第13話 いざ行かん!

「本場の味はどうやった? ユーハイム以上に美味しかったりして。日本でもケーキ屋だけじゃなく、スーパーやコンビニでも手軽に買えるんやし。ドイツに行ったらそこらじゅうに売ってるんだろうなあ」


 はて、どうだったか。

 台湾や上海などにくらべると、ドイツはまだ数えるほどしか訪れていない。

 かすかな記憶を思い起こしてみるサクヤだったが、首をひねってもビールやソーセージしか浮かんでこなかった。


「ねえねえ、お姉ちゃん。本場のバウムクーヘンって、ものすごく美味しいんやろうね。一度でいいから食べてみたい」


 可愛さでは数段劣るカスミが、潤んだ瞳でサクヤにおねだりをしている。

 愚妹の頼みとあっては、美人できれいで可愛くて賢き姉であるサクヤは、無碍に断れなかった。

 これはぜひとも渡独し、本場の味を確かめなくてはならない。

 いざ行かん、ドイツへ!

 けっして、はやく孫の顔がみたいとぼやく母親から逃げるためではない。

 違う、断じて違うのだ。

 

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