開く。
聖浄さんは、眼鏡を外して、鬼童膝丸に差し出した。
「鬼童、私の眼鏡の能力はご存じですね?」
「術具の能力を認識すんだろ?」
聖浄さんは頷いた。
聖浄さんは『
「どうやら、その眼鏡は紙面上に書かれている術具の能力を確認出来る様子です。『匣』と書かれているものもありますが……」
その地図には、一つだけ『霊』と言う文字が書かれていた。
「『匣』を眼鏡で認識する事は出来ません、が……匣から出ている術具ならば、眼鏡でも認識が可能です。……噂でも聞いているでしょう。迷宮、『黄泉島』。其処にある『霊薬』、眉唾でしかなかった噂の話が、此処にあります」
「………確かに、術具なら、情報が見える……そうか、あるんだな、この薬が」
俺は知らない。
この迷宮では新参だからだろう。
だから、この二人が話している事は、古参の中で噂されている話なのかも知れない。
「この情報を以て、隊列に加われってか?」
「貴方が義理堅い人間であれば」
鬼童のおっさんは拳を握り締めた。
「辰宮のお嬢にも恩義があんだ……だからよ、少しだけ、待っとけ」
鬼童のおっさんは立ち上がり術具を下ろす。
「世話になったと言って来る。行こうぜ、霊薬探し」
そう告げた。
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