第16話 君がいるから

司にとって、東京は初めて見るものに溢れた刺激的な街だった。

新幹線から降りて、駅の外に出た少女二人を待っていたのはあまりにも多い人の波と、植物のように立ち並ぶビルたち。

「すごいよ、希。東京って、ビルが全部きらきらしてる。鏡みたいに写してる!」

司はなんだか本当に東京なんだという感じがして、希の肩を揺すりながら、少し興奮した面持ちでそう言った。

「さっちゃん、はしゃぎすぎだよ。」

希はそんな司を見て、楽しそうに笑った。

希にとって東京はいつも無機質で、冷たい感じがする場所だった。

それなのに司と一緒に見る東京はなんだか輝いて見えてくるのが少しおかしくて、でもなんだかむず痒いような幸せが押し寄せてくるのがわかった。

「希が一緒だからかな、こんなに沢山の人がいて、私の地元とはかけ離れたような場所で、それでもこんなに楽しいのはね。」

司は照れくさそうに、希の方を見て言った。

希は自分と同じようなことを司が思っていてくれたことが嬉しくて、このまま心臓が破裂するんじゃないかというくらいの喜びが込み上げてくるのを感じていた。

「私もね、司がいると全部が楽しくて、幸せで、本当に今二人でいられることが嬉しいんだ。」

だから、ずっとこうして二人でいたいと言おうとしたところで、希はそんなことを思ってしまった自分を誤魔化すように笑った。

希のポケットのなかでスマホが震えた。

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たった一人のあなたへ捧げる物語 香田 @blueandwhite

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