第6話 「陽キャの生き方は疲れるだけ」

 凛花は恵太郎に向かって自分の過去を話し始めた。

中学時代に孤立していたことも含め。


「アタシさ……こーゆー性格だからさ……クラスの中で浮いちゃってね……かといって誰かと擦り合わせる方法が分からなくて……余計に誰にも話しかけられなくなってね……」


確かに凛花は自分から動く、アクティブなタイプなので、教師の指導方針に合ってない生徒が居ればクラス内で浮いてしまうのは仕方のないことではある。

凛花は更に一つ深呼吸を挟み、続ける。


「……一時期さ、アタシの悪口は全部耳に入ってくるし……かといって止めて、って言える感じでも無いし……正直アタシが自殺してしまえばクラスは楽になるかもな……って思ってた。信じらんないかもしれないけどホントのことなんだよ? あの時はこれといった趣味なんて……無かったしね。」


凛花の言葉に嘘偽りは全く感じられなかった。

そればかりか右目から一雫涙が溢れている。

本気で苦しんでいたのだろう、ということは鈍感な恵太郎でも分かった。


「……でも乃木さんはさ、コスプレに出会って今がある……そんな感じなのかな? 今の乃木さんって。」


恵太郎は更に踏み込んでいく。


「そー……だね。夏だったかな? ちょうど夏休みで……夏期講習から帰ってくあとだったからホントに覚えてるよ。たまたま通りかかったコスプレのイベントがさ、アタシにとってはどんだけ輝いて見えてたか……その時もしかしたら、って思った。『こんなダメなアタシでも輝ける場所はあるんだ』……ってさ? そっからは今まで見てこなかったアニメを全部見て……ラノベだったり漫画だったりも買ったりしてさ?? 人気になるためには何でもやった。その結果が今の……『火椎リンネ』だったりするんだ。」


凛花は手を後ろに突き、天井を見上げた。



 凛花の過去を聴いた恵太郎。

感慨深そうに一つ息を吐く。


「……信じられないな、僕から見たら……だってこんな輝いている人が……心を折られてる時があったなんて。とてもじゃないけど……言えないね、クラスには。僕だけの秘密にしとかないとダメだな、これは。」


「そーだね、栗巻くん。……アタシのグループにこの事バレたら……またあの時との二の舞になっちゃうからそれだけは、ね。」


「疲れてたりしない? 僕は知っちゃったから聞くよ? そういうの。」


「そりゃ疲れるよ! 陽キャをだなんてさ!? だいったいアイツらヲタクのこと馬鹿にしてくるから話合わせるのも大変なんだっての!! ……正直もう中学の時と同じ目に遭いたくないって思って頑張ったけど……やっぱアタシには全然だわ。出来る事なら栗巻くんのところに入ってアニメ談義したかった、でももうそういうキャラでいなきゃいけないし……」


恵太郎に対し、今まで溜め込んでいたであろう愚痴を零した凛花。

恵太郎は頷いて聴いている。

そして凛花にこんなことを言った。


「僕が言うのもなんだけど……乃木さんはすっごく努力したんだと思うよ。僕なんかじゃ無理だよ。友達を作ろうと努力した裏でコスプレも全力でやって……クラスメイトとしてじゃなくて……尊敬できる。だから乃木さんは本当にすごい人だなって思うよ?」


「……やっぱ聖人君子だわ、アンタは……アタシに対してこんなこと言ってくれる人、初めてだからさ? だからありがと、今日は特に……さ?」


凛花は、はにかんだ笑顔を見せた。

恵太郎にとってはそれは儚くも、どんな笑顔よりも眩しく見えていた。


「……僕の方こそだよ。僕なんかのためにわざわざコスプレしてくれたりして……乃木さんの昔のことも知れたし、コスプレに対しての情熱も伝わった……だからありがとう、それだけ。」


恵太郎は立ち上がり、凛花の家を後にしたのだった。




 恵太郎は帰り道、考え事をしながら帰っていた。


(……努力して乃木さんは変わった……僕もアレぐらい努力できたら……もしかしたら……)


しばらく考え込んでいると、ふと頭にひとつ思い浮かんできた。


(……やっぱり僕は乃木さんに振り向いてもらいたい……!! そのためには乃木さんに相応しいと思えるような男になんなくちゃいけない……! そのためには……!)


そして恵太郎は心の中で、密かに決意した。


(決めた! 僕はダイエットをする!!!! それで痩せて乃木さんに告白するんだ!!!)


恵太郎のこの決意が、自らや凛花の運命を変え、人生を180度好転させることに繋がるのだった。

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