第5話 凛花のキッカケ

 「今日一日付き合って」、と言われた恵太郎。

訳もわからないまま凛花に連れられた先はというと。



 凛花の家だった。


「え……?? 乃木さんの家??」


恵太郎はますます訳がわからずポカンとしていた。


「いーから上がんなよ。お茶くらい用意するから。」


凛花に促されるまま、恵太郎は家に上がっていった。



 凛花の部屋に入ると、アニメのDVDやアニメにもなった少女漫画や少年漫画の数々、ライトノベルなどなど、ズラーーーッと、そこら中の棚に並べられていた。


「……下手したら僕よりもあるかも……量が……」


「コスプレのバリエーション増やすんだったらこれぐらいはしなきゃいけないからね。」


凛花の努力の一端を見た恵太郎は感心していた。

それどころか自分と同じ趣味を持っているなど、人気者である凛花からは程遠い様なイメージだったから。


「あー、やっぱり! イシンヴァリアの限定版じゃんこれ!! 凄いなー!」


「ちょっ……勝手に触んないで!」


「ああ……ごめん、つい……僕も好きだからさ、これ。」


「ハー……まあ何でもいいよ別に……アタシの事知っちゃったから……どうせなら中身見せよう、って思って誘ったのよ。栗巻くん、いい奴なのはみんな周知の上だから。」


凛花はため息を吐いて今回恵太郎を誘った経緯を話した。


「……栗巻くん。」


「? 乃木さん??」


「……後ろ向いて。その……恥ずかしいから……」


「へ? ああ、うん……」


凛花は赤面しながら恵太郎に後ろを向く様に促し、恵太郎もまあ、良からぬ事を想像(?)しながら後ろを向いた。

凛花はクローゼットを開いた。

ガラララッ、という音が聞こえる。

凛花は箪笥たんすを開き、あーでもない、こーでもない……と言いながら漁っていく。

一方の恵太郎は、密かに気になっている凛花の着替えシーンを後ろを向きながら赤面しながら音だけを聴いていた。

理性を抑えるのに必死だったが、せっかちに振り向く様な真似はしない。

鼻で深呼吸しながら凛花が着替え終わるのを待った。



 数十分後、凛花が着替え終わったとの事だったので、恵太郎は後ろを振り向いた。


 すると。


 よりにもよって、恵太郎の紅焔のイシンヴァリア内での推しのメリエッテのコスプレだった。

聖女という設定なので、ヒーラーを思わせる露出少なめの服装ではあったが、凛花の美スタイルも相まって逆にセクシーに見える。(実際のメリエッテもなかなかの巨乳である。)


「どうかな? アンタ、このキャラ好きって感じだったし……」


恵太郎は何も言えなかった、というか、固まってしまっていた。

何せアニメの画面越しでしか見ることが出来なかった「推し」が目の前にいる感覚(錯覚?)に陥ったのだから。

思考停止もいいところだ。


「……栗巻くん!? どうしたの!? 何固まってんの!?」


凛花は恵太郎が上の空の状態を目の当たりにし、恵太郎の肩を揺すった。

恵太郎は我に帰った。


「あ、ああ……うん……すっごく……似合ってる……てゆーか……似合いすぎて……」


「大袈裟だって!! ……もー……これでも大変だったんだからね!? コレ完成させるために何回も試行錯誤してさ……?」


「やっぱり乃木さん、凄い人だよ。少なくとも僕には真似できないよ。」


「そりゃどーも。」


凛花は恵太郎の横に座る。

とはいっても人一人がもう一人分入れるくらいの距離感なのだが。


「乃木さんさ。いい? 一個だけ。」


「? いいよ?」


「コスプレ始めたキッカケってあった?」


凛花はこれを問われ、渋い顔になった。

苦い想いが渦巻いていそうな顔だった。


「ああ、いや、ごめん、話したくなかったら別に……」


「……聞きたい? ……学校でのイメージ……壊れるかもだけど……」


凛花は嫌そうな顔をしていたが、恵太郎は凛花の事をもっと知りたいと思っていたので、決意は固かった。


「……構わない。これだけ努力してる人が凄くないわけなんてないじゃないか。」


「分かった。実は……」


凛花は唇を噛み締める。

そして一つ息を吐いた。


「アタシ、中学の時……孤立してたんだ、クラスで……」


「え? ……の、乃木さんが……!?」


恵太郎からすれば信じられない様な事を聞かされたからだ。

驚くのも無理はなかった。


「信じらんないかもしれないけどさ? 本当のことなんだ。」


凛花は、続けて「火椎リンネ」の誕生秘話を語ることになるのだが、これが恵太郎の運命を180度変えることとなるキッカケを作るのだった。

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