第2話 意外な一面

 まさか乃木さんがアニメに興味があるとは……

恵太郎はそう思って、意外そうな表情を浮かべていた。

学校内での生活を見る限りでも、凛花はアニメに関連するかのような話題が一切なさそうな感じだったからだ。

人生って、本当に何があるか分からないものだ。


「っ………!! 栗巻くん!!」


凛花が血相を変え、恵太郎に詰め寄る。


「は、ハイぃ!!」


「……このことは誰にも言わないで!!」


赤面してプルプルと震えながら恵太郎にそう言った凛花。

何か隠しているというのは目に見えていた。

が、恵太郎は人が良すぎるので、そういった詮索するような性格ではない。


「僕の口から言えないよ!! でも……乃木さん……」


「何よっっ!!」


一気に剣幕を変える凛花。

恵太郎はその圧にビビっているが、お首には出さない。

慣れているから。

そしてこう言った。


「そのー……い、いいんじゃ……ないかな……? ラノベとかアニメが趣味でも……さ?」


恵太郎は、はにかみながら凛花にそう言った。

凛花の顔はますます赤くなる。


「バカッッッ!!!」


そういって、凛花は新刊で恵太郎の左頬をぶっ叩いた。

バフン! という音が響く。


(な……なんだったんだ……??)


凛花の理不尽な対応に訳がわからず、恵太郎は暫く唖然とし、立ち尽くしていた。


 だが、恵太郎は気づいてしまった。

凛花がアニメヲタクの気があると。

恵太郎は新刊と共に会計を済ませ、アニメショップの外を出たのだった。



 帰路に着いていると、恵太郎は再び凛花と出会った。

凛花はシケた表情をしている。


「……何よ? まさかアタシの後追ってきたの?」


「ち、違うって! 家、こっちだから……」


「……あっそ。」


凛花はそっぽを向いた。

どうやら弱みを恵太郎に握られた、とでも思っているようだった。


「そのー……さ、乃木さん……」


「ん……?」


「……コスプレ……好きなの?」


恵太郎は好奇心で聞いただけなのだが、凛花は露骨に目を逸らした。

レジ袋も後ろにサッと隠してもいる。


「な……なんのことかなー……? 栗巻くーん……??」(まさか見られてた!? コスプレコーナーでウィッグ探してたの!!)


「いや……その、何も目を逸らさなくても……」(え……? まさか……)


「ああ……あのね、い、妹に買ってあげただけなの!! 魔法少女の格好したい、って言ってたから!! それで一肌脱いだってだけ! アハハ……」


はぐらかすように凛花は笑うが、顔は明らかに引き攣っていた。

普通ならもっとグイグイ来るところなのだが、恵太郎は何回も言うがお人好しすぎるくらいにお人好しなのでそれ以上は聞かなかった。


「そっか……妹さん、喜んでくれるといいね。」


「そーだねー……それじゃあね、栗巻くん!」


凛花は足早に走り去っていった。



 (ハア……危なかった……流石「聖人君子のデブ」って言われてるだけあるわ……栗巻くんがお人好しじゃなかったら絶対バレてた……)


そもそもの話、凛花には妹はいない。

6個上の姉がいるだけだ。

……栗巻くんの口が堅いことを信じよう……うん、そうしよう!!

凛花はさっさと帰路に着いていった。



 一方、恵太郎は。


(………乃木さんって、あんな一面あったんだ……いっそのこと今度買い物にでも誘おうか……いやでも烏滸がましいな、僕なんかが乃木さんを誘うだなんて……)


凛花に対して葛藤を抱きながら恵太郎は自宅に帰り着いたのだった。

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