第32話/交代

「っ」


手を翳す。俺が乗っかる眼球を移動しようとしたのだろう。

俺はその動きに合わせて眼球に向けて落陽を叩き付ける。

眼球が爆破すると共に移動し、俺は鹿目に向けて落陽を振り下ろす。


「くっ!」


接近し、落陽に当たれば無事では済まないと判断した鹿目は眼球から飛び降りる。

そして落下と同時に眼球を操作する。


「爆破、とッ!発火ッ!」


左右から眼球が俺を睨み付ける。

だが俺は骨殻の能力で背中に甲殻を築くと落陽で背中を叩く。

爆破と共にその場から高速で移動する。俺の背中は先程甲殻を築いた為に無傷に等しい。


「っ!」


落陽による一撃。

それは単純な移動の他にも、爆炎による眼球の視界阻害の役に立つ。

俺は既に眼鏡を通して接近した眼球の情報を入手していた。


眼球は『百々目鬼とどめき』と呼ばれる能力の一部。

眼球を自在に動かす事が出来、視界と共有する事が出来る。

ただそれだけの能力だ。だが、鹿目はその眼球を魔眼に改造している。

だから、複数の能力を眼球を通して発動する事が出来る。

そして、その魔眼の効力は、自らの視界に対象者が存在する事だ。


能力の原理上。視界に対象者が居なければ魔眼は発動する事は出来ない。

そして、俺は爆炎と煙によって魔眼の視界を遮った。

魔眼の能力は発揮出来ない。


「おおおおッ!」


落陽を振り下ろす。

鹿目も必死だった、体に巻き付く術具『百々目鬼』から眼球を発射して落陽の接触を直接避ける。

しかし、爆破による威力が俺たちを弾いた。

予め、俺は攻撃による予測が出来ていたから、着地に戸惑う事は無かった。

鹿目も同じだった。地面に四つん這いになる様にして、顔を此方に向けている。


俺は追撃をしようと走る、その瞬間に、俺の前に遮る物体があった。

豹原だ、何度も何度も殴られているのか、顔面がボコボコになっている。


「チェェ~ンジ!兄ちゃん!」


手負いの豹原を俺に押し付けて、鬼童のオッサンは鹿目の方へと走り出す。

完全に実力が豹原よりも鹿目の方が上だと悟ったのだろうか。

どちらにしても、関係ない。

相手を倒す事、これだけに注力していればそれで良い。


「殴られた恨み、終止符を打ってやる」


「て、メェ!お、大人しく、大人しく、あの時、殴られてりゃッ……!!」


ボロボロと涙を流しながら豹原が拳を固める。

氷の上を移動するスケーターの様に、俺に接近戦を持ちかける豹原。


「お前が居なけりゃ、お前が居なけりゃッ、あああああ!!!」


「お前に殴られた腹、痛かったな……今、それを晴らしてやる」


俺がそう言って前へと進む。

睨み付ける視線に怒りを込めた豹原の表情は一変した。


「ひっ」


何時までも弱者を弄る強者だと勘違いしているから、弱者の牙に怯えてしまう。

俺は落陽を振るう。コイツに出来る事は、精一杯の防御だけだった。

そして奴は、何故か腹部を守る様に防御を固めていた。

俺が腹を殴られた恨みを晴らすと言ったからだろうか。

別に、其処まで執着していない。

俺はがら空きになった頭部に向けて落陽を振り下ろし、爆破によって奴の顔面及び頭皮が破裂した。
















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