第5話 タグでつながるマリッジ

Side:ペコペコ丸


『キララ†氏、拙者とマリッジして欲しいでござる』


 と拙者はチャットに打ち込んだ。

 マリッジはこのオンラインゲームで結婚の機能を指すでござる。


『誰があんたなんかと。どうせデブのキモオタなんでしょ。語尾がキモイのよ。タイプじゃないわ』


 振られてしまった。

 悲しいでござる。

 推測が当たり過ぎて返す言葉がないでござる。


『ペコペコ丸、気を落とすなよ。所詮ゲーム』

『すまぬ、落ちるでござる』


 落ちるでござるとチャットしてマグカップにカップサイズのカップ麺を入れてお湯を入れた。

 拙者はもう武士言葉は辞めるでござる。

 俺は必要とされてない。

 駄目な人間なんだ。

 全てを投げだしてしまいたい。


 ふぅ、全てが虚しい。

 レベルが上がるとゲームも作業になるし、貢いでもゲームの中なのに彼女が出来ない。


 あのオンラインゲームにログインするのはもう辞めよう。

 何もやる気が起きない。

 これからは寝て過ごそうかな。


 割りばしを割りカップの中を突く。

 なにっ、何もない。


 アブダクションか。

 いったい誰が。


「助けて」


 誰も居ないのに声が聞こえた。


「ふむ、幽霊ヒロインとは萌えるな」

「オークに捕まりそう」


 おー、幽霊さんもゲームか。


「そのゲームに参加したいが、どうしたら良いのかな」

「何でも良いから、さっき料理を送ったみたいにして」


 なるほど、カップ麺はゲームの世界に逝ったということか。

 現実の物を送れるという事かな。

 ふむ、究極のVRというわけだ。

 マグカップがその入口だろう。


 防犯用に持っている唐辛子スプレーを送る。


「送ったから使ったらいい」

「何これ。きゃー」


「どうした?」

「急に霧が出たから」

「それを敵の顔面に吹き付けるんだ」


「こうね。やった。目をかきむしっているわ」

「続いて小麦粉を送る。敵の周りに撒くといい」


 手打ちうどんを打つ趣味があって良かった。

 20キロは備蓄してあるからな。


「やったわよ」

「続いてはヘアスプレーとライターを送るよ」

「受け取ったわ」

「少し離れたら、霧を吹きつけて火を点けろ」


 爆発音がした。

 上手くいったな。


「うわー、きゃー、耳がキーンとなって」

「倒したか?」

「何をいってるか聞こえないけど、気絶していたオークの首はかき切ったわ」

「助けになったようで何よりだ」


 ふむ、何かカップに送られてきた。

 タグのように見えるが。

 ドロップ品だろう。


 手に取ってみた。

 おー、パラメーターが表示された。


 俺の攻撃力は12だ。

 高いのか低いのか分からないな。

 これは現実がゲームになるという道具だな。

 面白い。

 生きる希望が湧いてきた。


 これを極めよう。

 まずは腹筋と腕立てだ。


 ふう、筋トレばかりして一日過ごしてしまった。

 おお、ステータスが上がっている。

 俺は生まれ変わってやるよ。


 この日からゲームをやる事を辞め筋トレに励んだ。

 三ヶ月経ち、今日は就職の面接の日。


「私は行かないって言っているでしょ。警察を呼ぶわよ」

「俺たちゃ警察なんか怖くねぇ」

「そうそう、呼ばれても身柄をかっさらっちまえば同じ事だ」


 ふむ、事案か。

 俺は声のする路地を覗いた。

 OLと思われる若い女の人が二人組に絡まれている。


「トラブルか? 助けが要るか?」

「助けて、この人達、遊びに行こうって離してくれなくて」

「そう言ってるが」


「ひっこんでろよ」

「痛い目に遭いたくなければな」


 男達はナイフを抜いて威嚇してきた。


「ふむ、遠慮は要らなさそうだ。ウインドハンマー」

「ぐぼっ」


「おい、どうした。いったい何をした?」

「ウインドハンマー」

「うごっ」


 魔法のやり方はタグに載っていたのだ。

 なぜか魔力も瞑想などの鍛錬したら伸びた。

 いいドロップ品を貰ったな。


「動画、撮ったわよ。この不思議現象の説明をして」


 あー、どうしようかな。


「急ぐので、これで」

「消えてもいいけど、動画をテレビ局に送るわ。名前教えなさいよ」

「名前はちょっと」

「それなら、SNSのアカウント名を教えなさい」

「まあ、良いけど」


 アカウント名を教えた。


「ちょっとこれ。ペコペコ丸のアカウントじゃないの。なりすまし? 嘘を言ったら、許さないわよ」

「いや本人だけど」


 俺はスマホで管理画面を見せた。


「えっ。私、キララ†よ」

「懐かしいな」

「あなた、本物の忍者だったのね。だから、あんな語尾を。実物はイケメンなのね」


 忍者とは違うがそういう事にしておくか。

 俺がイケメン?

