第5話 彼女と朝ごはん

「…痛って」

そろそろ、自分の寝床を確立したほうが良いな、コレ。

背中の痛みにうなだれながら、俺は目を覚ました。

時刻は午前八時。

「ふっふっふ…。おはよう」

「ああ、おはよう」

ルビアは、俺より早く起きれたことを自慢げにしている。

そういう子供っぽい一面を見せるルビアを、俺は可愛らしく思った。

さて、今日はやることがたくさんあるが、まずは……。

「とりあえず、朝ごはんにしようか」


俺は朝食を用意し、食卓に並べる。

ご飯、みそ汁、目玉焼き、ベーコン。何てことない簡単な朝食だ。

それでも、美味しそうに頬張るルビアは見ていてとても気持ちが良かった。

今なら行けるか?

「なあ、ちょっとお願いがあるんだけど――」

「何?」

「外出させてくれないか?」

ルビアの箸が止まった。

「ダメ」

ですよねー。流石にそこまで甘くはないよな……。

「即答かよ……。いやでも、ずっとこのままっていうわけにもいかないだろ?食料だっていつか尽きるわけだし。というか、そろそろ尽きるし……。それに、ルビアの生活用品揃えなくちゃいけないだろう。食器とかは何とかなっても、さすがに服とかはどうにもならないだろう」

「ぐ‥‥‥。確かにそうだけど、でもアンタがどこで何をするか分かったもんじゃない!」

確かに、監視対象を野放しにする犯人がいるわけはない。いたら、それは間抜けだろう。

だが、さすがにこのまま外に出られないなんて状態はまずい。

「はあ……。あのなぁ、俺にその気があったら昨日のうちにお前はもう逮捕されてると思うんだが?それに、今までチャンスがあってもそうしてこなかっただろ?――まだ、信用できないか?」

「だって!……だって、おかしいでしょ。アンタは殺人犯と同居しているんだよ?平気なわけないじゃん。それに、アンタは言った『殺されたくないから』って。だから、私の目の前から居なくなるのは許さない」

困ったな。確かに、俺はあの時そう言った。でも、それは本音を隠す建前だ。

本当は、君のことが好きだからかくまったんだ。

今、それを彼女に伝えれば、分かるように説明すれば。この監禁生活もお別れとなるのだろうか。

いや、まだそれを言うには早すぎる。だって、俺はまだ彼女のことを全然知らないのだから。

俺は、それを伏せたままでルビアを説得しなければならないということか。

「それは……、あの時はただただ、そう思っていたからそう言ったけど、――いや、今もその気持ちに変わりないのかもしれない。でも、今はそれだけじゃないんだ。君と話して、君が何かを抱えてることは分かった。まだまだ分からないことだらけだし、分かったつもりになる気もないけど、今君には居場所が無いんじゃないか?だから、今は君の居場所になってあげたいと少しは思ってるし、その気持ちに嘘はない。これでも、君は信用できないか?」

「……」

嘘はない。強いて言えば、俺が彼女に抱く気持ちの比率が違うくらいだ。

これでも、届かないなら、俺は未だルビアの居場所になれていないということだ。

最悪の場合、外出は諦めよう。幸い、今の時代は通販でも過ごせる時代だ。しばらくはそれでも問題ないだろう。

「……信用はできない」

そうか。でも、それも彼女なりの答えだ。けれど、諦めるつもりもない。彼女の信用を得るためなら、どれだけでも時間をかけるつもりだ。

「でも、私が一緒にいるなら、良い」

「は?」

「うぅ……、だから!アタシと!一緒なら!外出てもいいよって言ってるの!」

ルビアの顔が、まつ毛の本数が数えられそうなほど近づく。

「お、おお、落ち着けよ」

俺は、あまりの近さにたじろいでしまう。

ルビアも恥ずかしくなったようで顔を逸らした。

冷静さを取り戻したことで、俺はルビアの発言の異常さに気付いた。

「いや、ちょっと待てくれ。お前は仮にも、犯人っていう立場なんだぞ。そんな、人の前に出るなんて無理だろ?」

「……大丈夫よ」

「何が、大丈夫なんだよ」

「大丈夫なのよ」

「だから、何で」

「――私に戸籍はないから。だから、いくら探しても私が見つかることはないの」

「え?」

‥‥‥戸籍が無い?

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