第33話/降参

「降参だ」


傷だらけの鹿目が両手を上げてそう言った。

鬼童のおっさんは、攻撃をしようか迷って、そして武器を下ろす。


「鬼童さん」


「負けェ認めてんだ。それ以上の追撃は弱いものイジメにならぁ」


息を付いて、鬼童さんは地面に座った。

肩から流す血液を止める為に、腕回りの袖を破いて、肩元に空いた穴に破いた布を突っ込んだ。見るだけで痛々しい止血の仕方だ。


「それよりも、聖浄ちゃんはどうした?」


俺は振り向く。

聖浄さんは、荒く息を吐きながらも、腹部に出来た穴は塞がっていた。

どうにか延命治療が成功したらしい。


「……お騒がせを、しました」


脂汗を流しながら、聖浄さんがいう。


「さぁって……聖浄ちゃんもなんとか生き残った事だし……」


重い体を起こす鬼童のおっさん。

俺は聖浄さんの近くに寄って、落陽を構えた。


「待て待て、流石に治療したばっかの瀕死体とやる気はねぇよ。飯ぃ食って、今日は休もうぜ」


俺は聖浄さんの方に顔を向ける。

青ざめた表情を浮かべる聖浄さんは、首を縦に振った。

鬼童のおっさんに同調し、休戦をしようと言う意味だった。


「おい兄ちゃん、手伝えよ」


鹿目の腕を縛り付ける鬼童のおっさんは、そのまま鹿目を建物の壁側に投げる。うっ、と声を漏らして倒れたままの鹿目。


「飯の準備だ、火ぃ点けてくれ」


そう言って俺に渡してきたのはメタルマッチだった。

文明的な利器が用意されて、俺はそう言えばと認識を再確認する。


此処は、日本だったんだ。

迷宮だとか、怪物とか、そういうのばかりに目を奪われて、当たり前な事を忘れていた。

てっきりここは異世界で、何処か現実味の感じない場所だったけど。

それでも、此処は現実なんだ。


「……」


「あぁ、そういや、悪かったな、兄ちゃん。乾燥している地帯だけどよ、燃えそうなモン、無かったわな。ちょっくら、飯を探しがてら、薪も持ってくらぁ」


そう言って、重たそうな体を動かして鬼童のおっさんがさっき居た森林へと戻っていく。

……。


「聖浄さん聖浄さん」


「……なん、ですか?」


聖浄さんは地面にに座りながら俺の声に耳を傾ける。


「今の内に逃げませんか?」


鬼童のおっさんが居たから、逃げる事は到底不可能だと思っていた。

だが、呑気にここから離れた以上、逃げる事も出来ると思ったからだ。


「……それは難しい、ですね、逃げても、鬼童は必ず追い付くでしょう……同時に、私の傷も痛みます……動いて、傷口が開くかも知れません」


「そう、ですか」


難しい、か。

それじゃあ、どうしようか。

何か、この状況から抜け出せる様な手でもあれば、そう考えていた矢先。


「大丈夫、です。私に、策が、あります」


と。

そう聖浄さんが話を持ちかけた。

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