 痩せて筋肉質にはなったが、変わってないだろう。

 高校の時の写真とさほど変わらない。


「じゃ、行くから」

「待って、電話番号を教えるから、後で絶対に電話してね。絶対よ。じゃ、なかったら動画が拡散するわよ」

「ああ、分かった」


 面接が終わり彼女に電話した。


「もしもし、ぺこぺこ丸だけど」

「ごめんね。あの日の事を謝りたくって、姫プレイでいい気になって心にもない事を言ってしまったわ」

「いいさ。昔の事だよ」

「ゲームのメッセージボックス必ず見てね」


 あのオンラインゲームは月額無料で課金アイテムがあるタイプだったから、アカウントはまだそのままだ。

 ログインした。


 メッセージボックスを覗く。

 何十件ものメッセージがある。

 古い順に見ていく。


ふにふにパニック:気を落とすなよ。

キララ†:さっきは皆が見てたから、ああ言ったけど。ごめん。言い過ぎた

ヤンバルカイナ:お前が居なくなって寂しいぜ

キララ†:まさか私の一言で辞めたんじゃないわよね。本当にごめん

ドクロン:また一緒にパーティ組もうぜ


 メッセージは励ましとキララ†の謝罪だった。


 そして、一番最近のメッセージは。


キララ†:マリッジしましょ。ゲームでも現実でもね


 おー、マリッジのお誘い。

 その後、彼女とは上手くやれている。

 就職も決まったし、あのタグにはいくら感謝しても、足りない。


『キララ†氏、時間を稼ぐでござる。大技いくでござる』

『任せて、ダーリン』


Side:駆け出し冒険者のサリー


 不味い、こんな場所にオークがでるなんて。

 討伐しようにも私の手に余る。


 べちゃっと何か落ちた。

 何?

 見ると背負いに付けたカップから美味しそうな匂いが漂ってきた。

 落ちたのは黄色いもじゃもじゃした物。

 オークはそれを見ると屈み地面に鼻を付けて盛んに匂いを嗅いだ。

 チャンスよ。


 武器を構えるとオークがぴくりと反応した。

 駄目。


「助けて」


「ふむ、幽霊ヒロインとは萌えるな」


 どこからが声が聞こえた。

 とりあえず状況を説明する。


「オークに捕まりそう」

「そのゲームに参加したいが、どうしたら良いのかな」


 訳の分からない事を言っているけど一か八かよ。


「何でも良いから、さっき料理を送ったみたいにして」

「送ったから使ったらいい」


 木のカップから筒が出て来た。

 慌てて手に取る。

 これ、どうやって使うのよ。

 上部を押すとぷしゅーと音がした。


「何これ。きゃー」


「どうした?」

「急に霧が出たから」

「それを敵の顔面に吹き付けるんだ」

「こうね」


 言われた通りにオークの顔面に吹き付けた。

 オークは苦鳴を上げ目をかきむしった。


「やった。目をかきむしっているわ」

「続いて小麦粉を送る。敵の周りに撒くといい」


 粉がとめどもなく出て来たのでカップを振り回しまき散らした。


「やったわよ」

「続いてはヘアスプレーとライターを送るよ」


 さっきの筒と同じような物が出て来た。

 そして何やら道具が。


「受け取ったわ」

「少し離れたら、霧を吹きつけて火を点けろ」


 筒から、ぷしゅー霧が出る。

 道具の動く部分を押すとかちっと音がして火が点いた。

 火は霧に燃え移り炎の鞭となって伸びた。

 立ち込める粉に炎が触れた時に大爆発。


「うわー、きゃー、耳がキーンとなって」


 ちょっと、爆発するなんて聞いてないよ。


「倒したか?」


 気絶したオークを確認して慌てて首をかき切る。


「何をいってるか聞こえないけど、気絶していたオークの首はかき切ったわ」

「助けになったようで何よりだ」


 何かお礼をしないと。

 私の持っている一番の財産は冒険者タグよ。

 再発行には金貨5枚取られる。

 木のカップに入れるとタグは消えて行った。

 ギルドに帰り、オークの回収を頼む。


「馬鹿もん、タグを無くしただと。命より大事だと教わったはずだ」

「すいません。再発行のお金は払います」

「当たり前だ」


 幸いにしてオークの素材で再発行のお金は足りた。

 カップは今、大事に保管してある。

 いつか声の主に会いに行くんだ。

 冒険してればいつか夢が叶うはず。

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